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[Detection 46] 第1弾 (第2章)


「Detection 46」シリーズ 第1弾
狂気に満ちた祭り 乃木町連続殺人事件



【第2章 炎の中の一軒家】


8月10日 23時02分

ー 盾角探偵事務所 ー


盾角はリビングで考え込んでいると、玄関の開く音がした。


白石「たっだいまぁぁぁ〜」

盾角「おかえり、だいぶ酔ってるみたいだね」

白石「盛り上がりすぎちゃってさぁー!3件もハシゴしちゃった!」

盾角「まあたまにはいいよな、しかもパンケーキ食えなかったわけだし」

白石「ほんっとそれ!まああんなことがあったんだからぁ、しょうがないけどねぇ〜」

盾角「とりあえず風呂沸かしてあるから」

白石「マジ?〇〇もやればできるじゃん!」

盾角「いいから早く入ってこい、この後客人も来るんだから」

白石「え?」

盾角「ちょっと気になることがあって…まあ話は後で」


8月10日 23時51分

ー 盾角探偵事務所 ー


早めに風呂を済ませた白石は、水をゴクゴク飲み干し、ようやく酔いから冷めたようだ。

盾角が今日バナナシガレットで設楽から渡されたという紙について話を聞いていた。


白石「じゃあ〇〇が帰る時にこっそり渡されたんだ」

盾角「こんなのしなくてもLINEしてくれたらと思ったけどな。まああの人こういうの好きだから」

白石「だね、で?何て書いてあんの?」

盾角「はい」


渡されたのは、畳めば片手に収まるぐらいの紙切れだった。おそらくノートをちぎったのだろう。


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今日話した山下って子 嫌な予感がする

お前が何日か連絡が取れないみたいなこと言ってたろ

うちにきた時、そんなに思いつめてるような感じじゃなかった

白石と西野にだけこのことを話してちょっと調べてみろ

ノギモールの件があったからか 考えすぎかもだけど、どーも気になって仕方ない

この手の話は日村さんにするとめんどいからさ

今どき紙でごめんだけど ガンバレ

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白石「今日梅も言ってた、心配してるって」

盾角「え、梅も連絡ついてないのか?」

白石「うん。普段はものすごい返信早いのに、そんな美月に限ってどうしたんだろって」

盾角「…そうか…」

白石「変なことに巻き込ま…」


白石が言いかけたところで、インターホンが鳴った。


盾角「出てくれない?」

白石「うん」


白石がモニターを見ると、よく知った顔が必要以上にレンズに顔を近づけている。


白石「七瀬!」

盾角「あけてあげてよ」

ピッ

白石「七瀬?」

西野「まいやーん、あけてー」


解錠のボタンを押すと、ものの数秒でリビングの扉が開いた。


西野「密偵西野参上!」

盾角「こんな時間に申し訳ない」

西野「全然ええで、風呂も入って暇やったし」

白石「暑かったでしょ?何か飲む?」

西野「めっちゃ冷えた麦茶」

白石「めっちゃね」

西野「なんかまいやんのすっぴん久々に見たわ」

白石「恥ずかしいからあんまり見ないでよ」

西野「よー言うわ、そんな美人のくせに」


先ほどまで白石が座っていたソファに腰掛けた西野は、カバンをソファの端に放り投げた。


西野「何なん?頼みたいことって」

盾角「山下いるじゃん」

西野「飛鳥の友達の美月ちゃん?」

盾角「そう、山下について色々調べて欲しくてさ」

西野「…好きなん?」

盾角「そういうんじゃないって」

西野「じゃあなんでよ」

盾角「ここ数日連絡がつかないんだよ、それに見たろ?今日のNOGIモールの事件」

西野「えっ!なんか関係あんの?」

盾角「まあそこが繋がってるとは到底思えないけど、そのせいで変に心配というか」

西野「…なんか〇〇にしてはパッとせえへんな」

