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日記、処女卒

家に人を呼んだ(というか来た)
まあ、麺を食べて、タオルも買ってて、マットレスも買っておいたので汚いことはなかっただろう。
それで、風呂に私は入っていたので(狭いからねー)相手に入ってもらって、しばし気まずくなったあと、狭くて硬いベッド(いまの今まで忘れていた)でぎゅうぎゅう!になって寝た。キャンプで寝転がって星を見る代わりに、自宅の暗い天井があった。
よく考えたら名前も職場も学部も知らないけど、悪いことは出来なさそうだなというある種の達観があった。
驚いたのが他人なのに全然臭くない。これまでいやいや触れてきた色々のおかげと、多分弟がいたり、男友達として人と付き合ったりしたおかげで、なんのロマンスも湧いてこなかったから、驚くほど落ち着いて眠ることが出来た…
というお話の終わりのはずなのだが、なんの話をしていたっけ。
とにかく「関係ない話するんだけど」という前置きで、じゃあ関係ない話するんだろうなーと思ったら「好きな人いる?」と聞かれたのだ。まあ居ないとLINEで伝えていたからそう答えたのだが、『好きな人いる?』!!!
青春か?
中学以降聞いてないぞそんなセリフ。確かに、この状況でこの「関係ない話なんだけど〜」の言葉、次は恋バナになるよな。
その感覚というか、状況の読解力?が自分の中で希薄になっていたのを少々残念に感じた。
思えば、イチャイチャしてきた、あの大層不快な有象無象との経験が、ここで昇華された気がする。甲斐があった。
一緒に寝てるのが快でも不快でもなかったのは、多分全然彼が目を合わせて人と喋らないから、こっちをジロジロ見られている感じがしなくてそれが人間味を感じさせなかっtそれでいいのか君は。そもそも麺を注文した時も話しながら矢鱈に口元を隠してたじゃないか。年頃の女の子が自分の顔を気にしてマスクをするのと似た自己嫌悪を感じたが気にしすぎか?
「付き合ってください」と言われた。
早すぎると思った。
そもそも早すぎる、全てが。会って話してカフェに行って、帰りに次はお前の家に行く。部屋を掃除して飯を作れ(意訳)って、バカがよ。と思ったし、そもそも今日泊まってるのもその日私の家に招いたから相手の家で飯を食えるというかお前も同じことしてみろ、やーいと思っていたのが、予定変更で泊まるのお前の家でいい?(意訳)になって、まあ掃除したばかりだから失うものはない(あった、マットレスやタオルやシャンプーを買った、タオルについては持って来もしなかった!)と思って了承したまでだ。ここまで全てがわたしの配慮だ。店でいくつか奢ったからって、そこに生まれるのは金銭債務であって愛情じゃないぞ。それも2000円だろう。こちとら飯作って家具揃えて掃除してる。これは私の性格がこうだからだ。誰が来ても不快にならないように気を遣ってこうしてやるんだ。おもてなしだ。おい。つまりはまだお互いがお互いにとってなんでもないんだよ。早すぎるんだ。

でも、了承した。
なぜなら私は恋愛から何年も離れていて、もう完全にノンバイナリーで生きてて、だから自分の価値観が世間の理想とどれだけずれているのか分からなくて、人生経験は積むほど歳を重ねるのが楽しいと知っていて、ここで断ったらこれまで断った全ての自分から変われないと思ったからだ。
だけど、相手はここ住みで、私はこれからどこに就職するか分からないのであと2年しか付き合えませんよ。と言って悩んだ。そしたら民間の就職じゃなくて公務で薬品の管理をしていた。これが名前と住所と年齢を知らない誕生日も出身もね!彼の特徴のひとつだ。だから全国で働けると言ってきた。かっけー。
で、じゃあ公務員試験も受けたんですか!と言ったら受けてたし、私と同じで民間も公務員も受けたというから、実益あった。
「じゃなくて!付き合ってくれるんですか?」
「良いですよ」
「じゃあタメ口じゃなくて良いよ、いや違った、タメ口でいいよ」
「分かりました」
「治ってないじゃん」
「いつか馴染みますよ」
そういって、そのまま寝る気でいたら、
ーー男女2人、ベッドのなか、何も起きないはずがなくーー
というテロップが流れて、めちゃくちゃ抱いてきた。
かき抱いてきた。
(この流れ、はいはい、この流れね。)
と思った。男のひとっていつもそうですね。
で、乳を揉もうと頑張るから、「胸無くてごめんなさいね」と言った。嘘、思ってない。胸は無いほど生活し易くていい。
だけど、全然何も感じなかった。優しすぎる。蚊でも飛んでるくらいの撫で方。気を遣ってくれてるのは嬉しい!ありがとう!
良かったのは、私はなんにもしなくてもぜーんぶやってくれたことだ。私は人形と化していればよかった。
で、処女卒業した。激痛〜〜
でも生理よりはマシ〜
思うに、生理でそもそも「酷」であるソコが今更どうなってもという感情で、期待ほど感慨深いものはなかった。
真っ暗だから、グロテスクなイチモツにお目にかかることがなくて、なんかボテっとしたものが入ってきただけだったのは幸いだった。で、腰を振るけど壁が薄いから肌のぶつかる音が隣に聞こえないか(十中八九聞こえていた、ごめん隣人)気が気じゃなくて、どうにか位置を調整して音が鳴らないようにした。
初めに正常位、次にバック、最後にピストンで終わった。ぜんぶやるなと思った。
正常位の時、入れてしばらくしてからゴム付けてないやん!って私が指摘して、危ねえ危ねえと付けた。危ねえ!
その時コンドームを膨らます仕草がやけに慣れてて、真っ暗闇だし、慣れてるのかそうじゃないのかハッキリしろと思いながら見ていた。
息をしたらドンと突かれて、内臓がスライドして口から息が出るから、ん!ん!と音が出るが、あれは演出じゃなくて、人間の生態構造上音が出るだけだったので、これからAVを見た時に冷めるかもしれない。とにかく全てすごく優しかった。ありがとね!でもなんも感じないや!風俗だったら良客。

