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航空自衛隊千歳基地 視察報告

※本報告書は千歳市における視察当日の資料及び「令和4年度千歳市と基地」を引用あるいは参考に作成しています。

<期 間>
令和年 6年5月14日(火)・15 日(水)

<視察先>
1.北海道千歳市
2.航空自衛隊千歳基地
3.防災科学館「そなえーる」

<調査事項>
1.千歳市の基地対策について
(ア)千歳基地と市の変遷
(イ)千歳飛行場の官民共用の歴史と現状
(ウ)米軍再編の影響について
(エ)自衛隊と地域住民との交流について
2.航空自衛隊千歳基地 (現地視察)
3.防災科学館「そなえーる」(現地視察)
4.令和 6年度基地周辺対策経費について

<地勢>
千歳市は、北海道の中南部・石狩平野の南端に位置し、市域は東西に細長く西高東低の地形となっており、4市(札幌市、苫小牧市、恵庭市、伊達市)4 町(由仁町、長沼町、白老町、安平町)に接しています。西部は、支笏湖とこれを取り
囲む山々(樽前山・恵庭岳)や森林からなる国立公園支笏湖地区に指定されており、北海道中央部の温泉があるレクリエーションの場として賑わっている。

千歳市

この日本最北の不凍湖支笏湖からただひとつ流れ出る清冽な千歳川は、市街地を貫流し、さけの遡上母川として知られる。また、市域の中央部はほぼ平坦で、市街地を初め工業団地、飛行場、農用地、防衛施設に利用され、東部は丘陵地帯で、畑作や酪農を中心とする農林業に活用されている。なお、支笏湖を含む一帯が国有林のため山林が市域の約53%を占める。 (令和4年度版 千歳市と基地)

<特徴>
世界に開かれた国際都市であり、令和元年新千歳空港の年間乗降客数は約2,459 万人 (国內線 2,073 万人/国際線 386万人) 、令和元年新千歳-羽田間の年間乗降客数は約1,018 万人となっている。平成 10 年 4 月には 21 世紀を牽引する産業を育成するため、世界的水準をもつ光テクノロジーを専門とした千歳科学技術大学の開校。最先端企業が集まる工業都市として発展。輸送ネットワークが整備された 道内最良の工業適地であり、工業団地に270社超の企業が立地、また、ラピダス株式会社の千歳市への立地が決定(令和 5 年 2月) 。

建築中のラピタス千歳

世界文化遺産である国指定史跡キウス周提墓群が海道・北東北の縄文遺跡群の一つとして世界文化遺産に登録(令和 3 年登録)されており、守猟採集民の築いた構造物としては世界的にも最大級である。

1.千歳市の基地対策について

(ア)千歳基地と市の変遷

① 初期~終戦

千歳飛行場の歴史は大正 15 年 8 月から始まる。小樽新聞社が自社の飛行機で千歳の上空を飛行することを聞いた村民が、着陸した機体を間近で見てみたいとの思いから、老若男女の別なく整地に奉仕し、大正 15 年 9 月、約 7 千坪の土地の整地が完了した

北海1号(令和4年度千歳市と基地より)

小樽新聞社機北海1号機を着陸させたのを契機に千歳飛行場設置の気運が高まり、年号が変わった昭和9年10月には、村費と王子製紙、伊藤組(札幌市)などの寄付によって、着陸場を一挙に約4万5千坪に拡張。市民の手による歴史に残る大事業として完成し、千歳飛行場は正式な開場を果たす。その後、軍事上からも注目され、千歳飛行場は海軍航空隊飛行場として正式に決定。

昭和 14 年 10 月には、海軍航空隊開隊式を行ない、基地への様相を深めていった。千歳海軍航空隊の設置により、人口は増加し 1 万を超え、昭和 14 年 4 月には 1級町村制施行、昭和17 年5 月には町制を施行した。

