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【読書ノート】英語独習法


はじめに

要約:
本書は、認知科学の知見に基づいて、英語学習の合理的な学習法を提案することを目的としている。著者は、英語学習本の多くが「英語の学習」に特化しており、認知のプロセスを考慮していないと指摘する。本書では、情報処理のしくみ、認知バイアス、理解のしかたを考慮し、英語学習者が陥りがちな問題点を指摘しながら、具体的な学習法を提案していく。本書の特徴は、学習法を提案するだけでなく、その理由とメカニズムを解説することにある。

印象的なフレーズ:

  • 「合理的な学習法を提案する」だけでなく、「その理由としくみを解説する」ということが本書の特徴で、これまでの英語学習の数多の書物と違うところだと自負している。

  • 言語を使うときに必要となるほとんどの知識は、知っていることが意識されない暗黙の知識――スキーマ――である。

  • 言語の学習には終わりはない。新書1冊で英語の(そして言語の)奥深さのすべてを伝えることはもちろんできないし、本書を読むだけで読者が英語の達人になれるとか英語がペラペラになる、などという非現実的なことは言わない。

重要なポイント:

  • 認知科学の知見に基づいた英語学習法の提案

  • 学習法の理由とメカニズムの解説

  • 英語学習者が陥りがちな問題点の指摘

  • 具体的な学習法の提案

質問文:

  1. 本書が英語学習法を提案する上で基礎としているのはどの分野の知見か?

  2. 著者が指摘する、多くの英語学習本の問題点は何か?

  3. 本書の特徴として挙げられているのは、学習法の提案と何について解説することか?

重要な概念の解説:

  • 認知科学:人の知覚、記憶、思考や学習のしくみを心と脳のさまざまなレベルで理解しようとする学問。

  • アクティヴ・ラーニング:学習者が主体的に問題を発見し、解を見出していく能動的な学習方法。

考察:
「英語独習法」の「はじめに」では、著者が認知科学の知見を基に、英語学習の合理的な学習法を提案することを宣言している。著者の指摘通り、多くの英語学習本は「英語の学習」に特化しており、学習者の認知プロセスを考慮していないという問題点は見過ごされがちである。言語学習において、学習者の情報処理のしくみ、認知バイアス、理解のしかたを理解することは非常に重要であり、著者がこの点に着目していることは高く評価できる。

また、本書が学習法を提案するだけでなく、その理由とメカニズムを解説するという点も魅力的である。学習者が学習法の背景にある原理を理解することで、提案された学習法をより効果的に活用できるようになるだろう。さらに、著者が英語学習者の陥りがちな問題点を指摘しながら、具体的な学習法を提案するというアプローチは、読者にとって実践的で有益であると考えられる。

一方で、認知科学の知見を英語学習に応用するという試みは、まだ発展途上の分野であり、提案される学習法の有効性については経験的な検証が必要である。また、個々の学習者の特性や学習環境によって、最適な学習法は異なる可能性があることにも留意が必要だろう。

しかしながら、「英語独習法」が言語学習における認知科学の重要性を示し、学習者の認知プロセスを考慮した革新的な英語学習法を提案することで、英語教育の発展に寄与することは間違いない。本書が言語学習者と教育者に新たな視点を提供し、より効果的な英語学習の方法論の確立につながることを期待したい。

第1章 認知のしくみから学習法を見直そう

要約:
第1章では、英語学習法を見直すにあたり、認知科学の知見を踏まえることの重要性が説明されている。著者は、英語教育の現場で見られる問題点を指摘し、人の記憶や情報処理のしくみを理解することが、効果的な英語学習法を考える上で不可欠だと主張する。また、言語習得における母語と外国語の違いや、学習者の目標設定の重要性についても言及されている。さらに、著者は英語学習を他のスキルの習得と比較し、英語学習に特有の問題点を浮き彫りにしている。

印象的なフレーズ:

  • 「わかりやすく教えれば、教えた内容が学び手の脳に移植されて定着する」という考えは幻想である

  • 日本語母語話者が簡単に、片手間の勉強で、プロフェッショナルレベルの英語を習得することは無理である

  • 英語学習を始める第一歩は、自分が必要な英語はどのようなレベルなのかを考えることだろう

  • 英語の熟達は他のあらゆる分野の熟達と重なるところが多い

重要なポイント:

  • 認知科学の知見を踏まえた英語学習法の見直しの必要性

  • 英語教育の現場で見られる問題点の指摘

  • 言語習得における母語と外国語の違い

  • 学習者の目標設定の重要性

  • 英語学習と他のスキルの習得の比較

質問文:

  1. 著者が英語教育の現場で指摘する問題点の一つは何か?

  2. 言語習得において、母語と外国語はどのように異なるか?

  3. 著者が提案する、英語学習を始める第一歩は何か?

重要な概念の解説:

  • 認知バイアス:人が意思決定を行う際に、無意識のうちに特定の情報に偏った注意を向けてしまう傾向のこと。合理的な判断を妨げる要因となる。

  • 多聴:外国語学習において、大量の音声インプットを通して言語を自然に習得する学習方法。

  • 多読:外国語学習において、大量の読書を通して言語を自然に習得する学習方法。

考察:
第1章では、英語学習法を見直すにあたり、認知科学の知見を踏まえることの重要性が説得力を持って論じられている。著者が指摘する、英語教育の現場で見られる問題点は、多くの英語学習者が経験していることであり、共感を覚える。特に、学習者の記憶や情報処理のしくみを考慮せずに、教師の知識を一方的に伝達するだけでは、効果的な学習は難しいという指摘は重要である。

また、言語習得における母語と外国語の違いについての著者の見解は興味深い。母語習得では、子どもは豊富な言語入力を受け、試行錯誤を繰り返しながら自然に言語を習得していくのに対し、外国語学習では、限られた言語入力の中で、意識的に学習を進めていく必要がある。この違いを理解することは、外国語学習法を考える上で不可欠であろう。

さらに、著者が学習者の目標設定の重要性を強調している点も重要である。英語学習に限らず、どのようなスキルの習得においても、明確な目標を設定することは学習の動機づけと効率を高める上で欠かせない。英語学習者が自分に必要な英語のレベルを見極め、それに合わせた学習法を選択することが、効果的な英語習得につながるという著者の主張には説得力がある。

