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瓜生くん|#シロクマ文芸部

「閏年2012年生まれで、2月28日が誕生日です」
「「えーーっ、なんか惜しい!」」
瓜生 俊成うりゅう としなりと言います」
「「閏年なり… すげー!!」」

もうすぐ小学校を卒業する頃になって転校してきた瓜生くんは、たちまち有名人になった。

父親の仕事の関係で、社宅を出るタイミングが2月となった。それまで通っていた小学校に未練はとてもあったが、近くに親戚や頼れる知人もいない。仲良しだった友だちと同じ中学校に通えないのなら、いつ転校しても同じだと考えたが、やっぱり… 辛い。


「瓜生くん、ドッジボールしよう!」
「いいよ。入れて!」

昼休みにみんなでドッジボールをした。前の学校では、ボールを持っていられる時間(5秒)を「一、ニ、三、…」と、外野の誰かが必ずカウントしていたけど、今度の学校は言わない。でも、ズルはしていないみたいだ。良かった。

「瓜生くん、好きな歌って何?」
「やっぱ、アニソンかな。鬼滅きめつのOPは最強だと思うけど…古いかな?」
「俺も好き!いい歌はいいよな」

給食の時、校内放送で『今日のリクエスト曲』に好きな歌が流れた。食欲も激揚がり!リクエスト者名で自分の名前が言われた時は、牛乳を吹き出しそうになったけど。クラスからは「やった〜!」と何故か拍手が沸いていた。

「瓜生くんは、どんな大人になりたい?」
「えっ、どんな大人?仕事のことですか?小さい頃はパイロットがかっこいいとか思っていたけれど、今は別に。自分の得意なこととか好きなことが、よくわかっていない感じだし。サッカー選手になってみたかったり、体育の先生もいいかなとか思ったり、南極とかの探検隊も憧れるし。でも、普通の会社員も嫌じゃない。お父さんを見てると、すごいなぁって思う」
「それ、作文にして書いてくれるかな」

先生に言われて作文を書かされた。他のみんなも書いたようだけれど、僕のだけ何度も清書させられた。そう言えば、前の小学校では『中学生になったら』という題で、作文を書かされたっけな。確か、サッカー部に入って頑張りたいって書いた。

僕は中学受験とかする気もなかったし、そういう状況でもなかったから、そのまま地元の中学校へ進学する。でも二人だけ、受験で遠くの私立中へ進む人がいた。

「瓜生くんは、転校するの嫌じゃなかった?」
「嫌だったけど、どうしようもないじゃん」
「そうよね。友だちと別れるのって、どんな気分だった?」
「最後の日にクラスのみんなとお別れ会して…手紙とかプレゼントもらって… 教室を出たら「もうみんなと勉強することないんだな」と思ったら… あ、また涙が出そうだ…かっこ悪いよな」
「ごめんね。思い出させちゃって。好きな子とかいたら辛かったね」
「クラスのみんな、大好きだったよ。本当に」

女子校に進む女子から質問されたけれど、何かの参考になったのかな。お礼だかなんだかわからないけれど、バレンタインデーにはチョコをくれたし、誕生日には鬼滅キャラのボールペンをくれた。

卒業式は、中学校の制服を着る人とスーツを着る人と、女子は和装する人がいたりする。僕は制服の準備が間に合わなかったから、従兄弟からスーツを借りた。従兄弟みたいにピアノを習っていて、演奏会とかで着る必要があればスーツも必要だろうけど、サッカー馬鹿だったからなぁ。トレパン系やスポーツシューズならいろいろあるけど。中学も学ランだから、ネクタイ締める機会も当分ないだろうし。


「瓜生くん、なんだかピアニストに見える!」
「意外とカッコよかったんだね」
「ジャージー姿みたいなのばかりだったもんね」

急に女子が集まってきた。なんだよ、馬子にも衣装だってか?女子校に進む女の子は、そんな僕を遠くから見ていた…気がした。


卒業式は滞りなく進み、最初で最後の校歌を歌ったり、ほとんど知らない在校生たちの拍手で見送られて閉会し、教室に戻った。

いつもと全く違う服装をしたクラスメイトのいる教室は、転校したての日と同じような気持ちになる。ほんの2ヶ月程度しか在籍していなかったけれど、少しはこのクラスに馴染んでいたのかな…と思いながらも、前の小学校の友だちのことを思い出して涙が浮かんだ。

担任の先生から卒業アルバムが配られた。僕は製本ギリギリの転入生だったから、名前の追加と集合写真の片隅に丸く小さく載っているだけ…

「おーい、このクラスだけ付録があるぞ!」

先生はパンフレットみたいなものを配った。なんと僕が転入してからの、ちょっとした記事の載った手作り新聞だった。ドッジボールの時の写真や、校内放送のこと。もちろん『大人になったら…』の作文も、直筆(パソコンで打ち直してくれたら良かったのに)で載っていた。クラスみんなからの一言メッセージもあった。

「瓜生には、もう一つあるぞ!」

なんと、転校する前の小学校の卒業アルバムが届けられた。僕は転校しているのに、ぼくのこと消さないで、僕の作文もそのまま載っていた。


僕は嬉しくて涙が溢れた。

[約2000字]

自分が中3の変な時期に転校した時のモヤモヤした気分とか思い出しながら描きました。

#シロクマ文芸部
#閏年

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