昭和20年8月30日、太平洋戦争の終結によって、海軍が解隊されたため、一時は人口も半減したが、同年 10 月 5 日、連合国米軍の進駐によって、滑走路・格納庫などの飛行場施設と通信施設が整備され、町は再び活気をとりもどした。占領下において、基地は近代設備とともに、北方最大の重要拠点として発展を遂げた。

② 戦後~現代

昭和29年には朝鮮戦争終了に伴い米軍は撤退を開始。昭和32年8月に航空自衛隊千歳基地開庁し、浜松より航空自衛隊第2航空団が移駐。町は急速に発展しはじめ、同33年7月には北海道で24番目の市制施行となる。

昭和36年千歳飛行場の軍民共用開始。人口も5万人に達する。その後、昭和45年には、地対空ミサル「ナイキJ」 を擁する第3高射群が編成される。その後、昭和50年6月30日には米軍千歳基地は完全に閉鎖し、30年にわたる駐留に終止符が打たれた。昭和46年北海道縦貫自動車道開通(北広島IC~千歳IC)の後、鉄道網の発達、新千歳空港の開港など交通ネットワークが有機的に結びつく交通拠点へと発展していく。

昭和61年10月には第1基地防空が編成され、平成2年3月1には第3高射群の改編とナイキJ(※1)からペトリオット(※2)への換装、第3移動通信隊が新設され、平成8年 3月からは、それまで千歳救難隊に配備されていた、MU-2型救難機に変わり、U-125Aが2機配備された。

平成10年7月には、基地防空部隊(第1基地防空群等)が改編され、 (第2航空団に編入)及び基地防空教導隊が新設され、平成22年3月に は第8移動警戒隊が三沢基地所在の第1移動警戒隊と統合され第1移動警戒隊となる。

平成27年10月には、第3高射群に弾道ミサイル対処のためペトリオット 、防空体制の強化が図られるとともに、これまで、配備されてきた戦闘機もF-104からF-4EJ、F-15Jへと変わり、北の一線部隊として態勢を整えてきた。

また、平成4年4月には、政府専用(B747-400型2機)の管理運用を行う臨時特別航空輸送隊が編成され、平成5年6月1日、わが国初の特別航空輸送隊に配備。政府専用機(B747)は、平成31年3月をもって退役し、B777-300ER2 2機が配備され、4月より運用が開始されている。

※1:日本の航空自衛隊の地対空ミサイル1958年アメリカ陸軍が実用化したナイキ・ハーキュリーズを非核弾頭専用に改造して67年に採用。

※2:アメリカ合衆国のレイセオン社がMIM-14 ナイキ・ハーキュリーズの後継としてアメリカ陸軍向けに開発した広域防空用の地対空ミサイルシステムである。現存する地対空誘導弾のなかでは最も優れたシステムといわれている。

(イ)千歳飛行場の官民共用の歴史と現状

昭和26年春に民間航空が再開し、同年9月には千歳飛行場は北海道空港として指定され、同年10月26日から、東京~千歳の定期航路が開始された。

昭和36年11月には、東側滑走路が完成し、民航区域が第2航空団と相対した国道36号沿いに設置され、昭和39年に整備が一応完了。 その後、昭和63年の新千歳空港の開港、平成8年新千歳空港B滑走路の供用開始に伴い、千歳飛行場は官民分離が行われ、現在に至っている。過密度が高く、千歳管制隊が民間機、自衛隊機などすべての管制を行っている。

(ウ)米軍再編の影響について

在日米軍再編に係る訓練移転問題については、騒音加重が避けられないなど、受け入れに対する反対意見もあったが、国の専管事項に関する事項であり、国と千歳市における協定の締結、騒音対策の推進、事故・事件に対する国の責任ある対応、関係機関による連絡協議会の設置、市の要望を踏まえた地域振興策の実施が確認できたことなどから、訓練移転の受け入れはやむを得ないものと判断した。

