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水川かたまりの『女装』について考える

アメトーークの『女性役やってる芸人』ご覧になりました?いやー、ほんっとによかったですね。かつて、水川かたまりさんの女装新規としてド派手に空気階段沼にすべり落ちた私にとって、この日は夢のような回でありました。夢だけど、夢じゃなかった。

滑り落ちた時の記事です

女性誌に女の子として登場したり、いろんなCMに女装して出たり、女装アイドルデビューして武道館で踊ったり、なにかあるたびに女装姿を披露することがこの一年で増えたかたまりさんはアメトークでも二番手の好ポジション。
ビビり-1グランプリ・踊りたくない芸人と過去二回アメトークには出演してきましたが、これが初めてのトークメイン回です。おめでとう!

「水川かたまりの女装はどうしてこんなに私たちを虜にするのか」これまで幾度となく真剣に考えてきましたが、なかなかその答えが出ませんでした。元々顔の造形が整っていて、芸人としては突出して女装が似合う顔立ちですが、アイドルや役者に目を向ければ彼以上にかわいく女装する人が他にも沢山いるってこと、わたしだって知っています。それなのにどうしようもなく彼の演じる女性に強く惹かれてしまうわけで、魅力はビジュアルの美しさだけではないのです。

女性役をすることの多いコント師が集まったアメトーークの『女性役やってる芸人』回は、芸人さんそれぞれが女装する上でのこだわりを発表したり、お互いが高め合い声を掛けあうなど終始和やかで非常に見応えのある回でした。そして、いろんなこだわりをもった女性役の芸人さんが揃ったことにより、かたまりさんの女装に惹かれる理由が自分の中でハッキリした回となりました。

他の芸人さんと比較すると、水川かたまりさんが演じる女の子には明確なモデルがいないように思います。アメトークで名乗った「吉野あさひ」という女の子は、コント『花火』に登場する「天国からこの世に舞い戻った17歳の幽霊」です。
設定はファンタジーだけど、吉野あさひという人自体はかなり薄味。「現世では優等生だったのに天国デビューした結果、天国でパイパンになった」というエピソードは笑うポイントではあるけれど、それはファンタジックな話の流れからは予想できない彼女の意外性に笑ってしまうのであって、彼女自体はいたって「ナチュラル」に存在しています。声色を大きく変えるわけでもないし、可愛いポージングも特にしません。ちなみに膝をきちんとくっつけた座り方は彼自身の基本スタイルです。シンプルにお行儀がいい。

かたまりさんの演技のナチュラルさは野田クリスタルさんも言及されていました。

「田中さんは普通であろうとする人、かたまりはナチュラルな人、う大さんはリアル。」(8:00頃~)

『花火』の他にも『定時制高校』や『枕営業』『中華夫婦』『呪い』など、空気階段のコントには色んな女性が出てきますが、どの女性にしても「こういう人いるよね(笑)」というあるあるの笑いにはなりにくい造形のように思います。
それでいて、かが屋の賀屋さんが演じた瀬戸内かやさんのように等身大の女性のリアルさに重きを置いているかと言うと、それに特化しているわけでもありません。むしろその顔のつくりも相俟って、佇まいはどこか二次元的ですらあります。

フリー演技をノーミスで走りきった2人 優勝

今回、男性ブランコの浦井さんと演じた一分程のエチュードは、放送後から大きな話題となりました。かくいう私も放送直後から狂ったように何度も二人のお芝居ばかり見ています。ビデオの時代だったら、とうにテープが摩耗して見れなくなっていたでしょう。

浦井さんとかたまりさんのエチュードはほんの一分間の短いやりとりの中に、始まりかけている恋の面白さが詰まっています。

漂わせる雰囲気は楚々としているのに、どこか危うさを感じさせながらふわふわと夜道を歩く女の子。そんな彼女を心配しながら追いかける、人畜無害そうな眼鏡の男。まず、キャラクターの組み合わせが100点ですね。浦井さん、ありがとう。浦井さんが浦井さんなことに感謝です。