第1章を通して、著者が英語学習を他のスキルの習得と比較しながら、認知科学の知見に基づいて学習法を見直すことの重要性を訴えている点が印象的である。この視点は、英語教育に新たな洞察をもたらし、より効果的な学習法の開発につながることが期待される。

第2章 「知っている」と「使える」は別

要約:
第2章では、英語の可算・不可算名詞の使い方を例に、文法知識を「知っている」ことと「使える」ことの違いが説明されている。著者は、多くの英語学習者が可算・不可算名詞の使い分けを間違えてしまう原因として、英語の可算・不可算文法の意味の理解不足、個別の単語の可算・不可算の認識の誤り、可算・不可算を明示することを忘れて名詞を使ってしまうことを挙げている。さらに、日本語母語話者が英語の可算・不可算文法の習得に苦労する理由として、日本語の助数詞との違いや、母語の影響による思い込みを指摘している。

印象的なフレーズ:

  • 「知識がある」ことと「使える」ことは別なのである

  • 英語話者は、可算・不可算文法の抽象的な「意味」を身体で知っている

  • 日本語母語話者は可算・不可算文法を学習するときに、二重の意味で母語の影響を受ける

重要なポイント:

  • 可算・不可算名詞の使い分けの間違いの原因

  • 英語の可算・不可算文法の意味の理解の重要性

  • 日本語母語話者が英語の可算・不可算文法の習得に苦労する理由

  • 英語話者が可算・不可算文法の意味を身体化していること

  • 日本語の助数詞と英語の可算・不可算文法の違い

質問文:

  1. 著者が挙げる、英語学習者が可算・不可算名詞の使い分けを間違えてしまう原因は何か?

  2. 英語話者が可算・不可算文法の意味を身体化しているとは、どういうことか?

  3. 日本語母語話者が英語の可算・不可算文法の習得に苦労する理由として、著者は何を指摘しているか?

重要な概念の解説:
スキーマ:ある事柄についての枠組みとなる知識のこと。多くの場合、無意識下にあり、言語化することが難しい。外界の情報は、このスキーマを通して知覚される。

考察:
第2章では、英語の可算・不可算名詞の使い方を例に、文法知識を「知っている」ことと「使える」ことの違いが明快に説明されている。著者の指摘通り、多くの英語学習者は可算・不可算名詞の使い分けに苦労しており、その原因を理解することは効果的な学習法を考える上で重要である。

特に、英語話者が可算・不可算文法の意味を身体化しているという点は興味深い。英語を母語として習得する過程で、子どもは名詞の形態と意味の対応関係を無意識のうちに学習し、スキーマを形成していく。一方、日本語母語話者は、日本語の文法体系の影響により、このようなスキーマを自然に身につけることが難しい。この違いを理解することは、英語学習者にとって重要な気づきとなるだろう。

また、著者が日本語の助数詞と英語の可算・不可算文法の違いに着目している点も示唆に富む。日本語では、助数詞が名詞の数え方を規定するのに対し、英語では名詞自体が可算か不可算かを決定づける。この違いを理解せずに、日本語の感覚で英語の名詞を扱おうとすることが、間違いの原因となっていると考えられる。

第2章を通して、言語の背後にある概念体系の違いが、外国語学習に大きな影響を与えていることが明らかになった。英語学習者が、可算・不可算名詞の使い分けに代表されるような、英語特有の概念を身につけるためには、母語の影響を意識しながら、英語の文法体系に内在する意味を理解することが不可欠である。この過程は容易ではないが、著者が提案するような、認知言語学的なアプローチを取り入れることで、より効果的な学習が可能になるだろう。

第3章 氷山の水面下の知識

要約:
第3章では、英語の語彙を適切に使うために必要な、「氷山の水面下の知識」について説明されている。著者は、単語の意味を理解し、運用するためには、辞書的な意味だけでなく、その単語が使われる構文、共起する単語、使用頻度、使われる文脈、多義性、類義語との関係など、多岐にわたる知識が必要だと主張する。これらの知識は、母語話者の場合、無意識のうちに習得されるが、外国語学習者は意識的に学ぶ必要がある。また、著者は、「語彙力」が単なる単語の量ではなく、文脈に応じて適切な単語を選択できる能力であると強調している。

印象的なフレーズ:

  • 母語話者がもつ「生きた」単語の知識には、少なくとも以下の要素が含まれている

  • 「語彙力」というのは、頻度の低い、人が知らない単語をたくさん知っていることではない

  • 単語について母語話者がもっている知識は氷山のように巨大だが、ほとんどはスキーマで、もっていることを意識されない水面下に隠れた知識なのである。

  • 母語話者がもつ氷山の水面下の知識はまだまだある。

  • 子どもは自分で発見した言語についてのさまざまな知識を総動員して個々の単語の意味を推論し、語と語のネットワークも自分で発見していく。

重要なポイント:

  • 単語の意味を理解し、運用するために必要な知識の多様性

  • 母語話者が無意識のうちに習得する語彙知識

  • 外国語学習者が意識的に学ぶ必要がある語彙知識

  • 「語彙力」の定義

  • 外国語学習者の単語知識の特徴

質問文:

  1. 著者が「氷山の水面下の知識」と呼ぶものには、どのような要素が含まれているか?

  2. 母語話者と外国語学習者の語彙知識の習得過程の違いは何か?

  3. 著者が定義する「語彙力」とは、どのような能力を指すか?

