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こちらの世界は確実だった

昨年11月に白内障の手術を受けて、半年もしないうちに後発白内障になった。
左目は、網膜に皺がある網膜前膜があるので、白内障手術で眼内レンズを交換した後も視界はさして変化もなく、午後には、壊れた眠り人形のように瞼を閉じている。
なので右目だけの世界。それがまた霞んでしまったのだ。


指先が痺れている。
抗癌剤の副作用が、キモ初回ー2回目より更に長引く3回目。足の指先もあまり感覚がない。日本の冬を思い出すようなかじかんだ末端神経。


声がかすれている。
これも、抗癌剤の副作用だろう。家の中でもマスクをして乾燥させないようにしている。それでも午後には声が出ない。歌えないカナリヤほどかわいいわけではないが、芸の一つもできなきゃ私自身が楽しくない。


味覚が鈍い。
闘病中だから仕方ないとは言え、調理するのに感に頼る。
何を食べても、砂を噛むうようだ。


眠れない。
疲れているのに眠れないのは、罰ゲームか拷問だ。


決して嘆いているわけではない。
これが今の私の世界だ。そういう朧な感覚の中で生きている。
もう、以前の世界はあちら側に行ってしまった。


あちら側は感覚の研ぎ澄まされた世界だった。
では、こちら側の、この手探りな雲の晴れない鈍い世界は何なのだろう?


この世界は容易ではない。
・・・が、私を慎重にし、一つ一つ確認させ、丁寧に触り、愛おしく見、じっくりと味わい、心に仕舞う夜。

何と確実な世界に生きていることだろう!


キッチンーデスクー食卓ーソファー寝室、点と点を結ぶように置かれた眼鏡。
その範囲内をウロウロとする毎日。
その中に、確かな自分がいる。


今はそれでいい。

それがいい。