全セリフに言及したいくらいなんですけど、キリがないので特に気になったところだけサクサクいきましょう。

まずあさひちゃんの一発目のセリフ、
「あー、すごい…」 ですよ。
わたしはもうこの時点で心臓鷲掴みにされてます。「ヤバい」じゃなくて「すごい」なんだなと。妄想たくましいオタクはこの3文字だけで「待って、エッチでは…?」となり、ここからの展開に覚悟を決めて思わず正座しました。
「強くないのに飲みすぎちゃった」とふらふらしながら数歩歩き、道に座り込むあさひちゃん。元々の設定のせいでシチュエーションにそぐわない裸足なのですが、そのおかげで浦井さんよりも少し背が低く見える効果が得られていて"""最高"""と言えます。

「しんどそうだからさ」「うん」「どこかで休憩しない?」ホテルへの誘いを仕掛けた浦井さんに短く返した「うん」をもう一度よく聞いて欲しい。多分これ、正しい表記は「うん」ではなく「うん…(吐息)」です。一瞬だけど「酔っ払って、体内に熱がこもった声色」で返事してます。恐ろしい。

今回、かたまりさんのお芝居で特筆すべきは目線です。一度目の「いいよ」のセリフ以降、あさひちゃんは一度も浦井さんから目線を外していません。それまでは虚ろな目でふわふわと視線を漂わせていたのに。しゃがんだ体がおぼつかなくゆらゆらと揺れても、浦井さんが先に立ち上がろうとしても、絶対に目線を外していません。もちろんかたまりさんの中で演技プランとしてあったんだと思いますが、それをごくナチュラルにやるのがこの人の恐ろしいところです。そしてあさひちゃんとは正反対に戸惑ったり慌てたり、終始目線が定まらなかった浦井さんのお芝居がとても良い対比となっていました。決定的な言葉をかけずに「じゃあ、」と言って立ち上がろうとする浦井さんがあさひちゃんからのあけすけな「したいってことでしょ?」に不意をつかれて思わず顔を背ける一瞬がたまらなく好きです。

あさひちゃんの「そのつもりで来たよ?」自体の破壊力もさることながら、二度目の「そのつもりで来たよ?」を放つ時の表情がすごい。一度目は相手の「言ってる意味分かる?」というまどろっこしい言葉を受けて、あけすけな「したいってことでしょ?」という発言にいたります。その名残を多分に含んだ苦笑混じりの笑みを浮かべながらの「そのつもりで来たよ?」なんですが、二度目の「そのつもりで来たよ?」では微笑みすら浮かべていない。相手の目をじっと見据えて、指先は袖口をつまんだまま。

そうなんですよ……目と同じくらい凄かったのがかたまりさんの『手の動き』です。浦井さんの腕に添えた手は、画面越しに見ても完全に女性の手指でした。かたまりさんの手は元々キレイだけど、特に小さいわけじゃないし、相応の男性の手をしています。……しているはずなんですが、浦井さんに触れる手の動きはどう見たって女の子なんですよね。あさひちゃんのつまんだ指を下から包み込むようにして、手首を掴んで立ち去る浦井さんの手も我慢ならなさを感じて非常に良かったですね。

今回の相手が浦井さんだったことによってこれまで以上に化学反応が起こり、未だかつてない大きな反響がありましたが、女性役をするかたまりさんには時々こういうことが起こります。

彼は空気階段のコント以外で女性役をやると、ぐっと生々しくなるのです。以前より空気階段の男女ネタは、下ネタと言ってもどこかファンシーで性の匂いが薄いように感じていましたが、今回のこのアメトークで確信に変わりました。

コント『花火』ではもぐらさん演じるオオサワくんの元に幽霊のユキが現れて奥手なオオサワくんの手を引いて誘うし、コント『枕営業』では抱かれる覚悟でやって来た新人女優に対して、もぐらさんが演じるプロデューサーは嫌悪感を示します。どのコントも男性よりも女性のほうが積極的なのは、空気階段のピュアな恋愛観が反映されているからな気はしています。

空気階段という枠が外れ、相手が代わると一気に男と女の話になる。かつてチーム田中として出演した2022年のドラフトコントでは、憧れのう大さんがいるのもあってか、グランドファーザーコンプレックス略してドファコン女子を演じたかたまりさんの静かな狂気と色気がすごかったです。度肝抜かれた。

