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球の体積と表面積の積み上げ方

 中学校数学では球の体積と表面積の公式を学ぶ。困ることに、現行の教科書ではこれらは天下り的に与えれ、実験的手法で説明されても、理論的に導かれることはない。その結果、公式の丸暗記、下手すると語呂合わせによる暗記を助長する有様である。

  $${V=\displaystyle\frac{4}{3}\pi r^3}$$
  $${S=4\pi r^2}$$

球の体積や表面積が既存の知識と繋がらないのはカリキュラム構成上の課題である。しかし、理論的に導けないものではない。本記事では、小学校で学んだ知識から始め、球の体積と表面積の公式まで積み上げる案を示す。

0. 大きさ比べ

面積・体積の基礎は、測量の分野として小1から教え始めている。小1の時点で、具体物の直接比較や間接比較を通じて長さ比べ・広さ比べ・かさ比べを扱う。それぞれに対する漢語が距離・面積・体積になる。

「単位」という言葉こそ登場しないが、身の回りにあるものを単位に使ったり、方眼紙に当てて比べたりと、変わらない共通の長さ・広さ・嵩という単位の基本概念を直観的に捉えられる。

小2になると、長さの単位と容積の単位が導入される。長さの場合は、方眼紙の幅に名前が付いただけに過ぎない。小1 の時点で 1cm の方眼紙を使っていれば、それがそのまま国際単位系の 1cm になる。

容積は体積と統合されてはいるが、ここにリットルが登場するのは現実的問題と歴史的名残である。この時点での嵩比べは基本的に液体を容器に移して比べる手法を取る。長さや広さと異なって、3次元空間で3次元の物体を重ねることは物理的に不可能である事実への対策である。単位がメートル系(m、cm、mm)ではなく、リットル系(L、dL、mL)なのは容積と体積が異種の量として扱われた歴史的事実に基づく。遠い昔に考案されたカリキュラムが古いまま受けづかれているに過ぎない。

1. 面積の定量化

面積の単位は小4で導入される。面積を広さの同義語として定義し、1辺が1cmの単位正方形の数で定量的に表す。これで方眼紙の格子上にある長方形の面積を数えて求められるようになる。

特筆すべきは、この時点で数式が一切に登場てない上に、縦1cm 横2cmの三角形の面積まで考えさせていることである。公式は飽くまでも単位正方形を効率良く数える手法として後に与えている。

図1.1)算数教科書に出る問題
公式を使わず、方眼を数えることで三角形の面積を求める想定。

この単元で学ぶべき面積の概念は以下の3点に集約できる。
  ①面積の大きさは図形を重ねて比較できる。
  ②含むように重ならない場合は切り貼りして比較できる。
  ③切り貼りで同じ大きさの正方形を作り、その数で面積を表すと便利。

長方形の公式は4の次で、長方形にしか使えないことからも③の具体例として扱うべき。三角形の公式に至っては小5までお預けである。

  長方形の面積 = 縦 × 横

2. 体積の定量化

かさのメートル系の単位(cm³、m³)は小5で導入される。体積を嵩の同義語として定義し、1辺が1cmの単位立方体の数で定量的に表す。ここでも公式を教える前に底面が縦1cm 横2cmの三角形の三角柱の体積を考えさせている。直方体の体積の公式を単位立方体の数え方として与えいているのはその後になる。

  立方体の体積 = 縦 × 横 × 高さ

平面では方眼紙の切り貼りは紙面でも黒板でも扱いやすいが、立体の切り貼りは難しい。具体物として立方体のブロックを良く用いられる。しかし、この時点でも図1.1にある図形を底面とする角柱の体積を数えられるように鍛えておく必要がある。

この単元で学ぶべき体積の概念は以下の3点。面積と同じである。
  ①体積の大きさは図形を重ねて比較できる。
  ②含むように重ならない場合は切り貼りして比較できる。
  ③切り貼りで同じ大きさの立方体を作り、その数で体積を表すと便利。

3. 三角形の面積

小5の後半でやっと平行四辺形・三角形・台形・菱形の面積の公式が登場する。いずれも切り貼りで長方形に変換して、長方形の面積の公式から各図形の公式を導いている。

  平行四辺形の面積 = 底辺 × 高さ
    三角形の面積 = 底辺 × 高さ ÷ 2
     台形の面積 = (上底+下底) × 高さ ÷ 2
     菱形の面積 = 一方の対角線 × もう一方の対角線 ÷ 2

