BUNGEI-BU12|#シロクマ文芸部(約900字)
「レモンから連想されるのは、やはり梶井基次郎の『檸檬』だよね」
「いや、米津玄師の『Lemon』だろ?」
「文芸部なら、高村光太郎の『レモン哀歌』とか出して欲しかったな」
「別に歌だっていいだろ?さだまさしの『檸檬』もあったな」
「なかなか古いのを出してきたな」
「マカロニえんぴつの『レモンパイ』はどうだ?」
「♪揺れながら 少し悲しいキスをしたい
夜の長さに飽きたのだ
甘くて残したレモンパイ♪ てか?」
「お前、知ってんじゃん!」
能戸高校文芸部の自称部長と会長は、今日はいつもの部室…図書準備室ではなく、本屋の中にいた。
レモンの日(レモン忌:10月5日)の1ヶ月前に本屋(◯善)にいたから、なんとなくレモン…もとい檸檬を連想したのだろう。
高校三年の二学期は、大学受験でいろいろとナイーブになる。でも、こんな風に語り合える友がいることは、とても心強い。
「お前って本ばかり読んでるかと思ったら、歌も聴くんだな」
「そう言うお前もそうだろ?まぁ、心に刺さる歌はすぐに覚えるよ。レモンパイ… 切ないじゃん」
「確かに。で、お前って誰か好きなやついるのか?だから心に刺さるのか」
「い…いないよ」
「あやしいな」
受験戦争の真っ只中だけれど、17、18の年頃の男子なら誰かに密かな恋心を抱くのは当たり前。
「もしかして… カオルとか?」
「まさか!カオルはありえねぇ」
「だよな」
結局、二人とも自分の想い人のことはそこ(本屋)では披露せず、「そういや、もうすぐ鏡花忌(9月7日)だな」「えっ、英治忌(9月7日)だろ?」と文豪の命日の話などに変わり、本屋を出た。
「あいつらにレモン投げつけてやりたいわ」
本屋の奥には偶然カオルがいて、会話を聞いていたのだった。
後日、自称部長と会長はカオルから「あなたたち、レモンって漢字で書ける?リンゴやミカンやブドウは楽勝よね?文芸部ですものね」と、突然漢字テスト紛いなことをさせられた。
「「なんなんだよ」」
「ほら、入試で出るかもしれないでしょ?あとは食欲の秋だからかしら。ふふふ」
二人は『やっぱり恋愛対象にカオルはあり得ない』と確信した。バレンタインの義理チョコですら、彼女からは欲しくない…そんな彼らであった。
漢字は辛うじて書けた。
受験前の慌ただしいひとときの文芸部。
個人的に『レモン』と聞くと、さだまさしの「檸檬」が先に頭に浮かび、それから梶井基次郎の「檸檬」になります。で、さだまさしの歌はあれこれ計算ずくな感じがしながらも好き…なんて思ったりしてました。(何故か過去形)
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