【読書ノート】The Edda, Volume 1 by L. Winifred Faraday

https://www.gutenberg.org/ebooks/13007

「エッダ」はアイスランドの言葉で記された、ゲルマン人の異教の唯一の記録である。「古いエッダ(韻文エッダ)」は神話や英雄譚からなる30編ほどの詩の集成で、13世紀の写本「王の写本(Codex Regius)」に収められている。「若いエッダ(散文エッダ)」は、これらの詩を歴史家スノッリ・ストゥルルソンが韻文を散文に書き直し注釈を加えたものである。「エッダ」という言葉はもともと詩作の規則と材料を意味していたが、写本発見後、誤って神話詩にも用いられるようになった。エッダの大半は10世紀に成立したとみられるが、韻文は簡潔で物語性に富んでおり、当時の信仰が生き生きと描かれている。エッダは神話の部と英雄伝説の部に大別できるが、本書では神話について論じる。

印象的なフレーズ:

  • "The Icelandic Eddas are the only vernacular record of Germanic heathendom as it developed during the four centuries which in England saw the destruction of nearly all traces of the heathen system."

  • "The poems of the Edda are certainly older than the MS., although the old opinion as to their high antiquity is untenable."

  • "A striking difference from classical mythology is that neither Tyr (who should etymologically be the Sky-god), nor Thor (the Thunder-god), takes the highest place."

重要なポイント:

  • エッダは異教のゲルマン人の信仰を記録した唯一の文献である

  • 韻文エッダと散文エッダの2種類がある

  • エッダの多くは10世紀に成立したとみられる

  • エッダは簡潔な表現で神話や英雄伝説を生き生きと描いている

  • エッダは神話と英雄伝説に大別され、本書では神話を扱う

確認問題:

  1. エッダに収録されているのはどのような内容の作品か?

  2. 韻文エッダはどこに収められているか?

  3. エッダの詩の成立年代はいつ頃と考えられているか?

重要概念:

  • Codex Regius(王の写本):韻文エッダの主要部分を含む13世紀のアイスランド語写本。

  • スノッリ・ストゥルルソン:韻文エッダに散文での解説を加えて散文エッダを著した、13世紀のアイスランドの学者。

考察:
エッダは、キリスト教化以前のゲルマン人の信仰を知る上で非常に貴重な文献である。北欧神話やゲルマン英雄伝説の原型をとどめる数少ない作品群であり、当時の人々の世界観や価値観を色濃く反映している。古ノルド語という限られた言語で書かれているため一般にはなじみが薄いが、そのストーリーの面白さ、登場人物の生き生きとした描写、簡潔で力強い表現は高く評価されるべきである。
エッダは神々や英雄の物語を通して、勇気、知恵、運命への挑戦といった普遍的なテーマを描いており、現代人が読んでも共感できる部分が多い。荒々しいが詩情豊かな世界は、私たちの想像力を刺激し、新たな創造のインスピレーションを与えてくれる。
一方で、エッダの解釈には議論の余地も多い。詩の制作年代や詩人の意図については諸説あり、キリスト教の影響をどの程度考慮すべきかも難しい問題である。scattered informationを統合し、矛盾を解消して体系的な神話の世界を再構築する試みは、学者の想像力をかきたてる挑戦的な課題と言えよう。
いずれにせよ、エッダはゲルマン民族の精神性や美意識の源泉として、文学・芸術・思想の分野に多大な影響を与えてきた。今後も多角的な研究と柔軟な解釈を通じ、エッダの世界がより多くの人々に親しまれることを願ってやまない。


エッダの主な神話詩は、「ヴェルスパ」「ヴァフスルーズニスマル」「グリームニスマル」「ロカセンナ」「ハルバルズリョーズ」で、エッダ神話の概要を示している。アース神族は世界樹ユグドラシルの下に住み、巨人やドワーフと敵対している。主神オーディンは知恵と戦いの神で変装して旅をするのが常だが、トールは武器を持って巨人と戦う。バルドルの死は重大事件だが謎も多い。ヴァン神族はもともと豊穣神で、後にアース神に加わった。ロキは巨人の血を引く神で、トールらの味方でありながら、最後の戦いでは巨人側に付く。「ラグナロク」(神々の黄昏)は恐るべき最終戦争で、ほとんどの神は巨人に殺されるが、その後に新しい世界が生まれる。英雄の魂を集めるワルキューレやワルハラの描写は、ラグナロクの考えと結びついて発展した。

印象的なフレーズ:

  • "The whole points to a belief in the early destruction of the world and the passing away of the old order of things."

