ノーカントリー

裏の金に手を出したために殺し屋に狙われる身となった男、そして彼らを追う保安官の話。

麻薬取引のイザコザで放置されていた大金をネコババしようとしたせいで、殺し屋に狙われることになった主人公の逃走劇が話の主軸だけど、真の主役は殺し屋の方だなと思った。

ハビエルバルデム演じる殺し屋のアントン・シガーは一度こいつを殺すと決めたら絶対に相手を逃さない。執拗に追う。            その途中で邪魔になる人間も、何のためらいもなく殺す。

遊び感覚で楽しみながら人を襲う殺し屋もいれば、あくまで仕事としてスマートにことを為す殺し屋もいるけど、アントン・シガーはどちらでもない。
何というか、全ての暴力行為が自然だった。
肩にとまった蠅を払うような。

自分を逮捕した保安官を手錠で絞め殺したり、車に放火して薬局に忍び込み薬を盗んだり、休憩中のドライバーを殺して車を奪ったり(何回かやってた)。

彼にとって犯罪行為は目的を果たすためのありふれた手段のひとつでしかないんだろうな、と思った。

それにしても主人公を殺すまでにいったい何人犠牲になったことか…
見ててため息が出るくらい、あまりにあっさりと周りの人間を殺しまくっていた。


印象に残っているシーン。
物語の終盤。主人公の死後、お葬式を終えた主人公の恋人が家に一人でいるところにアントン・シガーが現れる。

もちろん主人公に関わる人間を殺すためだ。

彼はコイントスをして、「裏表どちらか当てれば助けてやろう」と言う。
死ぬかどうかはあくまで自分次第、運なのだと言うように。

それに対して彼女は「いいえ、コインが決めるんじゃない。結局はあなたが決めることなのよ」と賭けを拒否する。

アントン・シガーは、誰も抗うことのできない暴力そのものだった。
彼と対峙した全ての人が感じる失望感、助かることへの諦めがこのセリフに表れていた。

決して単純に楽しめるような映画ではなく、理解できなかったシーンも沢山あったが、それでもアントン・シガーという男に感じる底知れぬ恐怖と魅力はしばらく忘れられないだろうと思った。

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