公式が色々登場するが、重要なのは図形を切り貼りして面積を求める工夫の考え方である。教科書では4式とも図形の切り貼りで長方形の公式から導き出している。与えるものでもなく、覚えるものでもない。

ここで、三角形に関して、高さを変えずに頂点を滑らせても面積が変わらないという性質を直観的に押さえておきたい。これが剪断変形という等積変形の一種であり、強力なカバリエリの原理に繋がる。超重要な図形感覚であるため、可能なら情報機器を駆使して脳内でイメージできるように鍛えておきたい。

図3.1)底辺と高さが共通する三角形

4. 円の面積

小5の最後の方で円周と円周率が登場する。まずは内接正六角形と外接正方形の挟み撃ちで円周が直径の3~4倍の当たりを付け、次に実測により直径と円周の長さの割合が等しい結論を出し、円周率を定義する。

  円周率 = 円周 ÷ 直径

ここで、円周率が定数であることを実験的に説いている以上、近似的に一定までしか言えない。これは後の小6で相似を学ぶときに「全ての円が互いに相似であるため、直径と円周が比例する」と理論の穴を埋めておきたい。

小6に入ると円の面積が続く。円周と同様に、まずは内接四角形と外接四角形の挟み撃ちで面積が半径を1辺とする正方形の2~4倍の当たりを付け、次に実測により約3.14倍の近似解を出す。最後に積分により円の面積の公式を導いている。

  円の面積 = 半径 × 半径 × 円周率

図4.1)円の面積の導出
扇形に分割して、平行四辺形に組み替えて導く想定。

ここでも、扇形に分割して近似にしたままでは円の面積も近似式になる。そこは扇形ではなく、内接正多角形と外接正多角形で挟み撃ちに立ち戻っておきたい。面積に関して、内接多角形が必ず円より小さく、外接多角形が必ず円より大きい。分割するほど円に近付くので、無限に細かくしていくと、円の面積で落ち合うしかない。

また、剪断変形の訓練として、円錐を全て同じ向きにして頂点を再び1点に寄せる別解も押さえておきたい。半径×直径×円周率÷2になるが、直径÷2=半径 であるために結局は同じ式になる。等積変形への理解次第では、こっちの方がスッキリする。

図4.2)円の面積の導出の別解扇形に分割して、三角形に組み替えて導く想定。

5. 柱体の体積

小6の前半で角柱・円柱の体積が登場する。考え方は全て底面の切り貼りで直方体に変換して求める。そして、底面の切り貼りでは体積が変わらない事実を利用して、柱体の統一公式に一般化する。

  柱の体積=底面積×高さ

6. 錐体の体積

錐体の体積は昔小6だったのが今は中1の範囲になっている。基本は立方体の分割から考える。立方体の中心から8つの頂点に線を引けば、同じ正四角錐が6つ出来上がる。6等分であるため、各正四角錐は体積=辺長×辺長×辺長÷6と分かる。また、底面積=辺長×辺長、高さ=辺長÷2であるため、正四角錐の体積=底面積×高さ÷3とも書ける。

図6.1)正四角錐の体積

一般化するには底面の切り貼りを使う。それは柱体と平面図形で何回も繰り返し使ってきた考え方である。

  錐積の体積=底面積×高さ÷3

ここで確認しておきたいのは、以下の2点である。
  ①底面の分割で結果的に任意の高さの断面も比例して分割される。
  ②任意の高さの断面積が同じなら体積も同じ。

7. 球の体積

球の体積は中1の後半で扱う。円柱と円錐の体積差から導出できる。まず半径 $${ r }$$の球に外接する円柱を考える。円柱は底面半径$${ r }$$で、高さ$${ 2r }$$になる。次は円柱の中心を頂点とし、円柱の底面を底面とする1対の円錐を考える。円錐は底面半径も高さも$${ r }$$になる。

図7.1)球に外接する円柱と、円柱に内接する逆双円錐

便宜上、中心を原点とする。高さ$${ h }$$の位置では、断面の半径を$${ w }$$と置けば断面の面積$${ A_{\textsf{球}} }$$は$${ w }$$の式で表せる。
  $${ A_{\textsf{球}} =πw^2 }$$

