空から旭川・富良野を見てみよう(5)
Scene 12(中富良野町西中地区)
♪Hula Girl
「上富良野町の南隣は中富良野町じゃ」
「平地が広くなってきました」
(テロップ)空知郡中富良野町 DATA
人口4,796人(道内99位) 面積108.65k㎡(道内167位)
2022年1月1日現在
町の花はラベンダー、町の木はこぶし
「富良野盆地の中心じゃな。この広大な平原を利用して、ラベンダーをはじめ様々な農作物が生産されておるのじゃ」
「畑の真ん中を気動車がポツンと走っています」
「富良野線じゃな。富良野線は札幌や旭川から道東方面に向かう最初の鉄道として1900年に開通したのじゃ。今の富良野駅は最初下富良野と言っておった」
「昔は上中下が揃っていたのですね」
「1907年に狩勝トンネルが開通して、旭川から下富良野経由釧路までの線路がつながったのじゃ。石川啄木は1908年にこの線を使って小樽から釧路まで旅して、車窓風景を短歌や日記に残しておるぞ」
「鉄道紀行ですね」
「小樽の新聞社で同僚と殴り合いのケンカをして、クビになって釧路で再就職するためじゃったがの」
「きゃー、暴力はいけません」
「その後1913年に滝川から下富良野までの路線が開通してそちらが幹線となり、旭川ルートは富良野線として独立したのじゃ。根室本線が災害で運休になるまでは、旭川から富良野経由で帯広まで行く快速列車も運転されておった」
「学校の朝礼台みたいなところに止まりましたよ」
「西中駅じゃな。北海道には線路の脇に板を並べただけの駅がたくさんあるぞ。富良野線では正式な駅とされておるが、国鉄の頃は全国版の時刻表に載っていない仮乗降場が道内に百数十か所あったのじゃ」
「夜景はほれ、こんな感じじゃ」
「海の底みたいです!」
「ははは、絶景じゃろ」
「くもじい、丘の上に六角形の建物があります!」
「むむ?こりはもしかして…」
「どうかしましたか?」
「ウルトラセブン師匠が使っておられたウルトラアイの片方かもしれぬ!星雲に帰る時にお忘れになられたのかのう。大変じゃ!」
「くもじい、落ち着いて!」
(ナレーション)「この建物は富良野リゾートオリカ。18ホールの本格的ゴルフ場を備えた高級ホテルです」
(ゴルファーがクラブを振る効果音)
「そうじゃったか。悪い異星人の手に渡らずよかったのう」
「くもじい、十勝岳の眺めが素敵です!」
「絶景を愛でられるのも平和だからこそじゃ。…ちょい待て。道端にあの黒い奴がおったはずじゃが」
「黒い?何もありませんよ」
(ナレーション)「くもじいが探しているのは、貨物列車の車掌車を接合した建物。ガラス細工体験施設として使われていましたが、既に解体されています」
「何と、またなくなっちょるのか…」
「もっと早く来たかったですね」
「残念じゃが、番組制作上の都合仕方なかろう」
♪Firecracker
「あっくもじい、駅のホームを剥がしている人がいます!」
「何じゃと?おお、門柱までトラックに乗せて持ち去ろうとしておるぞ。一体何じゃ、こやつらは?」
「? 駅のホームを取り外す人の正体は?」
「ここじゃな。くもじいじゃ!」
「はい、そこ危ないですよ」
「おぬしらは何をしておる!」
「ラベンダー畑駅の撤去作業中です」
「撤去じゃと?廃止になるのか?」
「いえ、今シーズンの営業が終わったので、その片づけです」
(ナレーション)「ここは富良野線のラベンダー畑臨時駅。6月から9月まで、観光列車の”ノロッコ号”を停車させるために設けられている駅で、営業期間以外ホームなどの設備は毎年撤去されています」
(ラベンダーシーズン中に大勢の乗客が列車を待つVTR)
「来年の5月末にはまた組み立てに来ますよ」
「そうか。風雪にさらされないように保管しておくのじゃな」
「臨時駅って、さっきくもじいが言っていた仮乗降場とは違うのですか?」
「仮乗降場は通学など地元の利便を図るために地域の鉄道管理局権限で設置された駅で、国鉄本社は関知していなかったのじゃ」
「はい」
「臨時駅は、ここラベンダー畑駅のように観光シーズンやイベントなど特別な時期だけに使う駅じゃ。JRでは仮乗降場という扱いをなくして正式駅に統一させたのじゃが、観光用の臨時駅は今でも全国に十数か所あるぞ」
「駅って奥が深いのですね」
(撤去作業の早回しVTR)
「ああ…骨組みだけになってしまいました」
「資材はどこで保管するんじゃ?」
「旭川保線区で管理しています。では!」
(トラックから笑顔で手を振る作業員の姿)
「気をつけてのう!」
「来年の夏が楽しみです!」
Scene 13(中富良野町基線地区)
「くもじい、富良野川の向こうに赤や黄色の毛糸がたくさんあります」
「本当じゃ。手芸店かのう」
「見に行っていいですか?もうすぐマフラーの季節ですし」
「ああ、よいぞ」
「マルキュー(109)の売り場を思い出します」
「くもみ、毛糸ではないぞ」
「ありゃ、本当だ。お花ですね」
「花壇じゃな。それにしても見事な色じゃのう」
「見とれちゃいます。向こうには青や紫の花もあります」
「ラベンダーはもう終わっちょるはずじゃが。あの者に聞いてみようかのう」
「すみません、くもみですけど」
「はい、いらっしゃいませ」
「今咲いているお花、教えてくださいますか?」
「はい、今はサルビアやケイトウ、キンギョソウ、マリーゴールドなど、秋のお花が見ごろです」
「ラベンダーだけじゃないのじゃな」
「そうですね、前はラベンダーの見ごろが終わるとちょっと色合いが淋しくなっていましたけど、遠くからいらっしