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思い出注意報【没ネタ SS】

今日は小学校6年の時担任だった丸山智子先生の定年退職送別会と兼ねての同窓会だ。先生やみんなと会うのは何十年ぶりだろう。

この日のために、卒業アルバムや文集などを元にスライドビデオを作ったと聞いている。学級委員だったKや新聞作りが大好きだったSなどの幹事が、頑張ってくれたんだな…と思う。招待状には『ハンカチをお忘れなく』の一文もあった。懐かしくて涙も出るだろうし。

会場に着くと、胸がいっぱいになった。先生も級友たちも、容姿は変わっても面影はそのままというか… 変わっていなかった。何十年も経つのに、あの頃と同じように話が弾む。いいな、この感じ!

「さて、元6年1組丸山智子先生クラスの皆さん。お待たせいたしました。これから丸山先生への感謝の意を込めて、懐かしいワンシーンスライド上映を始めます。」
学級委員Kの紹介と共に、会場が少し暗くなり、壁面に『ありがとう丸山智子先生』の文字が現れた。拍手喝采。

「えっ?ちょっと待って?何で、これが…」
それは修学旅行のバスの車中の写真だった。トランプを楽しんでいる友人の横で、一人爆睡している自分の姿がピンポイントでズームUPされている。
「アハハ!あの時のお前、死んだように眠ってて、バスガイドさんの話とか全く聞いてなかったよなぁ!」クラス大爆笑。懐かしい思い出だけれど、これは厄介だ。ひょっとして、こんな調子で続くのだろうか…

次のワンシーンは卒業文集のKのページだった。タイトルは『将来の夢』
「えっ?次、俺?やめてくれ〜〜!!」
会場にKの悲鳴が響いた。まぁ、気持ちはわかる。大真面目に『総理大臣になりたい』と書いていたから。でも、真面目なKだったから誰も馬鹿になどしない。あの頃はみんな「Kならなれる」と思っていたし、実は今でも「Kが総理大臣ならいいのに」と思う人もいる…と思う。

次のワンシーンは運動会の…校庭で親子昼食しているSの姿だった。
「わぁ!改めて見ると、スゲェな!」
そういえば運動会や遠足などのお弁当の時、毎回Sの家は豪華だった気がする。
「もういいから、次の映して…」
Sの顔は真っ赤だった。お酒のせいだけではないだろう。

こんな感じで次々と、級友たちの思い出のワンシーンが映し出され、誰もが自分の番になることを戦々恐々の気持ちでいた。台風が接近する時の暴風注意報、警報を聞いているような。この場合は、思い出が台風の代わりという感じか。そしてハンカチの意味は冷や汗を拭う…そんな意味だった。

さて、先生の様子は…と見ると、思い出と爆笑とでハンカチが何枚あっても足りないほどの洪水警報発令中だった。

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某イベントに投稿できなかったショートショートを字数制限とかは考慮せず、再編纂してみました。(字数は 1092)

※ 2024.3.31 ハッシュタグ付け

#itioshi

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