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「困難女性支援法(案)」:何がどう問題なのか?

はじめに

2023年1月30日(月)、参議院議員会館で開催された「困難女性支援法」のよりよい運用に向けた院内集会に参加してきました。同法案は、①困難女性支援を売春防止法の枠組みから脱却させ、さらに②新たな支援枠組みの構築を目指すというもので、昨年5月に議員立法によって可決・成立し、今年4月から施行されます。

以下では、今回の院内集会の内容を踏まえ、成立過程と法案にもとづく方針案それぞれの問題について考えたいと思います。

成立過程の問題

①有識者会議を構成するメンバーの偏り

今回の院内集会で特に問題視されたのは、同法案にもとづく基本方針に係る有識者会議の構成メンバーが、ほとんど婦人保護施設と若年女性支援関係者ばかりで占められたことでした。なお、その人選理由や過程はオープンにされていません。

その結果、方針案では性的被害を受けた若年女性支援が中心化されており、さらに前述した「新たな支援枠組みの構築」として、これらの組織・団体に国の予算を出すかたちでほぼ丸投げ運用される可能性があります。

②想定される支援対象やサービスの偏り

また、これらの組織・団体だけでは、そもそも支援対象として想定されなかったり支援に必要な知識・情報が乏しいことから、性的マイノリティ、セックスワーカー、薬物依存者、障害者、性暴力サバイバー、先住民族、中高年シングルといった多様で複合的な困難に直面しやすい女性たちがこぼれ落ちたり、支援の場でも差別・偏見に苦しんでしまう恐れがあります。

同法案はすでに成立しましたが、今後の運用や関係法案に向けた議論はこれからも続きます。その議論の場には、様々な女性の支援に取り組んできた組織・団体の人たちも発言権を持つメンバーとして加えるとともに、その人選理由や過程についてもオープンにする必要があるでしょう。

法案にもとづく方針案の問題

①困難の序列化と偏見

方針案では、以下のように最も困難な状況に置かれ、それゆえ支援対象として優先されるのは「性的被害を受けた女性」であると強調されています。

特に、女性の尊厳を傷つけ、女性の人権を軽視するものである性暴力や性的虐待、性的搾取等の性的な被害を受けた者に対する支援は重要

とりわけ、性暴力や性的虐待、性的搾取等の性的な被害により、尊厳を著しく傷つけられた女性

困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本的な方針(案)

今回の院内集会では、恣意的に困難を序列化することによってそれ以外の様々な困難に直面している人たちへの支援がないがしろにされるのではないかという声が挙がりました。性的被害を受けた若年女性支援の中心化によって、たとえば障害者のように支援のバリアーから相談にたどり着くことすら難しい状況に置かれてきた人たちや、中高年シングルのようにジェンダー格差を伴い常勤職に就けず低賃金で苦しい生活状況に置かれてきた人たちの困難が周縁化され続ける恐れがあります。

また、性的被害を受けた弱者であることを強調することによって、たとえば性的搾取の被害者だと決めつけられてセックスワーカーがその仕事を奪われるというように、困難な状況に置かれている女性たちの意思が上から目線で軽視されたり、支援者が望ましいと考える固定的な女性性の体現を強要されてしまうといったことも考えられます。

②トランスジェンダー差別

方針案には、以下のようにトランスジェンダー女性の支援についても記載されています。

性自認が女性であるトランスジェンダーの者については【・・・中略・・・】他の支援対象者にも配慮しつつ、関係機関等とも連携して、可能な支援を検討することが望ましい

困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本的な方針(案)

この「性自認が女性」という説明は、「だったらヒゲ面の男が私は女だと言って女風呂に入ってくるようになってもいいのか」というように、人々の恐怖を煽る非現実的な状況を引き合いに出してトランスジェンダー差別に利用されることがしばしばとなっています。そのため、なぜわざわざこの説明を記載したのか、疑問が残るところです。女性として生活するということは、外見や声などで周囲から女性扱いされることが極めて重要であり、それゆえ多くのトランスジェンダー女性たちは、様々なかたちで我慢や苦労を強いられて生活してきました。私たちは、言ったもん勝ちでまかり通るような非現実的な世界を生きているわけではありません。

加えて、「他の支援対象者にも配慮しつつ」や「可能な支援を検討」という箇所もかなり引っかかります。これらの文章が、トランスジェンダーを犯罪者予備軍としてみなすだけでなく、支援の場から追い出すことを正当化する根拠として利用されないよう、運用に向けてしっかりと議論を重ねる必要があると考えています。

さいごに

今回の院内集会で配布された資料は、以下のホームページからダウンロードすることが出来ます。特に、参加団体の発言要旨には様々な立場からの重要な指摘がたくさん書かれていますので、ぜひ多くの人に読んでもらいたいです。
https://konnan.sakura.ne.jp/?p=125

また、現在厚生労働省は、同法案の施行に関するパブリック・コメントを募集中です。締め切りは2月18日です。

【基本的な方針(案)について】
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495220327&Mode=0

【関係法令(案)について】
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495220328&Mode=0

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