① 訓練移転の実施状況

平成20年2月25日から令和5年10月4日までで計12回の訓練移転が実施されたが事故事件は発生していない。

② 騒音対策

国は、訓練移転計画を踏まえ、必要に応じて騒音度調査を実施し、その結果を受けて、適切に対処する考えであり、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律に基づくなど、障害の実態や地元の意向を踏まえ、各種の周辺対策を進めるとしている。住宅防音工事など、予算枠を増額確保し、その推進を図っていく。

千歳飛行場・新千歳空港の飛行状況としては、令和元年度の民間飛行機離発着回数が154792回、自衛隊機離発着回数が12025回、令和4年度は、民間飛行機離発着回数が137450回、自衛隊機離発着回数が11962回となっている。自衛隊の設置・運用に係る苦情状況は令和4年度、合計で73件(騒音69件)。

②―1 令和4年度騒音調査

青葉丘局(80・93・113・27)
住吉局(78・88・111・21)
東雲局(74・92・117・14)
寿局※(73・83・107・139)
北斗局(63・80・102・7)
里美局(58・78・192・2)
駒里東局(59・69・93・10)
根志越南局(69・81・103・19)
以上の8カ所で測定されている。

カッコ内はそれぞれ(R4 年間W値・日最大 W値・㏈最大値・日平均測定回数70デシベル以上)※寿局は民間航空機の騒音

②―2 住宅防音工事の実施状況

③ 千歳飛行場周辺移転措置事業

国は、環境整備法第5条により、自衛隊等の航空機の離陸、着陸等の頻繁な実施により生じる音響に起因する障害が特に著しい区域を定めて、当該区域にある建物等を区域外へ移転又は除却する場合において、予算の範囲内でその損失を補償している。

③-1  移転措置事情の実施状況

※集団移転は昭和58年から平成7年にかけて実施

④ 防衛省に対する要望事項
住宅防音助成に関しては、㋐助成対象区域の拡大(75W→70Wへ拡大)㋑現行の対象区域における告示後住宅を助成対象とすること㋒待機世帯の早期解決などを要望している。砲撃御対策に関しては、演習場周辺における砲撃音や大規模爆破訓練等に対する影響調査と対策の早期実施を要望している。

⑤ 騒音地区住民の活動 「千歳飛行場騒音地区整備協議会」

平成19年3月に騒音地区(75W地域)町内会長66名による「千歳飛行場騒音地区整備協議会」が設立。在日米軍訓練移転に伴い騒音加重を受ける千歳飛行場騒音地区の環境整備を促進し、地域の発展と福祉の向上を図ることを目的に、騒音加重を受ける飛行場周辺地域の環境整備に関する陳情・要望及び調査研究を行う。令和 4 年度は、千歳市、北海道防衛局、防衛省、道内選出国会議員等へ要望活動、2月には宮崎県新富町への視察を行っている。

要望事項としては、重点要望事項として、住宅防音工事の対象区域の拡大、告示後住宅の解消、待機世帯の解消、外郭防音工事の対象区域の拡大など。要望事項として、速やかな情報提供、米軍再編に係る千歳市との協定の遵守等。

⑥ C経路について

C経路(緑線)

通称「C経路」とは、陸上自衛隊東千歳駐屯地と北海道大演習場を結ぶ、指導及び一般国道からなる園長10キロメートルの公道で、一般の自動車等が通行するほか、戦車等の装機車を含む自衛隊車両が自走により移動する往路である。

装軌車両が通行する際の騒音・振動、交通障害などの課題を抱えていたが、JR及び国道との立体交差化により交通障害を緩和、また、コンクリートによる舗装からハイキャタアスファルト舗装にすることで振動の問題はなくなっている。

C経路のまちづくり事業の一環が防災学習交流センター「そなえーる」の設置とである。

(エ)自衛隊と地域住民との交流について

市内には陸上自衛隊2駐屯地、航空自衛隊1基地が所在する。各部隊に配属されて いる自衛隊員とその家族等を含めると人口の約25%を占めており、町内会活動やスポー ツ・文化団体での活動などを通して、市民生活と大きな関わり合いをもっている。さらに、各自衛隊組織は、自己完結組織の特性を生かし、防災会議や総合防災訓練などにも積極的に参加している。

(1)空自衛隊千歳基地や東千歳駐屯地北千歳駐地開催しているイベントについて
令和6年上半期に予定している行事は以下の通り。
①7師団創隊69周年·駐屯地創立70周年記念行事(5月25日開催予定)
②第1特科団ユーカラコンサート2024(6月22日(土)開催予定)
③第1特科団創隊・北千歳駐屯地開庁72周年記念行事(6月30日開催予定)
④北部隊夏祭り(7月27日開催予定)
⑤千歳のまちの航空祭(9月15日開催予定)R5年度時来場者数約63,000人

(2)町内会やボランティア活動について
市内で実施される各種行事に参加していただいているほか、隊員及びOBが町内会活動に積極的に参加している。主な行事俳諧のとおり。
①千歳ウェルカム花ロード(5月実施 新千歳空港周辺の沿道に花を植栽)
②千歳川清掃(8月 千歳川の清掃)
③スノーバスターズ(2月 高齢者住宅の除雪)

(3)市へのイベントに協力について
令和6年度上半期で予定し、協力依頼を行っている行事は以下の通り。
①6/2(日)千歳JAL国際マラソン(通信、救護、給水)
②7/13(土)千歳市民夏まつり(第7音楽隊・機甲太鼓による演奏)
③7/13(土)~15(月)スカイ・ビア&YOSAKOI 祭(音楽隊による演奏)
④9/15(日)、16(月)インディアン水車まつり(第7音楽隊・機甲太鼓による演奏)

2.航空自衛隊千歳基地 (現地視察)

航空自衛隊千歳基地には、地対空誘導弾などを装備し重要区域を防空する高射部隊のほか、飛行場機能を維持する施設部隊、捜索や救助活動に当たる救難部隊、政府専用機を運用する特別航空輸送隊などが配備されている。各部隊は、国防の任務にあたっているほか、国際平和協力活動や国際緊急援助活動などに参加し、国際社会の平和と安定に貢献するとともに、大規模災害が発生した際には、人命救助、生活支援などの災害派遣活動を行っている。

部隊組織は、①第2航空団、②第1移動警戒隊、③第3高射群、④北部航空施設隊第2作業隊、⑤千歳救難隊、⑥基地防空教導隊、⑦千歳管制隊、⑧千歳気象隊、⑨特別航空輸送隊、⑩第3移動通信隊、⑪千歳地方警務隊の11部隊で構成されている。説明のあった主な各部隊の任務は以下の通り。

① 第2航空団(現地視察)

第2航空団は航空自衛隊として最初にできた戦闘航空団であり、F-15(イーグル)2 個飛行隊(201、203飛行隊)を持つ。北部日本全空域での領空侵犯に対する対処、防空行動及び陸上自衛隊の地上行動又は海上自衛隊の海上行動に対する支援を任務としている。戦闘機(F-15)について北部方面に対するスクランブルは、近年減少しているが24時間体制で対応できるよう日々の訓練が実施されている。自衛隊員の減少により部隊運用が難しくなってきている。

② 第1移動警戒隊
移動用レーダーを装備し、北部航空警戒管制団全9か所のレーダーサイトの防空網の補完を担当している部隊。

③ 第3高射群
地対空ミサイル(ペトリオット)をもつ誘導弾部隊で、有事の際は重要地域へ侵入する目標を撃退する部隊。

⑦ 千歳管制隊
過密度の高い千歳飛行場において、民航機、自衛隊機等の安全の確保のため、24時間態勢で航空機の管制誘導をしている部隊。千歳飛行場の民間機、自衛隊機などすべての管制を行っている。