重要な概念の解説:

  • 共起:ある単語が他の特定の単語と一緒に使われる傾向のこと。単語の意味を理解する上で重要な手がかりとなる。

  • 多義性:一つの単語が複数の意味を持つこと。文脈によって単語の意味が変化する。

  • 類義語:意味が似ている単語のこと。ニュアンスの違いを理解することが、正確な単語の使い分けに重要である。

考察:
第3章では、英語の語彙を適切に使いこなすために必要な知識の広がりと深さが、「氷山の水面下の知識」という比喩を用いて説得力を持って説明されている。著者の指摘通り、単語の意味を真に理解し、運用するためには、辞書的な定義だけでは不十分であり、構文、共起、使用頻度、文脈、多義性、類義語との関係など、多岐にわたる知識が必要とされる。

特に、母語話者がこれらの知識を無意識のうちに習得しているのに対し、外国語学習者は意識的に学ぶ必要があるという点は、言語教育において重要な示唆を与えている。母語話者は、豊富な言語入力の中で、単語の使われ方を自然に学習していくが、外国語学習者は限られた言語入力の中で、体系的に語彙知識を身につけていかなければならない。この違いを理解することは、効果的な語彙学習法を考える上で不可欠であろう。

また、著者が「語彙力」を単なる単語の量ではなく、文脈に応じて適切な単語を選択できる能力であると定義している点も重要である。語彙学習において、単語の意味を一つずつ覚えるだけでは不十分であり、単語間の関係性や使い分けを理解することが求められる。この能力を養うためには、多読や多聴によって生きた言語に触れることが効果的だと考えられる。

第3章を通して、語彙知識の複雑さと習得の難しさが浮き彫りになった。外国語学習者が「氷山の水面下の知識」を身につけるためには、意識的な努力と工夫が必要とされる。しかし、著者が示唆するように、母語話者の語彙習得過程に学びながら、体系的かつ文脈に根ざした語彙学習を進めることで、より効果的な語彙力の向上が期待できるだろう。

第4章 日本語と英語のスキーマのズレ

要約:
第4章では、日本語と英語のスキーマの違いが英語学習に及ぼす影響について述べられている。著者は、日本語と英語では行為の描写方法や状態と動作の区別の仕方が異なることを指摘し、これらのスキーマのズレが英語の語彙学習を妨げていると主張する。また、子どもは3歳ごろから母語固有のスキーマを身につけ始めるが、英語学習者は日本語スキーマを意識的に疑い、英語スキーマを探索し、アウトプットの練習を通して身につける必要があると述べられている。

印象的なフレーズ:

  • 日本語話者が英文を作ると、日本語の文にある単語を一つ一つ英単語に置き換えた不自然な英語になりがちだ

  • 英語では動きを表現するとき、本来は動きの様子を表す様態動詞に方向を表す前置詞を組み合わせ、様態動詞を「~しながら移動する」という意味に転化させる構文を多用する

  • スキーマは身体に染みついた無意識の知識である

  • 日本語スキーマを当てはめていることに気づかずに英語のアウトプットを続けていては、いつまでたっても上達は望めない

  • ことばの意味は点ではなく面である

  • 母語の意味範囲を誤って外国語に適用してしまう誤用例は枚挙に暇がない

  • 人は正しいスキーマを誰かに教えられただけでは、結局前からあるスキーマに負けてしまい、新しい、正しいスキーマを定着させることができない

重要なポイント:

  • 日本語と英語では行為の描写方法や状態と動作の区別の仕方が異なる

  • 英語では様態動詞と前置詞の組み合わせが多用される

  • 子どもは3歳ごろから母語固有のスキーマを身につけ始める

  • 英語学習者は日本語スキーマを意識的に疑い、英語スキーマを探索し、アウトプットの練習を通して身につける必要がある

  • 外国語学習者は母語の意味の類似性から誤った類推をすることが多い

質問文:

  1. 日本語と英語では行為をどのように描写する傾向があるか?

  2. 英語母語話者の子どもは何歳ごろから英語固有の動詞スキーマを獲得するか?

  3. 英語学習者が英語スキーマを身につけるためのステップは何か?

重要な概念の解説:

  • スキーマ:物事を認識し理解するための知識の枠組みのこと。言語における語彙や文法の使い方についての無意識の知識も含む。

  • 様態動詞:動作の様子や状態を表す動詞。英語では"float", "stagger", "limp"など。

  • 語彙化のパターン:出来事を表現する際に、言語によってどの要素を動詞に組み込み、どの要素を動詞以外で表現するかの傾向のこと。

考察:
第4章では、日本語と英語のスキーマの違いが英語学習に与える影響について、具体的な例を交えながら詳細に論じられている。著者が指摘するように、日本語と英語では行為の描写方法や状態と動作の区別の仕方が大きく異なっており、日本語母語話者がこれらのスキーマのズレを意識せずに英語を学習すると、不自然な英語表現を産出してしまうことになる。

特に、英語では様態動詞と前置詞の組み合わせが多用されるのに対し、日本語では動詞で方向性を表し、様態は副詞で表現するという違いは、英語学習者にとって重要な気づきであろう。また、子どもが3歳ごろから母語固有のスキーマを身につけ始めるという指摘は、外国語学習における母語の影響の大きさを示唆するものである。

著者は、英語学習者が英語スキーマを身につけるためには、日本語スキーマを意識的に疑い、英語スキーマを探索し、アウトプットの練習を繰り返す必要があると主張する。この提案は、言語学習における能動的な姿勢の重要性を訴えるものであり、説得力がある。学習者が自ら英語のスキーマを発見し、実践を通して定着させていくプロセスは、単に英語の語彙や文法を暗記するだけでは得られない、深い言語理解につながるだろう。

また、外国語学習者が母語の意味の類似性から誤った類推をしてしまうという指摘は、言語間の干渉の問題を浮き彫りにしている。この問題を克服するためには、学習者が各言語の語彙や文法の使い方の違いを意識的に理解し、言語ごとに独立したスキーマを構築していく必要がある。

第4章を通して、著者が日本語と英語のスキーマの違いに着目し、英語学習者の視点からその影響を分析している点が印象的である。この視点は、英語教育における新たな指導法の開発や、学習者の自律的な学習を促す上で重要な示唆を与えるものであり、英語教育の発展に寄与することが期待される。

第5章 コーパスによる英語スキーマ探索法 基本篇

要約:
第5章では、コーパスを用いた英語スキーマの探索方法について、基本的な手順が解説されている。著者は、英語スキーマを作るためには、単語の意味を深く理解することが重要だと述べ、辞書の語義を丁寧に読み、例文に当たることを勧めている。また、コーパスを使って単語の使われ方を調べる方法として、共起語やジャンルごとの頻度分布の分析、類義語との比較などが紹介されている。さらに、コーパスを使いこなすためのコツやツールの選び方についても言及されている。

印象的なフレーズ:

  • 英語母語話者は日本語を母語とする学習者がこれらをみな「恥ずかしい」という同じ単語でくくることに驚くに違いない

  • 単語同士の類似性を文型と切り離して意味だけで考えてしまいがちだが、意味は単語単体で表現されるのではなく構文全体で表現される

  • 「本能」はinstinct、「直感」はintuitionという「公式」だけを覚えてしまうと、文脈がちょっと変わったり、日本語にこの二つの単語が使われていなかったりすると、もうintuition, instinctが使えなくなってしまう

重要なポイント:

  • 英語スキーマを作るためには、単語の意味を深く理解することが重要

  • コーパスを使って単語の使われ方を調べることができる

  • 共起語やジャンルごとの頻度分布の分析、類義語との比較が有効

  • コーパスを使いこなすためには、試行錯誤と使い込みが必要

  • 正しいスキーマを定着させるためには、自ら探索し、実践を通して身につける必要がある

質問文:

  1. 著者が提案する、英語スキーマを探索するための基本的なステップは何か?

