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第弐拾伍話『終わる世界』/新世紀エヴァンゲリオン

だって仕方なかったじゃないか、だってカヲル君は使徒だったんだ、ちがう!使徒だ、僕らの敵だったんだ、違う違う違うんだ!
私と同じヒトだったのに?
違う使徒だったんだ
だから殺したの?
そうさ、ああしなければ僕らが死んじゃうら皆が殺されちゃうんだ
だから殺したの?
好きでやったんじゃない、でも仕方なかったんだ、助けてら助けて助けて誰か助けて、お願いだから助けてよ!
そうだ、生き残るならカヲル君の方だったんだ、僕なんかよりずっと彼の方が良い人だったのに、カヲル君が生き残るべきだったんだ
違うわ、生き残るのは生きる意志を持った者だけよ、彼は死を望んだ、生きる意志を放棄して見せかけの希望に縋ったのよ、シンジくんは悪くないわ
ほんとにこれでよかったのかな?わからない、僕はどうしたらいい?どうしたらいいんだよ
何が
自分が
嫌われること
誰に
誰だ
それは、父さんだ!父さんに捨てられたんだ、嫌われたんだ、嫌われたらどうしよう、どうしたらいいんだろう、どこだろうここ、どこに行けばいいんだろう、何も見えない、何も分からない、ミサトさん?ミサトさん、ねえどこいっちゃったの?ねえ、僕はこれからどこに行けばいいんだ、ミサトさん、アスカ、綾波、トウジケンスケリツコさん加持さん、父さん!母さん、誰か教えてよ、どうしたらいいのか教えてよ、エヴァンゲリオン初号機、結局僕はこれに乗るしかないのか、好きな人を殺してまで、父さんやみんなの言う通りに、またこれに乗って戦えっていうの?母さん!何か言ってよ答えてよ
みんなが乗れって言うから
そうだよ
いいことじゃないか
とってもいいことじゃないか
そうすればみんなが褒めてくれる、大事にしてくれるんだ
嘘ね、あんたバカあ、結局自分の為じゃないの
えっ?
そうやって自分に言い訳してる
そっかな
他人のために頑張ってるんだと思うこと自体、楽な生き方してるっていうのよ
そうなのかな
要するに寂しいのよシンジは
そうなのかな
そんなのただの依存、共生関係なだっけじゃない
そうかもしれない
自分が人に求められることを、たた望んでるだけじゃないの
そうかもしれない
人から幸せを与えられようとただ待ってるだけじゃないの、偽りの幸せを
それはあなたも同じでしょ
いつの間にかエヴァに乗ってる
乗せられてる、どうせ動きゃしないのに、このポンコツ、ううん、ポンコツは私の方か
要らないのよ私なんて、誰も要らないのよ
エヴァに乗れないパイロットなんて誰も要らないのよ
他人の中に自分を求めているのね
うるさい
1人になるのが怖いんでしょ
他人と一緒に自分がいなくなるのが怖いんでしょ
だからエヴァに乗ってる
うるさいうるさい!あんたみたいな人形に言われたかないわよ!
私は誰?
綾波レイ
あなた誰
あなたも綾波レイなの?
そう綾波レイと呼ばれているモノ
みんな綾波レイと呼ばれているモノ
どうしてみんな私なの?
他の人たちがみんな私たちを綾波レイと呼ぶからよ
あなたは偽りの心と体をなぜ持っているの?