⑨ 特別航空輸送隊(現地視察)
政府専用機の乗組員は全て航空自衛官であり、パイロットはもちろん、客室乗務員も、特別航空輸送隊所属の航空自衛官が行っている。平成5年からB747による実運用を開始し、平成31年4月からは機種をB777に換えて各種任務にあたっている。㋐国賓等の輸送、㋑国際平和協力業務、㋒国際緊急援助活動、㋓在外邦人等輸送などを実施国賓等の輸送ではトラブルに備えるため2機で運行を行う。部隊と民間航空会社(全日空)が共同して整備運用をしている。日ごろより技量を維持するためのタッチアンドゴーや他空港へのナビゲーション訓練が欠かせないとの説明があった。

3.防災科学館「そなえーる」(現地視察)

そなえーる 入り口

千歳市防災学習交流施設「そなえーる」は、「災害を学ぶ、体験する、備える」をキーワードに災害を疑似体験できる施設であり、平時は防災学習交流施設として運営され、市の防災訓練等行われている。そして災害時には、現地対策本部や一時避難等に利用される。

千歳市北東に位置する陸上自衛隊東千歳駐屯地と南西に位置する北千歳駐屯地を結ぶ約10㎞の公道であるC経路のまちづくり事業として2005年度に着工、平成22年4月24日にオープンした。整備総面積約8.4ha、総工費21億円で、75%が防衛補助により建設。

そなえーる 防災訓練広場

施設はABC3つのゾーンに分かれている。Aゾーンは防災学習交流センター防災訓練広場、ヘリポートなどが設置。Bゾーンは、学びの広場として雨水貯水池と消火体験、吸湿体験ができる。Cゾーンはキャンプもできる野営体験場や、アスレチック遊具を備えるサバイバル訓練広場等を有する。


4. 令和6 年度基地周辺対策経費について

視察の冒頭、千歳市役所において、道内の市町村に対応に来られていた防衛省地方協力局総務課の村井課長から、全国の防衛省関係予算の概要の説明並びに令和6年度の増額となった基地周辺対策経費の概要についてご説明いただく機会に恵まれた。

住宅防音対策などでは、対前年度60億円増(9,5%増)の699億円で本体工事は令和6年度の大気世帯を解消するために増額計上されており、第1種区域の見直しを行うことにより①新築内の新たな区域指定日までに所在する全ての住宅を対象化し②全ての住宅を外郭防音工事で実施し、外郭防音工事の工法検討調査についても、居室以外の台所や浴室など住宅全体で防音工事をするための工法の検討調査を行うなど防音対策施策の充実を進めていくとの説明があった。

周辺環境整備では対前年度47億円増(4,7%増)の1044億円で、地元自治体からの強い要望を踏まえ増額計上し、さらに地元の理解と協力を得るため、調整交付金(9条交付金)は2年連続の増額となる対前年度7億円増の251憶円を計上するとの説明があった。今後も防衛施設を抱える自治体の事情を考慮し、市民の理解が得られるよう十分な予算確保を行っていただけるよう要望させていただいた。感謝申し上げます。

【所感】

千歳市役所での研修の様子

千歳市は、陸上自衛隊東千歳駐屯地、北千歳駐屯地、航空自衛隊千歳基地が所在し、わが国における北方の防衛拠点として機能するとともに、地域防災への任務などを通じて市民生活を守る大きな存在となっている。また、自衛隊員及び家族などを含めた総数は、人口の約4分の1を占めており、自衛隊駐屯地・基地の維持管理経費をはじめ、隊員の居住や消費活動、防衛施設周辺整備事業経費、さらには、隊員等の社会活動等により、市財政はもとより、市域経済の活性化、教育文化の振興などが図られている。自衛隊組織の見直し等により人員が減少した場合、北方の守りや災害発生時の対応に不安が生じるほか、地域経済やまちづくりにも深刻な影響を及ぼす。このことから、千歳市では、自衛隊の現体制の維持、強化に努め、自衛隊が有する機能と人材などを生かした共存共栄のまちづくりを進めている。