  2. コーパスを使った単語の分析において、どのような情報を手がかりにできるか?

  3. 正しいスキーマを身につけるために、学習者はどのような姿勢で臨む必要があるか?

重要な概念の解説:

  • コーパス:大量の電子テキストを集めたデータベースのこと。言語の実際の使用例を調べるために用いられる。

  • 共起:二つ以上の語が文中で近接して現れる現象。共起関係の分析から、語の意味や使い方が明らかになる。

  • 語義:多義語の個々の意味。辞書では語義ごとに番号が振られ、定義や用例が示される。

考察:
第5章では、コーパスを活用した英語スキーマの探索方法について、具体的な手順が丁寧に解説されている。著者が強調するように、英語スキーマを構築するためには、単語の意味を深く理解することが不可欠であり、辞書の語義を丁寧に読み、例文に当たる習慣を身につけることが重要である。

また、コーパスを使って単語の使われ方を調べる方法として、共起語やジャンルごとの頻度分布の分析、類義語との比較などが紹介されている点は、英語学習者にとって有益な情報であろう。これらの手法を通して、学習者は単語の意味や用法についての理解を深め、英語特有のスキーマを発見していくことができる。

著者は、母語の意味範囲を誤って外国語に適用してしまう誤用の問題にも触れ、学習者が母語のスキーマにとらわれずに、英語独自のスキーマを身につける必要性を訴えている。この指摘は、言語間の干渉が外国語学習の障壁となりうることを示唆するものであり、学習者がこの問題を意識し、克服していくことの重要性を浮き彫りにしている。

また、著者が正しいスキーマを定着させるためには、学習者自身が能動的に探索し、実践を通して身につけていく必要があると主張している点は、言語学習における自律性の重要性を示すものである。教師から与えられた知識を受動的に吸収するだけでは、真の言語習得は難しい。学習者が自ら問いを立て、コーパスを活用しながら英語のスキーマを発見し、実際の言語使用場面で試行錯誤を繰り返すことで、初めて英語の本質的な理解が得られるのである。

第5章を通して、著者がコーパスを活用した英語スキーマの探索法を提案し、学習者の能動的な姿勢の重要性を説いている点が印象的である。この提案は、従来の語彙学習法の限界を踏まえた上で、言語の実際の使用場面に即した学習法を模索するものであり、英語教育の発展に寄与することが期待される。

第6章 コーパスによる英語スキーマ探索法 上級篇

要約:
第6章では、第5章で紹介した基本的なコーパスの活用法を発展させ、より高度な英語スキーマの探索方法が解説されている。著者は、単語が使われるジャンルの特定や、共起する単語の分析、使われる構文の調査などを通して、単語の意味やニュアンスを詳細に理解することの重要性を説いている。また、WordNetを用いた語彙のネットワーク構造の分析や、複数のコーパスツールを組み合わせた活用法についても言及されている。これらの手法を通して、学習者は英語の語彙や文法の背後にある文化的・概念的な枠組みを発見し、英語の本質的な理解を深めることができると述べられている。

印象的なフレーズ:

  • 外国語学習者は、自分の母語に訳したときの意味が似ていると、つい構文も同じだと思ってしまい、誤った類推によって使える構文を間違えることが多い

  • 自然な英語をアウトプットするために意外と盲点になるのが文脈情報だ

  • WordNetでは、すべての名詞が、上位概念をたどっていくとentityに行きつく

  • 英語が背景とする文化では、object(全体として数えられる物体)かsubstance(それ自体は数える単位とならない物質)かは概念の系統樹を作っていくうえで、生き物か否かよりも枝分かれの上位にくる

  • さまざまな名詞のhypernymを見ていくと、英語を話す人々の世界の見方がなんとなく見えてくる気がする

重要なポイント:

  • 単語が使われるジャンルを特定することで、単語のニュアンスを理解できる

  • 共起する単語の分析から、単語の意味や用法が明らかになる

  • 単語が使われる構文を調査することで、単語の使い方を正確に把握できる

  • WordNetを用いることで、語彙のネットワーク構造を分析できる

  • 複数のコーパスツールを組み合わせることで、より深い語彙理解が可能になる

質問文:

  1. 単語が使われるジャンルを特定することで、どのような情報が得られるか?

  2. WordNetを用いた語彙分析では、どのような点に着目することが重要か?

  3. 複数のコーパスツールを組み合わせる利点は何か?

重要な概念の解説:

  • ジャンル:文章の種類や文体。学術論文、新聞記事、小説など。

  • WordNet:英単語の意味関係を記述したデータベース。同義語、上位語、下位語などの関係が定義されている。

  • hypernym:ある語の上位語。例えば、「動物」は「犬」の上位語。

考察:
第6章では、コーパスを活用した高度な英語スキーマの探索方法が提示されている。著者が強調するように、単語の意味やニュアンスを正確に理解するためには、単語が使われるジャンルや共起する単語、使われる構文などの情報を詳細に分析することが不可欠である。これらの情報を手がかりに、学習者は単語の使用場面や文脈を具体的にイメージし、英語特有の表現パターンを発見していくことができる。

特に、著者がWordNetを用いた語彙のネットワーク構造の分析を推奨している点は、言語理解における概念的な枠組みの重要性を示唆するものである。WordNetでは、単語同士の意味関係が階層的に定義されており、これを辿ることで、英語を話す人々の世界観や価値観を垣間見ることができる。例えば、英語において、物体と物質の区別が生物と無生物の区別よりも上位の概念として位置づけられているという指摘は、英語の文法構造と文化的背景との密接な関連性を浮き彫りにしている。