盾角「とにかく普段の山下とか、家族関係とか、探ってくれない?」

西野「わかった、おもろそうやからやったるわ」

盾角「ありがと」

白石「はい、めっちゃ冷たい麦茶」

西野「お!ありがとう」


8月11日 20時30分

ー 盾角探偵事務所 ー


この日盾角は以前から入っていたという友人と会う約束のため、朝から外出していた。

夜になり事務所に戻ってきた後は、ひたすら西野からの連絡を待った。

そして今、インターホンが鳴った。


西野「おまたせー」

盾角「どうだった?」

西野「おもろい話いっぱいあんで」

盾角「流石だね」

西野「まいやん、夜ご飯まだやねんけどなんか出してくれへん?カップ麺とかでも全然ええんやけど」

白石「今日の晩御飯カレーだったけど、まだあるから食べる?」

西野「最高やん、ありがと」

白石「じゃあ用意するね」


白石がキッチンに消えると、西野はカバンから小さなメモ帳を取り出した。


西野「まず美月ちゃんの家族関係やけど、お父さんが一回変わってるらしい」

盾角「なるほど」

西野「お母さんとはそのこともあってか、仲めっちゃ悪いらしくて、今はもうほぼ絶縁状態らしいわ」

盾角「…そんな感じなのか」

西野「ほんでここ数日連絡が取れてないのは、〇〇だけちゃう」

盾角「みんななの?」

西野「そう、美月ちゃんと普段仲良い潮騒大学の人らに話聞いたけど、全員ここ数日はLINEの返事もないし、電話かけても出やんらしい」

盾角「よっぽどだな」

西野「SNSも開いた痕跡ないらしいから、連絡無視してるとかではなさそうやねんな」

盾角「でもそんだけのことになってんなら、周りの人間が警察に捜索願いとか出してないのか」

西野「それも聞いたけど笑われたで、数日間連絡つかんこともあるやろうし、気まぐれなタイプやから心配はしてないって」

盾角「まあそりゃそうか…」

西野「友達の中に、それでも心配やからって美月ちゃんのお母さんに電話した人もおったらしいけど、一人旅でもしてるんだと思いますって、マジで無関心な感じやったらしいしな」

盾角「なーるほどねぇ」


白石がお盆にカレーとサラダ、オレンジジュースを載せて持ってきた。


白石「はい!」

西野「うぉぉ!めっちゃ美味しそう!いただきまーす!」

白石「どうぞ〜」

盾角「いやぁ、山下もちょっと変わった子だなとは思ってたけど結構だなこれは」

白石「ちょっとミステリアスな感じだもんね」

西野「あっ、そうそう!」


西野はスプーンをお盆に置くと、オレンジジュースを一口飲んで、興奮したように話し出した。


白石「どうしたの?」

西野「こっからがおもろいんよ」

盾角「ほう」

西野「その潮騒大学で、美月ちゃん以外にここ数日連絡が取れへん人、あと2人もおるねん」

盾角「えっ?!」

西野「しかも連絡つかんようになったタイミング、美月ちゃんと一緒やねん!」

白石「マジか!」

西野「おもろいやろ?」

盾角「エグいな…なーさん本当によくやってくれたよ」

西野「やろ?聞いた時ゾクゾクしたわ」

白石「その2人の詳細も調べたの?」

西野「この西野七瀬をなめたらあかんでまいやん!」


そう言って再びメモ帳に目をやった西野は、2人のことをゆっくりと話し始めた。


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[伊藤万理華]

・潮騒大学2年生

・美術部所属

・趣味は音楽と絵を描くこと

・椎名林檎を崇拝している

・好きな食べ物はタイ料理


[深川麻衣]

・潮騒大学4年生

・ボランティアサークル所属

・趣味は香水の収集

・好きな食べ物はオムライス


両者に共通していることは、

・ここ数日、連絡が取れないこと

・両親が離婚しており、母方についていること

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盾角「山下も含めて3人とも親が一度離婚していることが共通してるのか…」