  • "Loki is a strange figure. He is admitted among the Aesir, though not one of them by birth, and his whole relation to them points to his being an older elemental God."

  • "The Twilight of the Gods (or Doom of the Gods) is the central point of the Viking religion."

重要なポイント:

  • 主な神話詩はエッダ神話の概要を示している

  • アース神族と巨人・ドワーフは敵対関係にある

  • オーディンとトールはアース神族の中心的な存在

  • バルドル神話には不明な点が多い

  • ヴァン神族は豊穣神で、後にアース神族に加わった

  • ロキは二面的な存在で、神々の味方でありながら最後には裏切る

  • ラグナロクはほとんどの神が巨人に殺される世界の終末

  • ワルキューレやワルハラの観念はラグナロクと結びついている

確認問題:

  1. アース神族の住処はどこにあるか?

  2. オーディンとトールはどのような性格の神か?

  3. ラグナロクで何が起こると考えられているか?

重要概念:

  • ユグドラシル:北欧神話の世界樹。その下にアース神族が住む。

  • ヴァン神族:ニョルズ、フレイ、フレイヤからなる豊穣神のグループ。もともとはアース神族とは別の神族だった。

考察:
エッダに描かれた神々の世界は、秩序と混沌、創造と破壊の永遠のドラマとも言える。神々は知恵と勇気を武器に、巨人の脅威に立ち向かうが、一方で彼ら自身の中にも対立や矛盾を抱えている。巨人の血を引くロキは、神々の仲間でありながら最後の戦いでは敵に回る運命にある。オーディンは知恵を求めて変装して旅するが、それは彼自身の死の運命を知るためでもある。
このような神々の両義性は、古代北欧人の世界観を反映しているのかもしれない。彼らにとって、世界は善悪、光と闇が混在する場所であり、神々もまたその宿命から自由ではない。自然の猛威に翻弄される過酷な環境の中で、人間は英知と勇気を頼りに生きねばならなかった。
ラグナロクの物語は、そのような世界観の究極の表現と言える。世界の終末は避けられない運命だが、神々と人間はあえてそれに立ち向かう。最後の戦いのために英雄を集めるワルハラの観念は、死を恐れず戦う勇士を理想化する彼らの価値観の表れでもある。
しかし、ラグナロクの先には新たな希望もある。黄金時代の再来を予感させる新世界の到来である。破壊は再生の前提条件であり、死もまた新たな命につながる。自然の理法に従順でありつつ、運命に果敢に挑戦するバイキングの精神は、現代を生きる我々にも示唆に富む。混迷の時代だからこそ、「神々の黄昏」の先にある希望の光を信じ、勇気を持って前に進みたい。


エッダに登場するゲルマン神話の神々は、異教時代に遡る古い起源を持つ。アース神族の数は作品によってまちまちだが、スノッリによると14神16女神とされる。オーディン、トール、テュール、ロキが重要な神格で、いずれもラグナロクと関わりが深い。トールは農耕神の性格も持ち、巨人と戦う際にはいつも東方に向かう。フレイとフレイヤもともとは豊穣神のヴァン神族に属していたが、後にアース神族の一員となった。ロキは本来、火の神と考えられ、神々を助ける存在であると同時に、ラグナロクを引き起こす張本人でもある。世界樹ユグドラシルは北欧神話の中心的なシンボルで、その根元には竜がいて世界を脅かしている。ラグナロクではオーディンと巨大オオカミ、トールと大蛇が戦って倒れ、世界は炎に包まれるが、その後新たな世界が誕生すると考えられた。

印象的なフレーズ:

  • "Odin, Thor, Tyr and Loki are most closely connected with it (Ragnarök)."