また、著者が複数のコーパスツールを組み合わせた活用法を提案している点は、言語分析の可能性を広げるものとして注目に値する。各ツールにはそれぞれ長所と短所があり、一つのツールに頼るだけでは見落としてしまう情報もあるだろう。学習者が目的に応じて適切なツールを選択し、複数のツールを相互補完的に使いこなすことで、より立体的な語彙理解が可能になると考えられる。

第6章を通して、著者がコーパスを活用した探索的な語彙学習の重要性を説き、英語の背後にある文化的・概念的な枠組みの理解を促している点が印象的である。この提案は、言語学習を単なる語彙や文法の暗記ではなく、言語の本質に迫る知的営為として位置づけるものであり、学習者の知的好奇心を刺激するものでもある。著者の視点は、英語教育に新たな可能性をもたらし、学習者の自律的な探究を促す上で重要な示唆を与えるものと言えよう。

第7章 多聴では伸びないリスニングの力

要約:
第7章では、リスニングの力を伸ばすためには、多聴だけでは不十分であることが説明されている。著者は、語彙が少ないうちは知らない単語が多く含まれる教材を聞いても意味がなく、まずは語彙を増やすことが重要だと主張する。また、音の聴き分けは母語の影響を大きく受けるため、外国語学習においては特に注意が必要だと指摘している。さらに、リスニングにはスキーマが重要な役割を果たすことを説明し、リスニングのテスト問題は学習に不向きであると述べている。

印象的なフレーズ:

  • 英語は情報を得るためだけに使う、英語でアウトプットする必要はないという人も多いだろう。それはそれでよい。しかし、英語で伝えたいことがある、世界に発信したいというのなら、アウトプットの練習をしなければならない。

  • 余談になるが、ここが、母語と外国語の習得の大きな違いである。母語では、子どもは言語を耳から覚える。母語で使われる音とリズムをまず分析し、文を単語ごとに区切っていくやりかたを自分で発見し、音のかたまりとして単語を記憶にためていく。

  • 方言、なまり以前に、内容についてのスキーマがない、語彙力が足りない場合には、聴き取ろうとするより、まず語彙を増やすことに時間を使ったほうが有効である。急がば回れ、である。

  • 人は入ってくる情報を、まったく何も考えず受動的に受け取っているわけではない。常にスキーマを使って、次の展開を予測しながら聴いている。次にどのような意味の内容を話し手が言うかを予測し、そこから単語も予測する。

  • 結局、人の情報処理は、基本的に目的志向的で、必要のない情報には注意を向けない。そして注意を向けなかった情報は記憶されないのである。

重要なポイント:

  • 多聴だけでは語彙力が不十分で、リスニング力は伸びない

  • 音の聴き分けは母語の影響を大きく受ける

  • リスニングにはスキーマが重要な役割を果たす

  • リスニングのテスト問題は学習に不向き

質問文:

  1. 著者が主張する、リスニング力を伸ばすために重要なことは何か?

  2. 母語と外国語の習得において、音の聴き分けはどのように異なるか?

  3. リスニングにおいて、スキーマはどのような役割を果たすか?

重要な概念の解説:

  • 音素:言語の中で意味を区別する最小の音の単位。母語の音素体系は、言語習得の初期段階で形成される。

  • ダルメシアン知覚:背景知識や文脈情報があると、曖昧な知覚刺激でも、意味のあるものとして知覚される現象。

  • スキーマ:個人が持つ、物事に関する体系化された知識構造。新しい情報の理解や記憶に影響を与える。

考察:
第7章では、リスニング力を伸ばすためには多聴だけでは不十分であり、語彙力やスキーマの形成が重要であることが説得力を持って論じられている。著者が指摘するように、知らない単語が多く含まれる教材を聞いても、意味のある学習にはならない。まずは語彙を増やし、その分野に関する知識を深めることで、リスニングの際にスキーマを活用できるようになるという主張は、認知科学の知見に基づいており、納得できる。

また、音の聴き分けに関する著者の説明も興味深い。母語の音素体系は言語習得の初期段階で形成されるため、外国語学習においては、母語にない音素の聴き分けが困難になることがある。この点を理解し、意識的に外国語の音素体系を学ぶ必要性を著者は指摘している。

さらに、リスニングにおけるスキーマの重要性についての著者の見解は、示唆に富んでいる。スキーマがあれば、曖昧な音声情報でも文脈から意味を推測することが可能になる。したがって、リスニングの学習においては、語彙力の増強と並行して、背景知識を深めスキーマを形成することが重要だと言える。

一方で、著者がリスニングのテスト問題は学習に不向きだと述べている点については、もう少し詳しい説明があると良いかもしれない。テスト問題を用いた学習の限界と、より効果的なリスニングの学習法について、具体的な提案があれば、読者にとってより有益な情報になったのではないだろうか。

全体として、第7章は、リスニング力を伸ばすために必要な要素を認知科学の観点から分析しており、英語学習者にとって示唆に富む内容だと言える。多聴という一般的な学習法の限界を指摘し、語彙力とスキーマの重要性を説得力を持って論じている点は高く評価できる。

第8章 語彙を育てる熟読・熟見法

要約:
第8章では、語彙力を効果的に高めるための「熟読・熟見法」について解説されている。多読や多聴では、浅い情報処理となり語彙力の向上にはつながらないため、代わりに一つの教材を深く理解することが重要だと著者は主張する。具体的には、まず日本語字幕で内容を理解し、次に英語字幕で詳細をチェックするという手順で映画を繰り返し見る「熟見」の方法が紹介されている。また、同じ内容を異なる表現で繰り返す言い換えにも触れ、表現力を高める効果があると述べられている。

印象的なフレーズ:

  • 英語のセリフが頭に入ってきて、さらに「熟見」を続けると、字幕翻訳のプロの技量も楽しめるようになる。

  • 多読、多聴神話はその最たるものである。

  • 多読によって多くの単語を覚え、アウトプットに使える語彙を作ることができるというのは考えにくい。

  • 何かを理解しようと強く願い、真剣に意味を考えることを繰り返すと、それは、自然に記憶に深く刻み込まれ、身体の一部になって、いざというときに、自然と身体が思い出す、「生きた知識」になるのである。

重要なポイント:

  • 多読や多聴では語彙力は向上しにくい

  • 一つの教材を深く理解する「熟読・熟見法」が効果的

  • 日本語字幕と英語字幕を使い分けることで、深い理解が可能に

  • 言い換え表現に触れることで、表現力が高まる

質問文:

  1. 著者が主張する、多読や多聴の問題点は何か?

