ハシの身辺雑記part4

ベルボーイの初日、とある大きな観光ホテルの控え室に案内されたぼくは「おはようございます、今日から入るハシと申します、よろしくお願いいたします」と挨拶した。

そこにいたのは、東南アジア系の髪をジェルで固めた外国人で、ああ、とだけ言った。パソコンで何かを入力していたが、しばらくすると、スマホに電話がかかってきたようで、ものすごい勢いで何かをまくしたてて、話していた。

どこの言葉だろう、と思った。後に聞いたところによると、その外国人はネパール人らしかった。

で、仕事がはじまった。ホテルのお客さんにはいわばVIPみたいなリストがあるようで、そのリストをもらい、日本人だろうが、外国人だろうが、名前を聞き取り、VIPの客であれば、特別なカウンターからチェックインさせなければならない。

で、ぼくはフロントに立っていて、ポケットにはプラスチックの銭湯の丸い札みたいなものと、紐を持っている。

すると外国人が歩いてきた。アメリカ白人らしき人物だった。

チェックインしてくるようなら、VIPのひとかどうか、名前を確認しなければならない。で、適当に周りのベルボーイが話しているフレーズを聞き取って、ぼくは話しかけた。

Are you checking in?

相手が頷くので、ぼくは名前を確認しないと、と思った。
Do you have reservation paper?
Noと言うので、in the phone,okay.とぼくがカタコトの単語で言うと、その大柄な人物はスマホの予約表をぼくに見せてくれた。

その瞬間に、その人物の名前を見て、ジャケットの胸ポケットから、リストを取り出し、一瞬で参照する。

どうやら、その人は、VIPの人であるようだった。
ちなみに、VIPはvery important personの略称らしい。
えー、Mr.〜, from this counter check in, please.

ぼくは、一番奥のカウンターを指さした。

大柄な人物は、ぼくにスーツケースを預けたいとのことだった。
早速、プラスチックの番号札を渡す。

で、それと同じ番号の札を紐で、もらったスーツケースにくくりつける。そして、ベルカウンターの奥にしまった。

お客さんが番号の札を渡してきたら、預けた荷物を番号ですぐ持ってこられるようにだ。

で、客室に運ぶ荷物は、よくホテルある荷物を運ぶやつ、名前がわからないが、あれに載せて運んだ。

そんなことを繰り返し繰り返し、した。

お客と話しているときの、ホテルマンっぽい振舞いもなんとなく、見て真似した。

立ってる時の姿勢とか香水もきつすぎないやつで、とかいちいち指摘された。

フロントのひとも、男でもBBクリームみたいなものをつけてるような人もいた。とにかく清潔感を求められた。

で、端的に言うとフロントのホテルマンにぼくのことを嫌いな方がいて、そのひとによく挨拶を無視された。

で、ある朝、ロビーに立っていると、そのひとが「お前、大学中退してるらしいな」と話しかけてくるので、「はい」というと、「何?心の病?」と言ってゲラゲラ爆笑し始めた。

しかも50過ぎたくらいのおっちゃんで、金時計をしていて、英語がめちゃくちゃ下手だった。

まあ、中退しているのは、事実なので、別に良いのだが、とにかくこのおっちゃんは俺のことが気に食わないのだな、と思った。

で、そのおっちゃんがフロントからロビーに下りてくると、フロントは地面が高くなっているようで、そのおっちゃんはめちゃくちゃ背が低かった。身長170cmないぼくが、見下ろすくらいだった。

まあ、別に身長とその人となりは全く関係なく、どうでも良いのだが、そこで、tiny man huge egoということわざが思い出された。

――これはややこしいバイト先だな。

カルチャースクールには依然として席を置いていたが、疲れる仕事で、徐々に出席しなくなってきていた。

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