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妄想昭和歌謡 も 「森を駈ける恋人たち」麻丘めぐみ

昭和48年 歌 麻丘めぐみ 作詞 山上路夫 作曲 筒美京平

一般的には姫カットこそ彼女のイメージなのかもしれないが、私の中で麻丘めぐみといえば、「涙袋」だ。少女の頃のセブンティーンモデルから変わっていない、天然物の。
今では涙袋メイクにヒアルロン酸注入による涙袋形成術など、美容に興味あれば当然の存在の涙袋だが、昭和には一般的にあまり認識されてなかったと思う。
反対に加齢に伴うマイナスイメージの「ほうれい線」も昭和に名称を知っている人は少なかったように思う。手相顔相を見る時の易者用語(?)くらいの位置づけだった。

私も目の下ぷっくりにそんな名前があることなど知らない小学女子だった。
だから麻丘めぐみがかわいいのは「目が大きい」からだと思っていた。目が大きければいい、のだと。
同じクラスのギョロ目の男子も、「めっさん」と呼ばれていた女子も小学生時点では特にイケてる認定されていなかったが、ただ一般として皆闇雲に大きな目を目指していた。当時の少女マンガのヒロインの顔に占める目の大きさもそれを物語っている。

平成初めのラジオか深夜番組か何かで、なぜか美容外科医への相談をしていたのを耳にした。
「目の下がふくれている顔になりたいのですが、できますか?」
という相談に答える美容外科医。
「涙袋といって、下瞼に膨らみがあると魅力的になるのでそういう手術も行いますよ」
この時初めて目の下が膨らんでいることに美的価値があって、名前もある事に気づいた。それはその番組の聞き手であるパーソナリティーも一緒だったようで、さかんに「目の下が膨れている事に価値がある?わざわざ膨らます?腫れてるのとは違うの?」みたいな発言をしていて戸惑っている様子がありありだった。
私がその時思い浮かべたのは麻丘めぐみだった。
その時点ではイメージできていないパーソナリティに麻丘めぐみの写真を見せたらすぐ納得するのではないか、と思った。

色々なものが認識されると意識したり抗ったりしなきゃならなくて大変だ。あったりなかったりで新たなコンプレックスを抱えることになる。


麻丘めぐみは大ヒットの「私の彼は左利き」、次いでデビュー曲の「芽ばえ」が有名で、この二つに挟まれたこの「森を駈ける恋人たち」はあまりフォーカスされることはないが、ちゃんとある程度ヒットしている。
私にとっては以後あまり聞く機会もないこの曲の方が純粋に小学生頃の記憶と結びついている。
1コ下のいとこがこの歌を口ずさんでいたとか、クラスの子が右手にマイクも持ち左手を回すふりをしていたとか。

作詞者こそ違うが、その後の「アルプスの少女」につながる世界観。
森育ちの美少女が初恋であろう相手と、森でウフフ、キャッキャッとかけっこを繰り広げて、やがてつかまっていちゃいちゃするまでを描いた歌である。
森と言っても美しい湖があり舟を浮かべたり、その恋人とは森の小径で出会っていたりして、日本の山林でマタギとかむくつけき山男と出会ったのではなく、欧州のどこかの森で静養に来ていた身分は高いがあまり頼りにならない末っ子と恋に落ちた、みたいなイメージだ。
海辺でのカップル水の掛け合いっこみたいな自然を舞台にした時の前戯的なじゃれあい。
草原だったら花を摘んで髪や首飾りにするのも同じだ。
やがて口づけを交わすらしいが、それ以上は進んではイメージが壊れてしまう。あくまでいつかあなたの花嫁になりたい、その先は花嫁になってからだ。

令和の韓国発の姫カットは前髪厚くありだけど、麻丘めぐみのそれは前髪なしの十二単の姫イメージ。
姫カットのヘアスタイルこそ日本的だが、歌の舞台はヨーロッパの森。
何でもいい。可愛ければ。彼女の風貌はスイスの民族衣装とかも似合いそうだし。

麻丘めぐみのデビュー曲「芽ばえ」の方はちょっと不思議な世界だった。
「もうあなたのそばを離れないわー」
とあなたに心酔している様子。母が
「この歌はいったいどういう意味?この娘が元不良少女だっていうこと?」
と言っていたのを覚えている。
歌詞が
「もしもあなたに逢わなければ」
「悪い遊び覚えていけない子と人に言われて泣いたでしょう」
なのだ。でも歌ってる本人も歌い方も不良少女とは対極にあるような清純派だったので、確かにちょっと腑に落ちない。
今聞くと純粋な少女が教祖様に感化されて新興宗教に取り込まれたような感じさえする。そう思うと
「あなたに逢わなければ 神の裁きを受けたでしょう」
という二番の歌詞がはまってくる。

彼女にはそれより外国の森で恋をする女の子の方がよりイメージには合っている。

今聴くと明らかに昭和の香りを感じてしまうのは歌詞でも曲でもなく歌い方、もしくは発声法にあった。

1番の すぐに あなたア〜ん❤️
2番の 夢の ようなア〜ん❤️
続く  めぐり 逢ったア〜ん❤️

のこの感じ。
昭和の子どもの頃のお決まりの表現に「あなたア〜ん」というのがあった。
サザエさんの連載漫画の中で、新婚の妻が夫を呼んだり、ホステスが馴染みの客を呼ぶ時使いそうなイメージ。
メガネをかけたスネ夫ママみたいな人なら「ザアマス」を語尾につけるとか、じいさんがしゃべる時の一人称は「わし」で語尾は「じゃ」みたいな、ステレオタイプなあくまでイメージだが、当時の世の男の多くは「あなたア〜ん」と呼ばれるとぐっとくる習性があったのか。
昭和お色気歌謡ではこの「あなたア〜ん」とか「いやア〜ん」とかの発声法とか使用頻度が特筆すべきだが。
当時は清純派がこれを口にすると、お色気路線ではなく甘えるかわい子ちゃんを意味し、男心を掴んだのかも。
この部分のみア段で統一してあるし、松田聖子みたいな天性の歌い手でもなければ十代の娘っ子がこの「ア〜ん❤️」を自発的に取り入れた可能性は低そうだから、歌唱指導されたのかな?

森やアルプスで見染められた相手の男は身分は高いだけに、政略結婚させられたり、一族に認められなかったり成就しない、女性側に不利な場合もあると考えておかなければならない。
まだまだ処女性が大事にされそうな世界観の中にいるから、その先は切り札として取っておかなくては。


欧州の山の娘のイメージは、ファンである当時の若い男と、小学生女子、どちらの心をもつかむのに最適だった。間に当時の日本人若者等身大「左利き」というワードをはさんで、涙袋と共に昭和女性アイドルの王道を、いや王女道を確かに作ってたな。

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