  2. 「熟見法」において、日本語字幕と英語字幕はどのように使い分けるべきか?

  3. 言い換え表現に触れることで、どのような効果が期待できるか?

重要な概念の解説:

  • 情報処理の深さ:入力された情報に対して、どの程度積極的に処理を行うかを表す概念。深い処理ほど、記憶の定着が良くなる。

  • 予測:文脈や背景知識に基づいて、これから起こる事柄を推測すること。言語理解において重要な役割を果たす。

  • あとづけバイアス:ある事象が起こった後で、その事象を予測できていたと過剰に認識する傾向。

考察:
第8章では、語彙力を効果的に高めるための「熟読・熟見法」について、具体的な手順とともに説得力のある説明がなされている。著者が指摘するように、多読や多聴では情報処理が浅くなりがちで、語彙力の向上にはつながりにくい。一方、一つの教材を深く理解する「熟読・熟見法」は、情報処理を深くすることで、語彙の定着を促進すると考えられる。

特に、映画を題材とした「熟見法」の手順は、認知科学の知見に基づいており、効果的な語彙学習法だと言える。日本語字幕で内容を理解してから英語字幕で詳細をチェックするという手順は、予測を活用しながら深い情報処理を行うことにつながる。また、日本語字幕を先に見ることで、内容理解の負荷が軽減され、英語表現により注意を向けられるようになるという点も重要な指摘である。

さらに、言い換え表現に触れることで表現力が高まるという著者の主張も興味深い。同じ内容を異なる表現で繰り返し学ぶことは、言語の柔軟性を養う上で効果的だと考えられる。英語学習においては、単に語彙を増やすだけでなく、状況に応じて適切な表現を選択する力を身につけることが重要である。

一方で、「熟読・熟見法」を実践するためには、学習者のモチベーションの維持が課題になると思われる。著者も指摘しているように、繰り返し学習を続けるためには、学習者が教材に強い興味を持っている必要がある。教材選びの重要性についても、もう少し言及があると良いかもしれない。

全体として、第8章は、語彙力向上のための具体的な学習法を提案しており、英語学習者にとって有益な情報が多く含まれていると言える。著者の主張は認知科学の知見に基づいており、説得力がある。「熟読・熟見法」は、単なる暗記ではない、深い理解を伴う語彙学習を可能にする方法として、高く評価できる。

第9章 スピーキングとライティングの力をつける

要約:
第9章では、スピーキングとライティングの力をつけるための効果的な学習法について論じられている。著者は、語彙力が不十分な段階では、スピーキングの練習よりもライティングに重点を置くべきだと主張する。その理由として、ライティングは自分のペースで進められ、推敲を重ねることで言語の理解が深まることが挙げられている。また、日本語スキーマを克服し、英語スキーマを身につけるためには、ライティングにおける自己フィードバックが有効だと述べられている。

印象的なフレーズ:

  • 結局、どんなに英語能力を向上させたい、という意欲をもっていても、英語は先生に教えてもらうもの、教えられたことを暗記するもの、という意識で学習している限り、伝えたいことを自在にアウトプットすることができるほんとうの英語力は身につかないのである。

  • 冠詞、数の一致、前置詞は日本語話者には永遠の課題である。その理屈を書いた参考書は山のようにある。しかし、理屈をスピーキング、ライティングのときに習慣的に使えるようになるためには、注意を向けながらとにかく数をこなして、自分で感覚をつかんでいくしかないのである。

重要なポイント:

  • 語彙力が不十分な段階では、スピーキングよりライティングを優先すべき

  • ライティングは自分のペースで進められ、推敲を重ねることで理解が深まる

  • 日本語スキーマを克服し、英語スキーマを身につけるには、ライティングにおける自己フィードバックが有効

  • 文法規則は、理屈を理解するだけでなく、実践を通して習慣化することが重要

質問文:

  1. 著者が、語彙力が不十分な段階ではスピーキングよりライティングを優先すべきだと主張する理由は何か?

  2. ライティングにおける自己フィードバックが、日本語スキーマの克服と英語スキーマの習得にどのように役立つか?

  3. 冠詞、数の一致、前置詞の使い方を習得するために、著者が提案する方法は何か?

重要な概念の解説:

  • 言語スキーマ:ある言語に特有の語彙や文法規則に関する知識体系。母語のスキーマが外国語学習に影響を与える場合がある。

  • 自己フィードバック:自分の言語産出に対して、自ら評価やコメントを行うこと。言語学習において重要な役割を果たす。

  • 言い換え:ある表現を、別の表現で置き換えること。言語の柔軟性を高める効果がある。

考察:
第9章では、スピーキングとライティングの力をつけるための学習法について、示唆に富む議論が展開されている。著者が主張するように、語彙力が不十分な段階では、スピーキングの練習よりもライティングに重点を置くことが効果的だと考えられる。ライティングは自分のペースで進められ、じっくりと推敲を重ねることで、言語の理解が深まるというメリットがある。

また、日本語スキーマを克服し、英語スキーマを身につけるためには、ライティングにおける自己フィードバックが有効だという指摘は重要である。自分の書いた英文を見直し、改善点を見つけ出すことは、英語の語彙や文法規則に対する理解を深める上で大きな役割を果たすだろう。教師のフィードバックも重要だが、学習者自身が能動的に自分の言語産出を評価することで、より効果的な学習が可能になると考えられる。

ただし、自己フィードバックを行うためには、ある程度の語彙力と文法知識が必要である。その点で、著者が提案する「熟読・熟見法」などを通して、まずは十分な語彙を獲得することが重要だと言える。また、自己フィードバックにおいては、学習者が自分の弱点を正しく認識できるように、教師のサポートも必要だろう。

さらに、著者が冠詞、数の一致、前置詞など、日本語話者にとって習得が難しい文法項目について言及している点も興味深い。これらの項目は、理屈を理解するだけでは習得が難しく、実際に使う中で感覚を身につけていく必要がある。著者が提案するように、意識的に注意を向けながら数多くの英文を書くことが、習得への近道だと考えられる。