  • "Loki was turned out for killing a servant, but presently returned and began to revile the Gods and Goddesses, each one in turn trying to interfere, only to provoke a taunt from Loki."

  • "The Sibyl prophesies the death of Baldr, the vengeance on his slayer, and the chaining of Loki, the doom of the Gods and the destruction of the world at the coming of the fire-giants and the release of Loki's children from captivity."

重要なポイント:

  • エッダに登場する神々は異教時代の古い起源を持つ

  • オーディン、トール、テュール、ロキがアース神族の中心

  • ロキは神々の味方であると同時に、ラグナロクの原因を作る存在

  • 世界樹ユグドラシルは北欧神話の中心的シンボル

  • ラグナロクは神々と巨人の最終決戦で、世界は一度滅びるが新たに再生する

確認問題:

  1. スノッリによるとアース神族は何柱の男神と女神から成るか?

  2. フレイとフレイヤはもともとどの神族に属していたか?

  3. ラグナロクでオーディンとトールが戦う相手は何か?

重要概念:

  • アース神族(Aesir):北欧神話の主要な神々。オーディン、トールなど。

  • ヴァン神族(Vanir):豊穣神のグループ。フレイ、フレイヤなど。のちにアース神族に吸収された。

考察:
エッダに描かれた北欧神話の神々は、ギリシャ・ローマ神話など他の神話体系の神々とは異なる独特の性格を持っている。最高神オーディンは知恵と戦いの神だが、その知恵は狡知に通じ、姿を変えて現れる謎めいた存在でもある。武勇の神トールは巨人と戦うが、その戦いの場は常に「東方」とされ、農耕との関わりも示唆されている。このように個々の神の性格や物語は、古代北欧の自然環境や社会状況と密接に関係していると考えられる。

とりわけ特徴的なのは、神々の宿命としてのラグナロクの観念である。世界樹の根元に潜む脅威は、神々の力をもってしても避けられない破滅の予兆である。巨人との戦いは神々にとって宿命であり、最後は敗北が約束されている。この悲劇的な運命は一見、ギリシャ神話のような明るく調和的な神話世界とは対極にあるように見える。

しかしその一方で、破滅の後には新たな再生があるという循環の思想は、自然の営みに生きる北欧の人々の世界観を反映しているのかもしれない。厳しい自然環境の中で、人々は常に生と死、創造と破壊のサイクルを目の当たりにしてきた。ラグナロクの物語は、そのような世界観を神話のレベルで表現したものと言えよう。

また、神々の世界に混沌をもたらすロキの存在は興味深い。彼は時に神々を助け、時に彼らを欺く。巨人の血を引く存在でありながら、アース神族の仲間として受け入れられている。このような曖昧な立ち位置は、北欧神話の神々が多面的な性格を持つことを示している。善悪、秩序と混沌は表裏一体であり、神々もまたその両面性を体現しているのだ。

エッダの神話世界は、古代北欧の過酷な自然環境と、それに立ち向かう人間の営みを色濃く反映している。神々は自然の力の擬人化であると同時に、人間の理想や矛盾をも体現している。オーディンの知恵とロキの狡知、トールの勇気とバルドルの死、ラグナロクの破滅と再生ーこれらの物語は、古代人の世界観を神話の言葉で語っているのである。現代に生きる我々もまた、人生の根源的な問いの答えをそこに見出すことができるかもしれない。エッダの神話は、遠い過去の産物ではなく、普遍的な人間の物語として今なお生き続けているのだ。


エッダ神話に描かれた神々像は、大陸の古い文献にも裏付けられる。8世紀のパウルス・ディアコヌスやボビオのヨナスは、ゲルマン人の主神ウォーダン(オーディン)を、ローマの神マーキュリー(メルクリウス)と同一視している。これはオーディンの持つ知性や雄弁、変幻自在の性格によるものと考えられる。同じく8世紀のアルクィンが言及するフリジア人の神フォシテは、エッダのフォルセティと同定できる。一方トールやティールについての大陸の記録は少ない。6世紀のトゥールのグレゴリウスは、フランク王クローヴィスがキリスト教の神を「神々の一族」と認めなかったと伝えており、北欧の神々がひとつの「神族」をなすという観念の古さを示唆している。また、聖俗さまざまな文献から、古代ゲルマン人の間に聖樹信仰が広く存在したことが確認できる。