偽りではないわ、私は私だもの
いいえあなたは偽りの魂を碇ゲンドウという人間によって造られた人なのよ
人の真似をしている偽りの物体に過ぎないのよ
ほら、あなたの中に、暗くて何も見えない、何も分からない心があるでしょ
本当のあなたがそこにいるの
私は私、私はこれまでの時間と他の人たちとの繋がりによって私になった
他の人たちとの触れ合いによって今の私が形作られている
人との触れ合いと時の流れが私の心の形を変えていくの
そう
綾波レイと呼ばれる今までの私を造ったもの
これからの私を造るもの
でも本当のあなたは他にいるのよ
あなたが知らないだけ
見たくないから
知らないうちに避けているだけ
人の形をしていないかもしれないから
今までの私がいなくなるかもしれないから
自分がいなくなるのが怖いのよ、みんなの心の中から消えるのが怖いのよ
怖い?分からないわ
自分だけの世界もなくなるの
自分が消えるのよ
いえ嬉しいわ
私は死にたいもの、欲しいものは絶望
無へと還りたいの
でもダメ、無へは還れないのあの人が還してくれないの
あの人が還してくれないの
まだ還してくれないの
あの人が必要だから、私はいたの
でも終わり
要らなくなるの、私
あの人に捨てられるの、私
その日を願っていたはずなのに
今は、怖いの
さあ行こう、今日この日のためにお前はいたのだ
はい
なんだ?この感触
前に1度あったような、自分の形が消えていくような
気持ちいい
自分が大きく広がっていくみたいだ
どこまでもどこまでも
違う虚無へと還る訳ではない、全てを始まりへ戻すに過ぎない
この世界失われている母へと還るだけだ
全ての心が一つとなり永遠の安らぎをえる
ただそれだけの事に過ぎない
それが補完計画?
そうよ私たちの心には常に空白の部分、喪失した所があるわ
人は誰しも心の闇を恐れ、そこから逃げようとそれを無くそうと生き続けているわ
人である以上永久に消えることはないのに
だからって人の心をひとつにまとめお互いに補填し合おうというわけ?それも他人が勝手に!余計なお世話だわ、そんなのただの馴れ合いじゃない!
だけどあなたもそれを望んでいたのよ
えっ?
ここは?
ミサトさんの心の中にいる僕の心ですよ
と同時にシンジくんの中にいる私の心という訳ね
僕は僕を見つけるために、色々な人と触れ合わなければいけない、僕の中を見つめなければいけない
僕の中のミサトさんを見つめなければいけない
ミサトさんは何を願うの?
良い子にならなきゃいけないの
パパがいないから
ママを助けて私は良い子にならなきゃいけないの
でもママのようにはなりたくない
パパがいない時ママは泣いてばかりだもの
泣いちゃダメ甘えてはだめ
だから良い子にならなきゃいけないの
そしてパパに嫌われないようにするの
でも父は嫌い
だから良い子も嫌い
もう嫌いもう疲れたわ
綺麗な自分を維持するために
綺麗なフリを続けている自分に
もう疲れたわ
私は汚れたいの、汚れた自分を見てみたかったのよ
だから抱かれたの?あの男に
違う好きだったから
抱かれたのよ
本当に好きだったの?
ええそうよ、あの人はありのままの私を受け入れてくれたわ
いややめてこんな所をシンジ君に見せないで
今更恥ずかしがることも無いだろ
恥ずかしいわよ
どうして恥ずかしいの?
好きな男の前では平気でいえ、むしろ喜んでこんな格好をしているくせに
いやっ、やめて!
この有様をシンジ君に見せることが本当は嬉しいくせに
嘘よ、違う!違うわよ!
どうかしら
本当は父親の前で見せたいくせに
違う!
あなたは加持君の寝顔に安らぎを求めていたのよ
違う
加持君の温もりに安らぎを求めていたのよ
違う
加持君の腕の中に父親を求めていたのよ
違うわよ
そうよあのとき
加持君の中に自分の父親を見つけたわ、だから逃げ出したの、彼から、怖かったの、まるでお父さんと、でもほんとは嬉しかったからなの、それが快感だったの、たまらなく心地いい瞬間だったわ、だから嫌だった、だから別れたの
まあ、恋の始まりに理由は無いが終わりには理由があるって事だな
優しいのね加持君、その優しさで、お願い、私を汚して
今自分が嫌いだからといって傷つけるもんじゃない、それはただ刹那的なバツを与えて、自分を誤魔化してるだけだ、やめた方がいい
で自分を大切にしろって言うんでしょ
男はみんなそう、そうして仕事に自分の世界に行ってしまうんだわ
私を置き去りにしたまま
お父さんと同じなのよ
辛い現実から逃げてばかりなのよ、辛い現実?私のことか、そうよね、こんな私ですもの、仕方ないわね
やめてよミサトさん
時々自分に絶望するわ!嫌になるわよ!