白石「なんか偶然にしては…ちょっと怖いよね?」

盾角「…ちょっと本気で調べなきゃだな」

西野「いつでも言うてや、なんでもするから」

盾角「本当にありがとね」

西野「いやいや」


その後カレーライスをお代わりした西野は物の数分で平らげ、颯爽と帰っていった。

洗い物を済ませ、水を一杯飲み干した白石はグーっと伸びと大きなあくびをした。


白石「そろそろ寝ようかな」

盾角「俺はまだもうちょい作業するから、電気そのままつけといて」

白石「オッケー」

盾角「おやすみ」

白石「〇〇も早く寝なよー」

盾角「おう」


冷蔵庫から冷やしておいた缶のサイダーを取り、タバコとライターを持って庭に出た。

火をつけ、ゆっくりと吸う。

まだ暑いが、少し涼しい風が吹いており、気持ちがいい。その風に飛ばされていく紫煙の中で今日起きたこと、見たものを整理する。

よく考えれば被害者の名前や年齢など、詳細を知らないことに気づいた盾角は、翌朝すぐに若月警部に電話をかけた。


8月12日 9時13分

ー 盾角探偵事務所 ー


若月「もしもし盾角か」

盾角「おはようございます、朝からすいません」

若月「いやいや、こないだはありがとうな」

盾角「とんでもないです!その一昨日の事件についてなんですが…」

若月「何かわかったのか?」

盾角「いや、被害者の詳細を何も聞いてなかったなと思いまして」

若月「そういえばそうだな、身元がわかるものが何もなかったから少し調べるのに苦労したよ」

盾角「そうですよね」

若月「ちょっと待ってろ」


約1分後、戻ってきた若月警部の言葉は、一瞬時を止めるほどに強烈だった。

盾角は耳を疑った。


若月「被害者の男性だが、名前は深川隆信さん、51歳。13年ま…」

盾角「深川?!」

若月「ど、どうした?」

盾角「その深川さんには娘がいるんじゃないですか?」

若月「あ、あぁ…麻衣ちゃんって1人娘が、13年前に離婚したっていう奥さんとの間にいるが…」

盾角「被害者が亡くなったことはその家族に伝えたんですか?」

若月「もちろん身元判明後すぐに連絡したぞ」

盾角「連絡が取れたんですか!」

若月「…元奥さんは静岡県在住ってことで今日東京に来てくれることになってるんだが…」

盾角「娘と連絡が取れないんですね?」

若月「あぁ…家にもいないことは確認済みだ」

盾角「じゃあ警察は今その娘を容疑者としてるんですか?」

若月「重要参考人として捜査してるよ」

盾角「…なるほど」

若月「ってかなんでお前がそんなこと知ってんだ?」

盾角「…またなんかあったらすぐ教えてください!それじゃ、お疲れ様です!」

若月「おい!聞いてんのか!盾角!」


盾角は電話を切った後、起きてきた白石と朝食を食べながら若月警部との電話の内容を説明した。

3時間後、梅澤から白石の携帯に、今夜事務所に行かせて欲しい、〇〇さんに聞いて欲しい話がある、という連絡が入った。


8月12日 19時25分

ー 盾角探偵事務所 ー


梅澤「急にお邪魔して申し訳ないです」

白石「珍しいね、梅が自分から来たいって言うなんて」

梅澤「本当は今日美月とご飯行く約束してたんですけど、やっぱりまだ返事なくて…」

白石「そっか…」

盾角「それで、俺に話したいことって?」

梅澤「…それが…まあ関係ないとは思いたいんですけど…」

盾角「うん」



梅澤「飛鳥さんとも連絡つかないんです」



白石「えっ…」

盾角「なんだと!」

梅澤「飛鳥さんはいつも返事遅めなんで、そこまで気にしてなかったんですけど…美月のこともあって心配で…」

白石「飛鳥まで…」

梅澤「だから〇〇さんに調べてほしくて!」

盾角「わかった。徹底的に調べて、きっと後2人を探し出してみせるよ」

梅澤「…本当にありがとうございます!」

白石「もう2人の家には行ったの?」

梅澤「もちろん行きました、鍵もかかってるし何回インターホン押しても返事はなかったです」

白石「なるほど…〇〇どうする?」

盾角「警察に捜索願いを出す前に、とりあえず俺となーさんで探してみる。麻衣も手伝ってくれる?」

白石「もちろん!」

盾角「それと梅、一つ聞きたいんだけど」

梅澤「なんですか?」

盾角「山下がタバコ吸ってるの、知ってたか?」

梅澤「えっ、はい…たまにしか吸わないとは言ってましたけど…それが何かあるんですか?」

盾角「こないだのNOGIモールの事件あったろ?」

梅澤「はい…」

盾角「遺体のそばになんでかタバコの吸い殻が一本落ちてたんだけど、その銘柄が山下の吸ってるのと一緒なんだよ」

梅澤「えっ…でも…さ、さすがに関係ないんじゃ…」

盾角「俺の考えすぎだといいんだけどね」


梅澤が帰宅したあと、盾角たちもすぐ眠りについた。


8月13日 10時05分

ー 盾角探偵事務所 ー


盾角「もしもし」

若月「おお、盾角か」

盾角「はい!おはようございます」

若月「新しい情報だ」

盾角「お!マジですか」

若月「新たな容疑者が浮上したんだ。名前は伊藤万理華、19歳、潮騒大学2年生。彼女は例の事件現場であるNOGIモールの化粧品売り場で、3ヶ月前までバイトしてたらしいんだが、今連絡が取れなくなってるらしい」