他方、逆双円錐は高さと半径が同じになるため、その断面の面積$${ A_{\textsf{錐}} }$$は$${ h }$$の式で表せる。円柱の断面積$${ A_{\textsf{柱}} }$$は$${ r }$$の式で表せて、円柱から円錐を除いた余りの断面積$${ A_{\textsf{余}} }$$はそのまま引いて求められる。
  $${ A_{\textsf{錐}} =\pi h^2 }$$
  $${ A_{\textsf{柱}} =\pi r^2 }$$
  $${ A_{\textsf{余}} =\pi r^2 - \pi h^2 = \pi (r^2 - h^2) }$$

$${ w }$$と$${ h }$$と$${ r }$$は直角三角形の三辺であるため、三平方の定理より$${ w^2 = r^2 - h^2 }$$と出て、$${ \pi }$$を掛ければ$${ A_{球} = A_{余} }$$と分かる。問題は、三平方は中3の範囲であり、中1の時点では未習得である。

ところが、三平方の定理が中3になっているのは根号を扱う都合であり、ここでは平方のままで扱うため中1でも理解できる。図7.2のように直角三角形を4つ使い、斜辺を一辺とする斜めの正方形と、残り2辺を繋げた線分を一辺とする大きい正方形を作れば、斜めの正方形の面積を残り2辺で表せる。後は文字式の掛け算である。
  $${ r^2 = (w+h)^2 - 4 \cdot \displaystyle \frac{wh}{2} = w^2 + h^2 + 2wh - 2wh }$$
  $${ r^2 = w^2 + h^2 }$$
よって、
  $${ w^2 = r^2 - h^2 }$$

7.2)三平方の定理
平方のままで扱えば根号に出くわさずに済む。

$${ A_{球} = A_{余} }$$さえ理解できれば、断面積の切り貼りで円柱から円錐を除いた部分が球と体積であることが分かる。
  $${ V_{\textsf{球}} = V_{\textsf{柱}} - V_{\textsf{錐}} = 2 \pi r^3 - \displaystyle\frac23\pi r^3 }$$

  $${ V_{\textsf{球}} = \displaystyle\frac43\pi r^3 }$$

8. 球の表面積

球の表面積は球の体積に続けて扱われる。球の体積さえ分かれば、表面積は球心を頂点とする四角錐の分割で求められる。円の面積と同じ要領である。
どうせ切り貼り自由であるため、分割時の底面は台形でも三角形でも良く、寄せ集めた錐体の底面もどんな図形でも、形に依らずに底面積が球の表面積であることに変わりない。

  $${ V_{\textsf{球}} = \displaystyle\frac13 S_{\textsf{球}}\,r }$$
  $${ S_{\textsf{球}} = 4 \pi r^2 }$$

図8.1)球の錐体分割と再集結

$${ 4 \pi r^2 = 2r \cdot 2 \pi r }$$ であるため、式の見方を変えれば、球の表面積が円柱の側面積と同じと分かる。一般に、球面を高さ方向に細い帯を切った場合、帯の幅に関係なく、同じ高さで同じ幅の薄い円柱の側面と同じ面積である。この性質は正積円筒図法に使われている。

この関係を使い、円柱の側面積から直で円の表面積を導く手法も良く知られている。説明する際に三角形の相似が必要になるため、やはり中3で学ぶ知識に依存する。前節で紹介した手法と比べた結果、説明が平面的で済むため、平方の加減算で済むため、実験に基づく教科書の手法手法に寄り添っているため、かつ、その理論づけになっているため、円柱円錐の方が相対的に易しいと判断した。

9. まとめ

本記事では、小学校で教えられている測量分野を要約し、中1の球の体積と表面積の公式まで繋げた。鍵となる考え方は以下の2点に集約できる。

  ①面積と体積は切り貼りで等積変形できる。
  ②切り貼りする際に、三角形や三角錐が都合良い。

実験に基づく方法は近似的に等しい可能性を排除できず、数学では補助に留めた方が良い。理論的に導けるものは、小中であっても理論的に導くべき。結果である公式の暗記よりも、導く過程を大事にすべき。学んで欲しいのは導く過程における数学的考え方である。

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