一方で、ライティング中心の学習では、スピーキング力の育成がおろそかになる恐れもある。著者も指摘しているように、最終的には4技能をバランスよく習得することが理想的である。ライティングで培った語彙力と文法知識を、スピーキングにも活かす方法を探ることが、今後の課題になるだろう。

全体として、第9章は、スピーキングとライティングの力をつけるための具体的な学習法を提案しており、英語学習者にとって示唆に富む内容だと言える。特に、ライティングにおける自己フィードバックの重要性を強調している点は、従来の指導法にはない新しい視点を提供しているように思われる。一方で、ライティングとスピーキングのバランスをどう取るかについては、更なる議論の余地があるだろう。

第10章 大人になってからでも遅すぎない

要約:
第10章では、英語学習において「子どものときから始めないと身につかない」という一般的な思い込みに反論し、大人になってからでも効果的な学習が可能であることが説明されている。著者は、子どもの言語習得能力の高さを認めつつも、その利点が限定的であることを指摘する。一方で、大人の学習者は語彙力や背景知識の豊富さを活かすことができ、発音の完璧さよりも内容の伝達を重視することで、実用的なコミュニケーション能力を身につけられると主張する。また、学習の継続性と気長さの重要性についても言及されている。

印象的なフレーズ:

  • 子どもは、音の学習は大人より得意でも、知っている単語の数は限られているから、耳に入ってくる言語インプットの内容は子どもレベルのことに限られる。

  • むしろ高等教育と、高等教育以降に自分でおこなう学習の質と量が、プロフェッショナルレベルに到達するかどうかにおいては大事なのである。

  • 言語能力はどこまでも伸ばすことができる。だから、あせらず、気長に、完璧を求めず、しかし惰性ではなく、楽しみながら、よりよい学習法を考えながら続けること。それこそが英語学習の成功の秘訣である。

重要なポイント:

  • 子どもの言語習得能力の利点と限界

  • 大人の学習者の語彙力と背景知識の活用

  • 発音の完璧さよりも内容の伝達の重要性

  • 学習の継続性と気長さの重要性

  • 高等教育以降の自主的な学習の質と量の重要性

質問文:

  1. 子どもが言語習得に長けている理由の一つは何か?

  2. 著者が主張する、大人の学習者の利点の一つは何か?

  3. 著者が提案する、英語学習の成功の秘訣は何か?

重要な概念の解説:

  • 言語の敏感期:子どもが言語を習得するのに最適な時期。この時期に適切な言語刺激を与えることが重要とされる。

  • 母語のスキーマ:母語を通して形成された、言語の構造や使用に関する無意識の知識体系。外国語学習に影響を与える。

  • 間隔学習:一定の間隔を空けて学習内容を復習する学習方法。長期的な記憶の定着に効果的とされる。

考察:
第10章では、英語学習における年齢の影響について、一般的な思い込みに反論し、大人になってからでも効果的な学習が可能であることが論じられている。著者の主張は、言語習得に関する科学的知見に基づいており、説得力がある。

子どもの言語習得能力の高さは広く知られているが、著者が指摘するように、その利点は音声面に限定されており、語彙や内容面では制約がある。一方で、大人の学習者は豊富な語彙力と背景知識を活かすことができ、内容の伝達を重視することで実用的なコミュニケーション能力を身につけられる。この点は、英語学習者にとって励みになる視点であろう。

また、著者が学習の継続性と気長さの重要性を強調している点も重要である。英語学習には時間がかかるものであり、完璧主義に陥ることなく、楽しみながら継続することが成功の鍵となる。この姿勢は、英語学習に限らず、あらゆる学習において大切にすべきものである。

さらに、著者が高等教育以降の自主的な学習の質と量の重要性を指摘している点は注目に値する。学校教育だけでなく、生涯にわたって主体的に学び続ける姿勢が、真の意味での語学力の向上につながるのである。

第10章は、英語学習者に対して、年齢に関する思い込みから解放され、自分なりの学習法を見出していくことを促している。著者の主張は、言語習得研究の知見に裏付けられており、多くの学習者にとって参考になるだろう。

探究実践篇

要約:
探究実践篇では、英語学習におけるコーパスの活用方法が具体的に解説されている。著者は、コーパスを用いて単語の使い分けや文法の理解を深めることの重要性を説明し、その過程で母語話者の直感に近づくことができると主張する。探究1から探究8では、動詞、修飾語、名詞、前置詞などの品詞ごとに、コーパスを用いた探究の実例が示され、学習者が自分で応用できるようになることを目指している。また、抽象名詞の可算・不可算の使い分けについても、コーパスを活用した学習法が提案されている。

印象的なフレーズ:

  • 母語話者は、ある単語、あるいは単語の組み合わせについて、それがどのくらいの頻度で使われるのかということを感覚的に知っている。

  • 特定の名詞が前置詞とどのように組み合わされることが多いのかを直接コーパスで調べる方法も紹介しよう。

  • 母語話者の運用の揺らぎは、状況のとらえかたの揺らぎの反映なのである。

重要なポイント:

  • コーパスを活用した単語の使い分けと文法の理解

  • 母語話者の直感に近づくためのコーパス活用法

  • 品詞ごとのコーパスを用いた探究の実例

  • 抽象名詞の可算・不可算の使い分けへのコーパス活用

  • 母語話者の言語運用の揺らぎの理解

質問文:

  1. コーパスを活用することで、英語学習者は何を身につけることができるか?

  2. 著者が提案する、母語話者の直感に近づくための方法は何か?

  3. 抽象名詞の可算・不可算の使い分けを学ぶために、著者はどのような方法を提案しているか?