そもそも行為という概念に対しても何も感じていないので、演技するという気力も生まれなかった。やろうと思えば出来たけど、可愛こぶるというのはやるだけ惨めになると知っている。
終わって、本当に早く終わって、コンドームをん、と渡された(捨てる場所が分からないので捨てての意)ので「いらないです」と言った。
捨てたのを見たけど何も出てなかった。私の血だけ(笑)
たーぶん、私も相手も気持ちよくなかった。し、そもそも乗り気だったのかな。乗り気じゃないなら私に可愛いとか言ってたのも、他人と付き合うためのお世辞だって言ってみろよ。そしたら私から告ってやるよ。
あまりにも手際が良かったので(処女目線)「経験豊富なんですか?」と聞いたら「ぜんぜん、ぜんぜん」と言った。あんたがヤリ目でインスタに来て、2000円で女抱いただけの人間でも、許すよ。まあカレカノになろうね!って言ったのは疑罔で詐欺で、不同意性交罪だけどな。そしたら留学費の足しにしてやるからな。
とにかく、やっと処女を卒業できた。20歳になると、おかしい、とおかしくない結婚相手まで守れ、とが半々くらいになって、その後急速に何か人間性に問題がある、重いしイタい、という評価になっていく。醜いから、早くそのレースから離脱したかった。
そもそも誰と何回なんて、自分以外知らなくていいし、人も知りたがらないから、自分さえ納得出来ればいいのだ。

それに、人生経験が一つ増えて、また大人になることが出来た。
免許を持って酒を飲んでセックスをして、項目的にはもう大人だ。
安心した。

安心したといえば、そのあとパンツを探して履き直して、一緒に寝た時、バックハグだとか腕枕とか(腕枕はほんとに嫌だった!頭が浮いて首が痛いし、人の腕を圧迫している罪悪感がある)してきたけど、そんなのはどうでもよくて、正面で一回ギュッてした時、あれがすごく安心した。最高だった。
思うに、セックスは気持ちよくないし、意味もない。エロ漫画のそれはエッチだけど、現実世界のそれは生殖行為以外の何物でもなくて、だから子供を産む時にだけやればいい。

セックスは恥ずかしいものじゃなくて、恥ずかしいと思う気持ちを強制的にオフにする最強コミュニケーションツールだったのだ。
「男は甘えられないからセックスするんだ」とか、「疲れたサラリーマンなのでコンカフェに行きます」が、感想の受け売りじゃなくてピッタリ私にはまった。
私たちは大人になって責任が重くて誰にも甘えられないから、一回ぜーんぶ取っ払って、お互いを思いやってあれこれおままごとして、お互いを信用して、「あなたは大丈夫、存在してていいよ」と確かめ合うジェスチャーだった。
だから、要するに、本当に人に甘えられないやつだけ股を開け。その取っ払いが終わったあとの正直なコミュニケーションが一番気持ちいいんだ。

朝7時、私たちは大人に戻ったから、私は朝ごはんを作って出して、今度は本当に冷蔵庫に小麦粉と味噌と水しかなくなった。だけど外は窓に結露が滴るほど快晴で、それもすぐ蒸発するほど春の日で、これまで会った日は今のところぜんぶ晴れだなと思いながら、私は大学へ、彼は予定があるから電車に乗るために一緒に外に出て、手を振って別れた。



だけどチンコは2度と舐めねえ。昼にカツカレーを食って帳消しした。いちごのパンケーキも食ってやった。ふざけるな。バカすぎる。

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