愛おしそうに胸に顔埋める仕草は素でやったのか、
う大さんによる演技プランなのかマジで聞いてみたい

また、オズワルドとのユニット「蟹」として披露したコント『こんな夜があってもいい』ではオズワルド伊藤さんにナンパされて持ち帰られる女の子がことごとくエッチで震えました。このコント、終わり方がめちゃくちゃいいんだよな、、

(余談ですがかたまりさんの女装が一番可愛いと力説し過ぎた伊藤さんのせいで、イワクラちゃんがかたまりさんに嫉妬していた時期があったエピソードは筆舌に尽くし難い良さがあります わかる わかるよ)

個人的にはネタパレの時のかたまりさんが良すぎたのでそちらをオススメしたいのだけど、今でも公式で見られるのは初出の冗談騎士だけなのでこちらを。(とか書いてたら2023年3月24日のネタパレで再度放送されたというね……知ってたらそれまでにこのnoteあげたのに……)

かたまりさんの女装は「あるある」と共感して笑うタイプの女装ではなく、あくまでも作り出す物語の中のいち登場人物としてそこに存在している、それが今回のアメトークでは顕著に表れていたように思います。それぞれが女性役をするにあたってのこだわりを話す場面でも、かたまりさんは女性らしく見せるためのこだわりについて、本人からはほとんど言及していません。
彼の口から語られたのは
「メイクさんにメイクはおまかせしてる」
「ハゲ治療でまつ毛が伸びて胸が出てきた」
「女性誌に載るともぐらがいつもよりかっこよくなる」
こだわりエピとは?と思わずツッコミたくなる発言の中で、唯一のそれらしいエピソードは
「袖の芸人を全員勃起させるつもりでやってる」
でした。

………それだ!!!

最後の最後で出てきたこの言葉に、これまでずっと不思議に思っていたかたまりさんの女性役の謎が解けました。「この女装は誰に向けた女装なのか」というのをこれまで考えたことがなかったからです。盲点すぎた。

例えば、コットンきょんさんが演じる『映え二ストみすず』の癖のある話し方に「こういう話し方の人います!」と川田さんが笑ったように、彼の演じる女性は「女性から見たあるある」の側面が強いのでしょう。
チュートリアル徳井さんの演じる『鳥飼いずみ』さんやマンボウやしろさんの演じる『やしこ』は女性として振る舞うことへの理想が具現化したものでした。
(徳井さんの「男性器の存在を忘れる」「女の子の集団に入りたい」発言に全員が同意する流れに一人苦笑いしていたり、ガールズトークが盛り上がって収拾がつかなくなるお笑い的なくだりでもかたまりさん一人だけ静かにきょとんとしていたのが、なんというか…モテる女の振る舞いそのものでした)

かたまりさんはあるあるから少し離れたところで、女性をここまでナチュラルに演じられる人です。女性を演じる上での唯一のこだわりが「袖の芸人を全員勃起させるつもりでやっている」という気持ちなのはめちゃくちゃ強いし、ネタとして下ネタを扱う場合に当てはめる方程式としてはとても正しい。女性のキャラクターで笑わせるのではなく、あくまでもネタで笑わせるという矜恃がみえるのはかたまりさんらしいなと感じます。
まぁ、その「つもり」が袖の芸人だけで留まらず真正面から対峙している客席の人間に影響がないわけがなく、そりゃあこっちの無いものも勃つって話です。なるほど、納得。

今回、何よりも良かったのはこれが『アメトーーク』というお笑い一等地で観られたのがなによりも良かった点だと思います。ジェンダーの問題で活発に議論が交わされる昨今、取り上げ方によっては燃えに燃える可能性も十分にありましたし。(もちろんそのような声がところどころであがっていたのは存じております)

でも、出演した芸人さんたちが各々行っている、女性を演じるにあたっての努力や心がけがきちんとフィーチャーされていて、見ていて終始楽しめました。ここから名物企画になってほしいし、かたまり×浦井の長尺芝居が見られる機会を別番組でいいから作っていただきたいです……なにはともあれ、加地Pありがとう!責任とって~~~!

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