重要な概念の解説:

  • コロケーション:単語同士の結びつきの強さ。コーパスを用いることで、単語のコロケーションを調べることができる。

  • 頻度情報:コーパスを用いることで得られる、単語や表現の使用頻度に関する情報。言語運用の実態を反映している。

  • 母語話者の直感:母語話者が無意識のうちに持っている、言語の使用に関する感覚。外国語学習者が目指すべき目標の一つ。

考察:
探究実践篇では、英語学習におけるコーパスの活用方法が実践的に解説されており、学習者にとって有益な情報が提供されている。著者が強調するように、コーパスを活用することで、単語の使い分けや文法の理解を深め、母語話者の直感に近づくことができる。

特に、品詞ごとに具体的な探究の実例が示されている点は、学習者にとって参考になるだろう。動詞、修飾語、名詞、前置詞などの使い分けは、英語学習者にとって常に悩みの種であるが、コーパスを用いることで、その使い分けの基準を実際の言語使用に基づいて理解することができる。

また、抽象名詞の可算・不可算の使い分けは、日本人英語学習者にとって特に難しい文法事項の一つであるが、著者はコーパスを活用した学習法を提案している。実際の言語使用を観察することで、その使い分けの基準を帰納的に理解することができるのである。

さらに、著者が母語話者の言語運用の揺らぎについて言及している点も興味深い。母語話者でも、状況のとらえ方によって言語運用が揺らぐことがあるという指摘は、英語学習者に母語話者の言語運用の実態を理解させ、完璧主義から解放することにつながるだろう。

探究実践篇は、英語学習におけるコーパスの活用方法を実践的に解説しており、学習者の自律的な学習を促すものとなっている。著者の提案する方法を実際に試してみることで、英語学習者は母語話者の直感により近づくことができるだろう。

あとがき

要約:
あとがきでは、著者の専門分野である認知科学の三つの研究テーマと、本書の関係性が説明されている。著者は、言語と思考の関係、子どもの言語習得、学びと教育という三つのテーマを研究してきた。本書『英語独習法』は、これらのテーマが交差する地点に位置づけられ、日本語母語話者が英語を学ぶプロセスを認知科学の観点から解説したものである。また、著者は本書の執筆にあたって、多くの人々から助言や協力を得たことに謝意を表している。

印象的なフレーズ:

  • 日本語を母語として学習することは、日本語による世界の切り分けかたを学ぶことである。日本語を母語とする私たちが英語を学ぶということは、英語特有の世界の切り分けかたを、英語とは異なる日本語の切り分けかたのフィルターを通して推論することに他ならない。

  • 熟達者になるために大事なこと。それは、知識を自分で探究し、発見する過程で、「生きた知識を生み出すサイクル」を編み出していくことである。

重要なポイント:

  • 著者の専門分野である認知科学の三つの研究テーマ

  • 本書と認知科学研究の関係性

  • 日本語母語話者が英語を学ぶプロセスの認知科学的解釈

質問文:

  1. 著者が認知科学で研究してきた三つのテーマは何か?

  2. 本書『英語独習法』と著者の認知科学研究はどのような関係にあるか?

  3. 著者が本書執筆にあたって謝意を表した人々は誰か?

重要な概念の解説:

  • 認知科学:人間の知覚、思考、学習、記憶などの認知過程を科学的に研究する学際的な学問分野。

  • 世界の切り分け方:言語によって現実世界がどのように分類され、概念化されるかを指す。言語間で異なる場合がある。

  • 生きた知識を生み出すサイクル:知識を自ら探究し、発見することで、主体的に知識を構築していくプロセス。

考察:
あとがきは、本書の位置づけを著者の認知科学研究との関連で説明し、本書執筆の背景を明らかにしている。著者の言語と思考の関係、子どもの言語習得、学びと教育という三つの研究テーマは、いずれも本書の内容と深く結びついている。

特に、日本語母語話者が英語を学ぶプロセスを、日本語と英語の世界の切り分け方の違いを通して推論するプロセスとしてとらえる視点は、言語と思考の関係を探求してきた著者ならではのものであり、英語学習者に新たな洞察を与えるものである。

また、著者が強調する「生きた知識を生み出すサイクル」の重要性は、本書全体を貫くテーマでもある。英語学習において、知識を自ら探究し、発見することの重要性は繰り返し述べられており、本書はそのための具体的な方法を提供するものとなっている。

あとがきは、本書の執筆が多くの人々の助言と協力に支えられたものであることも明らかにしている。著者の謝辞からは、本書が単なる個人の著作ではなく、多くの人々との対話と交流の中で生み出されたものであることがうかがえる。

全体として、あとがきは本書の意義を著者の研究歴と人的交流の両面から照らし出すものとなっており、読者に本書の背景をより深く理解させるものとなっている。著者の認知科学者としての視点と、英語教育への熱意が融合した本書が、多くの英語学習者にとって道標となることを評者としても願ってやまない。

書評

「英語独習法」は、認知科学の知見に基づいて、日本人英語学習者のための効果的な学習法を提案した書である。本書の主張で特に重要なのは、言語の学習には、表面的な語彙や文法の習得だけでなく、言語の背後にある概念体系の理解が不可欠だという点である。

認知言語学の研究から、言語は単に現実世界を反映するだけでなく、言語固有の概念化の方法を反映していることが明らかになっている。つまり、言語を学ぶということは、その言語を話す人々の世界の見方を学ぶということでもあるのだ。日本語と英語では、物事の捉え方や切り分け方が異なることが多く、この違いが英語学習の障壁となっている。

本書では、こうした言語間の概念的な違いを「スキーマ」という用語で表現し、日本語のスキーマから脱却して英語のスキーマを身につけることの重要性を説いている。そのためには、単語や文法規則を個別に学ぶだけでは不十分であり、コーパスを活用して実際の言語使用場面を観察し、帰納的に英語のスキーマを発見していく必要がある。

また、本書では、言語習得におけるインプットとアウトプットのバランスの重要性も指摘されている。大量のインプットは語彙力の向上には不可欠だが、深い理解には結びつきにくい。一方、アウトプットの練習は、言語知識を実際に使う中で、自らのスキーマを鍛錬する機会となる。特に、ライティングにおける自己フィードバックは、英語スキーマの定着に効果的だと述べられている。

本書の主張は、第二言語習得研究の知見とも整合的である。第二言語の習得には、母語の概念体系の影響を受けつつ、目標言語の概念体系を構築していくプロセスが不可欠だと考えられている。また、言語習得におけるインプットとアウトプットの相互作用の重要性も、多くの研究で支持されている。

「英語独習法」は、認知科学の知見を英語教育に応用し、日本人学習者の特性を踏まえた学習法を提案した点で高く評価できる。本書が示す学習法は、言語の本質的な理解を目指すものであり、英語教育に新たな視点をもたらすものと言える。今後、本書の提案を実証的に検証し、さらに洗練させていくことが求められるだろう。

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