千歳市の市政運営の理念としての共存共栄を掲げる背景には、航空歴史における市民との関係の深さががあるのではないだろうか。1.千歳市の基地対策について(ア)千歳基地と市の変遷で述べたが、大正時代から昭和に初期にかけて市民自らからの手で整地に奉仕し飛行場の整備を行っている。

ところで、平成30年5月8・9日に本委員会で視察を行った三沢市も共存共栄を掲げ市政運営が行われている。1931年(昭和6年)10月に三沢市淋代海岸(旧 三沢村淋代海岸)から出発したミス・ビードル号による太平洋無着陸横断飛行が成功。三沢の住民は当時の村長指揮のもと一丸となって献身的な支援を続け、無報酬による労力奉仕活動は、滑走路の整備から滞在環境の整備まで多岐に渡った。両市ともに航空の歴史において市民の献身がある。

福生市は、基地に対して「横田基地はないことが望ましいものの、当面は動かしがたいものとの前提の下、今後も現実的な対応を図っていく」とのスタンスである。横田基地(横田飛行場)は、旧日本陸軍が建設した陸軍多摩飛行場が始まりである。1939年(昭和14年)に旧日本陸軍が200ヘクタールの土地を購入し、測量調査や飛行場建設を開始し、1940年(昭和15年)旧帝国陸軍立川飛行場の付属として多摩飛行場が建設された。

千歳市と三沢市は、共存共栄に向けて合意形成の場を設けている。千歳市では、平成19年3月に「千歳飛行場騒音地区整備協議会」が設立されている。騒音の影響を受ける66の町内会でつくられている協議会で、騒音加重を受ける千歳飛行場騒音地区の環境整備を促進し、地域の発展と福祉の向上を図ることを目的とし住民が活動している。市と足並みを揃え市が行う要望活動の後押しをする存在となっており、合意形成の一端を市民が担っていると考える。

一方、三沢市は、騒音問題だけでなく米軍関係者による事件・事故及び基地周辺住民とのトラブルなどの課題に対して、共存共栄の協力関係の構築を目指し様々な課題について率直に話し合うための三沢市と三沢基地米軍との連絡協議会が設置されている。

市民主体あるいは行政主体の違いはあるが、共存共栄という共通の方向性を有することで、両市ともに基地に起因する問題について意見交換し基地と共に課題解決を図ろうとする場が設けられることは、問題や課題を解決していく過程で相互理解を生むと考える。

さて、福生市では、令和2年に、パラシュートの落下、フィンの落下など、度重なる事故起き、福生市議会は、これ以上、基地機能強化をしないことを、米軍及び国に求める「横田基地の基地機能強化に関する決議」を可決している。また、泡消火薬剤に関して、横田基地では2010年から2012年の間に3件の流出など、基地外の環境への影響を懸念する声は、決して小さくとは言えない。そして2023年11月29日に鹿児島県屋久島の沖合において、米空軍横田基地所属のCV-22オスプレイ1機が墜落した。計6機のMV-22が予防着陸を繰り返すなど、市民は不安を更に募らせている。市と議会は原因究明、再発防止、安全確保の徹底などを米軍に対して防衛省への要請行動等を通じて訴えている。

共存共栄の理念は、お互いの立場をよく理解し、またお互いの利益を追求することなく、相互の交流を図りながら、お互いの生活の資質を向上させ共に暮らしていこうとの趣旨である。千歳市・三沢市と基地の関係性、福生市との基地との関係性はこうした点にも表れるが、地域経済的要因や地勢的要因もあるが歴史的な出発点の違いが根底にある。

また市政や地域に対する基地の関わり方が異なる。千歳市では、自衛隊が市内で積極的にイベントを開催し、町内会でもボランティア活動が盛んに行われている。また市で開催される夏祭りや国際マラソンなどのイベントはもちろん防災訓練にも協力している。三沢市では、米軍も国際交流事業やイベントへの参加、ボランティア活動、学校との交流などあらゆる機会を通じて市民との交流を積極的に行っている。基地と共にまちづくりを進める関係性が築かれている。

