この世界をゆるやかに破滅させるなら
僕がこの世界をゆるやかに破滅させるなら、飲み物に微量の毒を仕込む。
その毒は、人々をいい気持ちにさせて、饒舌にさせる。その毒が入った飲み物を飲んでいる時だけは、普段の抑圧された感情を解放できるようにする。誰かと一緒にそれを飲めばまるで本音を語り合えているかのような錯覚を与える。その飲み物を飲んでいる時だけは、嫌な過去を忘れられるような魔法をかける。
ただし、いいことばかりだけではみんな気づく。何か良くないことも引き起こさないといけない。みんな、ただうまいだけの話には乗らないからね。
だから、この毒が入った飲み物を飲んだ後は、猛烈な吐き気、眠気、倦怠感、後悔がやってくるように設計しておいた。そうすれば、飲んでいる時の心地よさが、これらの症状と引き換えに得られるものとして納得できるからだ。ただうまいだけの話じゃないから、みんな自分なりに考えて、安心して毒入りの飲み物を飲めるという寸法になっている。
こうして、僕は毒を世界に流布する。みんな、気持ちよくなりたいから、毒を飲む。きちんとデメリットを理解した上で、毒を飲む。飲むことで得られる心地よさを、享受する。饒舌になり、本音を語り、気持ちを解放する。これがクセになる。もうやめられない。
しかし、毒の効果はそれだけではない。ここからが僕の計画だ。この毒は人の気持ちを大きくする。そして、憎しみを生み出す。この大きくなった気持ちと、憎しみが、この世界を破滅へと導くための答えだ。気づいた頃には、人は人を許せなくなっている。毒の副作用だ。この毒は許容の心を破壊し、憎しみを育てる。許せないことが増える。許せない人が増える。これが、正しい破滅への第一歩だ。これさえ実現すれば、あとはもう時間の問題だ。時間が解決してくれる。時間が破滅してくれる。
これが、僕がこの世界を破滅へと導く方法だ。
計画は最終段階に入った。あとは見届けるだけだ。
優雅な気持ちで、破滅の光景を眺めていようと思う。こんな時にふさわしい飲み物を飲むとしよう。
では、乾杯。
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