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Get Out(2017)がアメリカで大人気だったのに日本で全くウケない理由

ジョーダン・ピールの監督デビュー作となった「Get Out」。第90回アカデミー賞の中で5部門にノミネート、そして見事脚本賞を受賞している。低予算だったにも関わらず全米で初登場第一位を獲得するなどアメリカでは相当な評価を得た。そして2017年10月からは日本で上映開始。多くの人が映画館に観に行くかと思われた。
しかし、ふたを開けてみれば大ハズレ。
2017年に上映開始された他の映画、例えば「LA LA LAND」や「Blade Runner 2049」、「IT」などが大物すぎたのか、興行収入はLA LA LANDの44.2億円と比べて1.3億円に留まるなど、人気は芳しくなかった。ちなみにその年の日本における最大の興行収入を得たのは「美女と野獣」で124億円だ。そんな、、、ユーチューブの動画広告で何度か映画ティーザーも流れていたし順調に日本でも視聴率が高いのかと思ったが、どうやら失敗だったようだ。

ではそれはなぜなのだろうか。ここでは、本映画がアメリカで高い評価を受けた理由と日本で不発だったワケを順番に考えてみたい。

アメリカでの高評価:「2017」という年

まずこの映画は「人種差別」を大きなテーマにしたコメディーホラー映画である。僕自身はコメディーの要素をほぼ感じられなかったが、監督自身がもともとコメディアンであったこともあり、ところどころクスッと笑ってしまうシーンは確かにあったかもしれない。それはさておき、人種差別を題材にした映画はこれまで数多く制作されており、最近ではタランティーノ監督の「Django Unchained」(2012)などがあるが、これまで既に多くの映画が様々な手法で人種差別の善悪について語っている。そのため、この分野で奇をてらうのは相当に困難だ。しかしピール監督は、敢えて2017年という時期現代の新しい視点で人種差別を考えさせる映画を製作することにすることによって、本映画の特殊性を見出した。

2017年、この年はアメリカ史にとって歴史的な年である。そう、オバマからトランプへと政権が交代したのだ。

(Fortune記事より)

オバマ大統領はアメリカ史上初の黒人大統領として世界中から注目を集め、2009年から2017年までの任期を通して黒人差別問題に真摯に取り組んだ。それが成功に終わったか否かは別の機会に論じたいが、大統領が黒人であったことでどこか「黒人に対する差別意識って薄れていっているのでは...」という雰囲気があった。しかしピール監督はその現状に危機感を持ち、白人大統領にかわったこのタイミングで、「オバマ政権は完全に人種差別を撲滅したわけではない。これから俺らのボスは白人なんだ。その意味を考えろ。」と世論に警鐘を鳴らすべく、黒人も白人も平等に思える現代のアメリカ社会に潜む黒人差別をストーリーの大枠として、映画を制作した。

具体的に映画の内容に即して言うと、黒人の彼氏が白人の彼女の親に会いに行き大歓迎されるが、それは娘の彼氏としてではなく、白人富豪の脳を移植する黒人という単なる「優れた身体能力を持つ器」としてであった。この映画において白人は黒人を人種の違いによって差別しているわけではなく、むしろ黒人の身体能力を高く評価し、自らの意識はそのままに彼らの身体のみを獲得したいという一種の憧れと願望を抱き、それを金と技術の力で実現させてしまっている。つまり、黒人に対するリスペクト(タバコは体に悪いなどの助言をしてあげたり)は後の搾取のための準備にすぎないのだ。
そんなことが現実に起こるかよ(笑)と思ってしまうが(まあホラー映画だからフィクションの要素は大きいことは認めるが)、よくよく考えてみれば、現代アメリカ社会の様々な分野において、黒人が白人のあこがれとなることは少なくなくなっているし、そういった中で、白人大統領による政権が復活した。黒人のリーダーが黒人の人権尊重を訴えるのと、白人のリーダーが黒人の尊重を訴えるのとでは、やはり意味が異なる。表面的でなく本心からリスペクトしあえるような社会をつくっていこうよと、ピール監督は訴えているのだ。これはホラー映画であると同時にドキュメンタリーであると監督自身も言っており、ただのフィクションに終わる映画ではない。

このように、アメリカが新時代に突入するにあたり人種差別の問題の在り方も変化しうることを示唆しているという点、そして映画自体の完成度が高い点を踏まえ、本映画はアメリカ国内で大変高い評価を得ることとなった。

日本でウケなかった理由

ここまでくれば、この映画が日本でウケないのも頷ける。

この映画は「アメリカで」ウケるような設計になっているのだ。
日本人はやはりアメリカ人に比べて人種差別に対する当事者意識は低いだろうし、この映画をホラーとして楽しむ人がほとんどだろう。もちろん、伏線回収の仕方や撮影技法の工夫は秀逸だからそれを楽しむこともできるが、視聴者がどれだけ映画の主題に共感できるかというのが映画自体の人気につながる最も大きな要素であるから、寂しい結果となってしまったのはしょうがない。

とはいえ、まだ映画を観てない方はぜひ見てほしい。この映画は「二度」見る映画だ。ディカプリオ主演の「Shutter Island」(2010)と同様、最後に全てがつながる。もう一度観ると、また違った面白さを感じることができるだろう。また、監督自身が映画オタクかつ物好きということもあり、撮影時に使用される物の種類や色など、全てに意味が込められている。もう観た方も、この点を留意してもう一度見てほしい。

それでは、また!

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