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【撮影解説】神宮×松本幸一郎×本塁打

初めて松本幸一郎選手を見たのは、2007年の明治神宮野球大会、横浜ー関東第一の試合でした。

あれから数えて17年目の春、初めて神宮で見た大学同期のホームラン、それを捉えた写真を、語らずにはいられなくなり、久しぶりに撮影解説を記します。

今回の1枚

【球場】明治神宮野球場
【試合】2023.03.09 JABA東京スポニチ大会 準決勝 10表
【選手】東芝 松本幸一郎 内野手(立教大2013卒・横浜)

【カメラ】Nikon Z9
【レンズ】AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR
【設定】300mm、ISO640、f/4.0、1/2000s

撮影想定

松本選手のバッティングといえば、ルーティーン(打席に入る際にバットで軽く右足の外側を叩き、打席に入って小さく足踏みする様子)から始まり、何と言っても、大きく足を上げ、スパイクの裏が見えるように踏み下ろすフォーム。

ベンチで福本翼コーチのもたれかかった姿が似合いすぎてずるい!笑

試合序盤にこのカットは撮影していたので、終盤は一塁側で、彼の持ち味にも感じるライトへの鋭い打球を放ったあとのフォロースルーや、一塁までの走塁を撮影しようと準備していました。

仰ぎ見る目線を表現するためにも、なるべくローアングルで撮りたかったので、ファインダーを覗かずに、低い位置にカメラを構え、チルト式画像モニターを見ながら撮影しています。

球場環境

いつも撮影している神宮球場ですが、今年、東芝が神宮でプレーするのは最低2試合、最高4試合(スポニチ大会+東京六大学対抗戦)。
慣れた撮影環境とはいえ、数少ない機会に、使い慣れていない新しいカメラは緊張するものです。

また、オフの間に神宮球場の人工芝の入れ替え工事があり、芝が鮮やかになったほか、フィールドとスタンドを挟むネットも更新され、従来のネットの新品(色褪せていない黒色)に変わっていました。

機材設定

現在使用しているカメラZ9の連写能力は凄まじく、ハイスピードフレームキャプチャを使うと、秒間120コマ(1100万画素)、秒間30コマ(4500万画素)なども撮影できますが、フル画質ではなくなり、とにかく容量を食って後工程が大変なので、滅多に使ってません。

普段は高速連写の最大コマ数である秒間20コマ(4500万画素)に設定し、必要なカット以外は7割ほど削除しています。削除するのが多くても連写数を多くしているのは「このコマとコマの間に良い表情、絶妙なタイミングがあったのに」という思いをしたくない、そこに妥協をしたくないからです。

今回の実際の連写
秒間20コマ設定なので、上記10枚は0.5秒の出来事

左上が連写の1枚目。もう少し早めからシャッターを切り始めても良かったかな。フォロースルーから、バットを投げるまでの一連の流れで、今回採用したのは下段の真ん中の1枚です。ちなみに、打ってから一塁に到達するまでに50枚ほど撮ってました。

補正作業

オリジナル画像

今回は「1枚で魅せる」を意識して作品にすることを心がけたので、記録性よりもドラマ性を大事にしました。

・水平垂直を合わせる
・三分割構図でトリミングして画角を整える
・コントラストを上げて光のメリハリをつける
・暖色系統の彩度を色ごとに微調整、特に肌色を丁寧に
・被写体にマスクをかけ、露出とコントラストを少々上げる
・周辺光量補正で周辺光量を落とし、被写体を浮き立たせる

撮り手の想い

とにかく、松本選手の一発に縁がなかった私。
・2019年JABA東京スポニチ大会@神宮ポール直撃弾(仕事で行けず)
・2018年日本選手権での満塁ホームラン(大阪なので行けず)
・2018年都市対抗本大会でのスリーラン(仕事で遅刻)
・2017年都市対抗西関東予選ENEOS・齋藤投手からのホームラン(仕事で遅刻)
・2016年都市対抗西関東予選(仕事で三重にいた)
・2014年都市対抗西関東予選での満塁ホームラン(仕事で遅刻)
などなど、数え切れません。

大学時代も神宮での試合でホームランはなく、改めて振り返ると「松本幸一郎選手のホームランを一度も見た記憶がない」のは自分でも驚きました。
記録を全て振り返ってるわけではないのですが、見ているとしたら大学時代のオープン戦で、その時はまだあまりスコアとかつけてなかったので、これはもう「17年目にして初めて見た松本選手のホームラン」と言って良いです。

自分が野球撮影を本格化した際には、自分自身が東京に居なかったこともあり、あまり追いかけられなかった被写体なのですが、今や一番追いかけている被写体になりました(東芝の春季キャンプを見に松山にも行きました)。

以前は見に行けない言い訳が多く、執念が足りてなかったのだなと思います(それなりの試合数は見に行ってるはずですが笑)。
なので今年は「神宮球場で立つ打席は全て見る」をこっそり目標にしていました。

今回も平日の、しかもその日に試合があるかは前日にならないと分からない、そんなタイミング。結果を残すためには言い訳をしない、そのために日々を調整して過ごす、これを体現した上で撮れたのだと思います。

思い入れ深い神宮球場、天候は晴れ、陽射しが残っている第2試合、ライトへのホームラン、そして自分がそれを一塁側で構えていた、この全てが噛み合って撮れた、最高の写真にすることができました(敢えてケチをつけるとしたら、ビジターの赤いユニフォームの方が好きです笑)。

一塁に向かって走りつつ打球の行方を見つめる表情

撮った直後に思ったことは「会心の写真を撮ることができてしまった」です。
ここに至るまでの年月と、先に記載した様々な条件が整ったこと、このシチュエーションが野球撮影で揃ったのは、最初で最後かもしれません。

今回の写真は間違いなく、自分の最高傑作の一枚になりますし、これ以上を更新されることもないのではないかと思います。

いつか、これを上回る感情で撮影した写真を残せたら良いなとはもちろん思っていますが、今回の写真が自分の中でどれだけ大切なものになったかが伝われば幸いです。

終わりに

今年は東芝が明治神宮野球場で試合をする予定がまだあります。
3月末の社会人野球・東京六大学野球対抗戦です。

この日は社会人チームが三塁側固定ということで、東芝も赤いユニフォームを着ることになるでしょう。
その時に自分がどう写すのかは、すでにシミュレーションしています。

まずは彼が出場しないと、そして晴れないと始まらないのですが、当日はZ400mm f/4.5をレンタルして撮影する予定です。三塁側からバッティングフォーム正面で縦アングル撮るとしても、背後の一塁ベンチの端の定位置に、慶大・堀井監督が写り込むだろうな、とか、そういうところまで想像しています。

社会人野球で10年も選手で居続けていると「彼が神宮で試合をするのは、もう最後かもしれない」と毎回思うようになります。自分も見届けられなかった後悔はしたくないので、最後まで応援したいですし、本人の意思さえあれば、末長い活躍を期待したいと思います。

最後に一言。
「先月買ったZ9、これ撮れたんで、もう元は取れたでしょ!笑」

追記。
以前70-200/2.8を購入したときも1ヶ月以内に立教日本一のシーンを撮影でき、元が取れたの早かった記憶。新しい機材を買うと、すぐ回収できちゃう。

継続した撮影活動のため定期的に機材の点検修理を行っています。 もし私のご活動をサポートいただける方がいらっしゃいましたら、機材経費に充てさせていただけますと幸いです。