盾角「…なるほど、ちなみに容疑者の家族には連絡したんですか?」

若月「したが、なんの意味もなかったよ」

盾角「どうしてですか?」

若月「両親は11年前に離婚していて、彼女は母親についたらしいんだが…父親は5年前に自殺したらしくてな」

盾角「…」

若月「今は銀座でガールズバーの経営をしてる母親から話を聞いたが、"娘とは絶縁した"の一点張りだったよ。そもそも、もう何年も顔を合わせてないらしい」

盾角「…」

若月「おい、聞いてるのか?盾角!」

盾角「これは面白くなってきましたよ、警部」

若月「どういうことだ?」

盾角「こっちでも調査してて、伊藤万理華の名前が出てきてんすよ」

若月「なーるほど、それで深川麻衣のことも知ってたのか」

盾角「そうです、またなんかわかったらすぐに知らせます」

若月「おう、頼んだぞ」

盾角「失礼します」


その後白石にこのことを話し、西野を事務所に呼んだ。

盾角、西野は山下と飛鳥の行方を追い街に繰り出したが、手がかりは何も見つからなかった。

白石の配慮もあり、23時に盾角と事務所に戻った西野は、今晩泊まることになった。






この時、3人は想像もしなかった。


たった数時間後のことを。


轟々と燃えさかる炎が、一軒の家を飲み込んでいくことを。


不安が、さらに大きくなってしまうことを。




8月14日 3時02分

ー 盾角探偵事務所 ー


白石が自室へ、西野が来客用の部屋にいってから2時間ほど経った。

1人でタバコを吸っていた盾角のスマートフォンが急になった。

深夜、急にかかってくる電話は気味の悪いものだが、その不安感は画面に表示された"若月警部"という文字によって、さらに大きくなった。


盾角「もしもし、警部ですか?」

若月「よく出てくれたな、大変だ」

盾角「こんな時間にどうしたんですか!」

若月「乃木町二丁目で大火災だ、一軒家が丸々燃えてるんだがな」

盾角「…電話して来られたということは、例の事件と関係が?」

若月「あぁ、置いてあったよ…新品のハイライトが。しかもわざわざ金庫に入れてな」

盾角「…燃えないようにしたってことですか…」

若月「見つけやすいようにするためか、ご丁寧にも玄関部分にあったらしい」

盾角「…住人は無事なんですか?」

若月「いや、残念ながら2人亡くなったよ…この家に住む夫婦で間違いない。それに若い女の子が1人意識不明で運ばれたが、救急車の中で意識を取り戻したらしくてな、命に別状はないらしい」

盾角「わかりました、とにかく俺も今から行きます」

若月「待ってるぞ」


盾角は車のキーと財布を持って事務所を飛び出した。


8月14日 3時25分

ー 乃木町二丁目 火災現場 ー


盾角「お待たせしました、警部」

若月「おう、こんな時間に悪いな」

盾角「いえ、それで、例の金庫は?」

若月「あそこで鑑識が調べてるよ」


盾角は若月の許可をもらい、金庫を念入りに調べた。


盾角「怪しいところはないですね…」

若月「あぁ、至って普通の金庫だ」

盾角「それで、被害者については…」

若月「亡くなったのはこの家に住む賀喜祐輔さん、その奥さんの早紀さんの2人、搬送されたのは賀喜遥香さん、真州芸術大学の1年生らし…」

盾角「ましゅうげいだいぃぃぃ?!」

若月「なっ、なんだ!」

盾角「あーいっ、いや、なんでもないです、すいません…」


警部のその後の話で、今回の火災で亡くなった2人は、西野と同じ芸大に通う、賀喜遥香さんの叔父と叔母であることがわかった。

さらに、事件に関する新たな情報として、容疑者の深川麻衣、伊藤万理華のそれぞれの父親が、かつて同じサークルに所属していたことが判明した。


盾角「じゃあまさか!」

若月「確証はないが、この火災で亡くなった被害者がそのサークルの関係者なら…」

盾角「…」




若月「連続殺人になる」



第2章 終

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