サクソ・グラマティクスの記述には、異教の神々に対する敵意が感じられるが、神々のイメージ自体はエッダとよく合致する。彼の描くオーディンは魔術に通じた老人で、戦いに干渉し勝敗を左右する力を持つ。またバルドル神話は英雄譚に変容し、ロキはウトガルザ・ロキという悪辣な存在になっている。フレイヤに関わるシュリートとオッタルの物語は、神話から英雄譚への移行を示す好例と言える。このようにサクソの記述は、神話の変容を知る上で重要である。

印象的なフレーズ:

  • "his testimony on the old religion is unwilling, and his effort to discredit it very evident"

  • "Saxo's version of the Baldr story has been mentioned already. Baldr's transformation into a hero (who could only be slain by a sword in the keeping of a wood-satyr) is almost complete."

  • "The equation is only comprehensible on the presumption of the independence of Germanic mythology, and cannot be explained by transmission."

重要なポイント:

  • 大陸の古い文献にもエッダの神々への言及がある

  • ローマの神マーキュリーとオーディンの同一視は、オーディンの特徴をよく捉えたもの

  • 古代ゲルマン人の間では聖樹信仰が広く見られた

  • サクソは異教の神話を英雄譚に作り変えている

  • サクソの記述は神話の変容過程を知る手がかりになる

確認問題:

  1. 8世紀の文献でオーディンと同一視されているローマの神は誰か?

  2. 古代ゲルマン人に聖樹信仰が存在したことを示す記録にはどのようなものがあるか?

  3. サクソ・グラマティクスの記述で、バルドル神話はどのように変容しているか?

重要概念:

  • サクソ・グラマティクス:12世紀のデンマークの歴史家。著書『デーン人の事績』の中で北欧神話にも言及している。

考察:
エッダに描かれた北欧神話の神々は、大陸の古い記録からもその存在が裏付けられる。8世紀以降のキリスト教文献の中に、ゲルマン人の神ウォーダン(オーディン)への言及が見られるのは興味深い。オーディンがローマの神マーキュリーと同一視されるのは、両者に共通する知性や雄弁、変幻自在の性格によるものだろう。古代の人々は、異なる文化圏の神々の間に共通点を見出そうとしたのである。

大陸の記録で特筆すべきは、古代ゲルマン人の間に聖樹信仰が広く存在したという事実だ。世界樹ユグドラシルを中心とするエッダの神話世界は、民間信仰のレベルでは聖なる樹木への崇拝として表れていたと考えられる。神話と習俗は、そこに古代人の宗教観が投影されているという点で、密接に結びついている。

一方、12世紀のサクソ・グラマティクスの記述は、キリスト教化以後の北欧神話の変容を示す貴重な資料と言える。サクソは異教の神話を意図的に矮小化し、英雄譚に作り変えている。バルドル神話は本来の宗教的な意味合いを失い、復讐譚の一部となる。これは、キリスト教の価値観に合わせて古い神話を改変する試みの一つと解釈できよう。

しかし、サクソの記述にもなお、エッダに通じる神々のイメージが残されている。それは、異教の神話が根強く人々の記憶に刻まれていたことの証左ではないだろうか。神話はキリスト教化によって体系的に弾圧されたが、民衆レベルでは生き延びたのである。

神話の痕跡を丹念に拾い集めることで、私たちは古代北欧の宗教世界の断片を手に入れることができる。それは一つの文化的モザイクとして、当時の人々の精神性や世界観を物語っている。キリスト教化の波が押し寄せる中で、古い神々の記憶は形を変えながらも生き延びてきた。大陸とアイスランドの記録を突き合わせることで、そのダイナミックな変容の過程を解明する糸口が得られるだろう。

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