命題とその逆、裏、対偶の見方
命題論理には、2つの命題変数 p と q の含意「p⇒q」で表され、含意命題と呼ばれる類の命題がある。含意命題に関して、逆、裏、対偶という関係性が高校数学レベルで扱われる。これらは命題と命題の関係であるが、命題の分類と勘違いされやすい。本記事では、様々な見方を整理する。
§1 前提とする定義
まずは依存する定義を羅列する。
真:物事が正しい状態。
偽:物事が正しくない状態。
真偽値:真と偽のみを元とする集合 𝔹。
否定(¬):真偽値の単項演算。真偽が反転する。
¬真=偽 ¬偽=真
「¬」は「ノット」と読む。
含意(⇒):真偽値の2項演算。真⇒偽のみ偽になる。
真⇒真=真 真⇒偽=偽
偽⇒真=真 偽⇒偽=真
「⇒」は「ならば」と読む。
命題:真偽値に判定できる対象。
条件:命題変数:変数を含み、変数が定まれば命題になる対象。
含意命題:条件命題:2つの条件を含み、変数が定まれば含意になる命題。
仮定(前件):含意命題の左辺。
結論(後件):含意命題の右辺。
含意命題 p ⇒ q について、
「p」が「p ⇒ q」の仮定、
「q」が「p ⇒ q」の結論。
§2 単項演算としての見方
含意命題について、
逆:条件と結論を交換した含意命題。
裏:条件と結論をそれぞれ否定した含意命題。
対偶:条件と結論をそれぞれ否定した上で交換した含意命題。
含意命題「p ⇒ q」について、
「p ⇒ q」の逆 は「q ⇒ p」
「p ⇒ q」の裏 は「¬p ⇒ q」
「p ⇒ q」の対偶は「¬q ⇒¬p」
定義をそのまま図にすると図 1 の通りになる。定義では、逆・裏・対偶は含意命題から含意命題への単項演算となっている。
注意すべきは、着目する含意命題は「p ⇒ q」でなくても良い。例えば、「q ⇒ p」に着目すれば「q ⇒ p」の逆・裏・対偶が存在する。定義に登場した4つの含意命題の逆・裏・対偶を全て書き込むと図2になる。
§3 二項関係としての見方
図2からは、逆・裏・対偶がそれぞれ対称的な関係にあるのも容易に分かる。例えば「p ⇒ q」の逆が「q ⇒ p」と同時に、「q ⇒ p」の逆が「p ⇒ q」でもある。「p ⇒ q」と「q ⇒ p」が互に逆の関係にある、とも言える。このため、対を成す関係を1本の両矢印に簡略化した図3が多用される。
この対称的な単項演算が二項関係で同じ用語を使う現象は、数学では良くある。例えば「逆数」は単項演算を表すと同時に、二項関係をも表す。
単項演算としての用法: 3 の逆数は 1/3 である。
二項関係としての用法: 3 と 1/3 は互いに逆数である。
これと同じことを逆・裏・対偶でも言える。
単項演算としての用法: p⇒q の逆は q⇒p である。
二項関係としての用法: p⇒q と q⇒p は互いに逆である。
§4 命題自身を表す見方解釈
前節で説明した通り、逆・裏・対偶は含意命題の関係を表す概念である。関係を表す概念にも関わらず、「q ⇒ p」自体を「逆」、「¬p ⇒ ¬q」自体を裏、「¬q⇒¬p」自体を「対偶」と呼ぶ概念と勘違いされやすい。合わせて、「p ⇒ q」自体を命題と呼び、図4のような混沌とした図になる。
表現自体はそれぞれ「着目する命題」「着目する命題の逆」「着目する命題の裏」「着目する命題の対偶」の略として使われる場合もあるが、強い文脈があればまだしも、説明なしに略すのは推奨できない。「p ⇒ q」「q ⇒ p」「¬p ⇒¬q」「¬q ⇒¬p」が全て命題である上に、着目する命題が変わればどれも逆・裏・対偶になり得るため、非常に紛らわしい表現になる。
逆数の例で言うと、逆数は数と数の関係を表す概念であるにも関わらず、1/3 自体を「逆数」と呼ぶ解釈に相当する。そこで3自体を「数」と呼んだり、「数と逆数の積が1」と言ったりすると、段々怪しくなってくる。
§5 まとめ
本記事では含意命題に関する逆・裏・対偶の見方を単項演算、二項関係、そして命題自身を表す場合として整理した。高校の教科書も含め、多くの説明が図1に相当する定義しか与えてないのに、いきなり図3を示しており、初学者に易しくない状態にある。命題自身を表す解釈は大変紛らわしく、初学者には推奨できない表現である。これらの違いは意識できた方が良い。
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