福生市では米軍との関係では、米兵による地域でのボランティア清掃などが行われている。また福生駅周辺の犯罪防止パトロールなどは憲兵とOSIが参加し警察や町会、防犯協会などとの連携が見られ市域での関係性は、主に民間により保たれている部分がある。航空自衛隊が移駐後10年経過するが千歳市のようなイベント参加等は行われていない。

一定の距離を保ちながら、周辺市町との関係性を重視しつつ、可能な部分で協力していくのは、粘り強さを要する。横田基地も国防の観点からは重要な基地であり、昨今の国際情勢を鑑みるとその重要性は益々高くなっている。そうした中で持続可能なまちづくりを行っていくには、基地を抱える全国の他自治体のそれぞれの施策を知り立場を理解することが大切である。横の連携を一層密にし、関係性を強固にしていく必要がある。その意味でも、今回の視察は大いに意義があったと考
える。

ところで、現地視察を行った航空自衛隊千歳基地で説明を受けたが、千歳管制隊は24時間体制で千歳飛行場と新千歳空港の自衛隊機・民間機、すべての管制を行っている。「過密度の高い千歳飛行場において、民航機、自衛隊機等の安全の確保のため」とのことであった。

令和 4 年度の民間航空機の離発着回数は137450回、 自衛隊機の離発着回数は 11962回と民間機は10倍以上の数となっている。これに加え、今後の国際情勢によってはスクランブルの回数も増加する可能性もあることを考えると千歳管制隊が全ての管制を行っている体制も理解できる。

報告書の冒頭で、ラピダス株式会社の千歳市への立地が決定していることを述べたが、その決め手となった要因として冷涼な気候と豊富な水資源、そして新千歳空港の近くというアクセスの良さがあると聞く。地域への経済効果は非常に大きい。

東京都は、首都圏西部地域の航空利便性の向上や経済の活性化に資するよう、民間航空と共用して活用する「横田基地の軍民共用化」を推進している(東京都HP参照)。

横田基地の軍民共用化については、近隣自治体には反対、賛成の両方の立場がある。私見だが、現在の国際情勢に鑑みると共用化の方向には動かないと考えるが、今後この問題を考えていく上でも参考になった。騒音被害の増大、環境問題、交通渋滞、テロをはじめとする非常に多くの危険性と経済をそれぞれの立場から議論していく必要がある。

政府専用機模型

さて、航空自衛隊千歳基地内での写真撮影は叶わなかったが、政府専用機説明を受けた。研修を担当していただいた自衛官のから2機が配備されている政府専用機B777-300ERについて説明を受けた。部隊と民間の航空会社が共同により整備運用を行っており、要人輸送では通常にはない特別な運用が必要であり訓練も含め業務は多忙であるとの説明があった。首相外交の際には2機で運航し、トラブルがあった際にバックアップとして運航できるようにしている。要人輸送は厳密なスケジュールに基づいており、予想していた以上に過酷なものであると感じた。

航空自衛隊千歳基地における研修

また、F-15戦闘機についても現地で説明を受けた。北部方面に対するスクランブルは、近年減少傾向(H24年18,546回、R4年は11,962回)にはあるが、昼夜を問わず対応できるよう、日々の訓練が実施されているとのこと。説明の後、F-15の格納庫へ案内され、機体を見ながら説明を受けることができた。駐機場では5機のF-15がランナップしており訓練へと離陸していく様子も見学させていただいた。女性のパイロットも増えているとのことだが、航空自衛隊だけではなく自衛隊員の減少により部隊運用が難しくなってきているとのことだった。

現場では常に、国民の安全安心のために自衛官は働いている。気を抜くことが許されない精密を要する仕事、大きな危険を伴いながら常に覚悟をもって国防にあたっている自衛官に敬意を表する。

以上

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