不潔汚いわ
無様ね
いやらしい、汚らわしいわ、それが大人の付き合いだなんて、反吐が出るわ
ご昇進おめでとうございます葛城3佐
認められているのは認められようと演じている自分で本当の自分ではないのよ、本当の自分はいつも泣いてるくせに
いいえ私は幸せなの
私は幸せなの
私は幸せなの
違う!これは幸せなんかじゃない
こんなの本当の自分じゃない
そう思い込んでるだけなの
そうしないと僕らは生きていけないのか
一緒にいないと怖いんだ
不安なのよ
誰かが隣で寝ていないと
一人で寝るのが怖いの?
やっぱり一人で寝るのが寂しいんですか?
心の喪失に耐えられないんだよ
だから誰とでもいいんですね?
違う
いえ簡単な快楽に溺れたいだけ
刹那的な逃避で心を癒したいだけ
そのために男を利用しているだけなのよ
違う違う違う!
ここはどこ?
アスカの中にある僕の心だよ
てことはシンジの中にいる私の心でもあるわけね
アスカは何を願うの?
私は一人で生きるの
パパもママもいらない、一人で生きるの
私はもう泣かないの
でもまだ泣いてる
あの子苦手なんです
弱気とは医者の君らしくないな
医者も人間ですのよ、前にも言いましたけど
しかし君のような女性が
子供相手に
妙に大人で、張り詰めた絶対的な拒絶があって時々怖いんです、あなたそう感じたことありません?
いいや、とにかく君はアスカの母親になったんだ
その前に私はあなたの妻になったのよ
同時にだろ
ええ社会的立場からはそうですわ
あなたはあの子の父親をやめられないけど、私はいつでもあの子の母親をやめることができますのよ
それはそうだが
やめてママ!ママをやめることはやめて!私ママに好かれる、いい子になる!だからママをやめないで!だから私を見て!やめてママを殺さないで
あなたのパパはママが嫌いになったの、要らなくなったの、ううん、最初から好きじゃなかったのよ、最初から要らなくなったのよ、きっと、だからママと死にましょう、パパは私たちが要らないもの
私は邪魔なの?いらないの?
一緒に死んでちょうだい
いや!私はママの人形じゃない
自分が考え自分で生きるの!
あの時ママが天井からぶら下がってたの、その顔はとても嬉しそうに思えたわ
でも私はその顔が嫌だったの、死ぬのは嫌、自分が消えてしまうのも嫌、男の子も嫌、パパもママも嫌、みんな嫌なの、誰も私の事守ってくれないの、一緒にいてくれないの、だから一人で生きるの、でも嫌なの辛いの!独りは嫌、独りは嫌!
僕を見捨てないで
私を捨てないで
私を殺さないで
これは何
あなたのお父さんが進めていた人間の補完計画よ
これが?
その一部らしいわ
真実は私達にもわからないもの
ただ今自分で感じているものが事実でしかないわ
あなたの中のね
そしてその記憶となるものが君の真実となっていく
時と共に変化していく真実もあるわ
これが事実?全ての結果なのか?これが
沢山ある事実、その中の一つよ
あなたが望んだ結果なのよ
僕が望んだ?
そうよ、破滅を、誰も救われない世界を
違う
誰も救ってくれなかっただけだ、僕を
誰もあなたを救えないわ
これは君が望んだ事だ
破滅を死を、無への回帰を、あなた自身が望んだのよ
これが現実なのよ
現実ってなんだ
あなたの世界よ
時間と空間と他人と共にある君自身の世界のことさ
君がどう受け止めどう認めるかは、君自身が決める世界だ
今はただ与えられるだけの、あなたの世界なのよ
どうしようもない、あなたの世界よ
もう全て決まりきってる世界だろ!?
違うわ、あなたが決めている世界なのよ
君の心がそうだと決めている世界なのだ
生きようとする意志も
死にたいと思う心もあなた自身が望むことなのよ
この暗闇もこの半端な世界も、全て僕が望んだというのか
そうよ
閉鎖された自分一人が心地いい世界を君は望んだ
自分の弱い心を守るために
自分の快楽を守るために
これはその結果にすぎないわ
閉塞された空間ではあなた一人の世界では人は生きていけないもの
でもあなたは世界の自分を取り巻く世界の閉塞を願った
嫌いなものを排除しより孤独な世界を願った、あなた自身の心
それが導き出された小さな心の安らぎの世界
この形も終局の中の一つ
あなた自身が導いたこの世の終わりなのよ

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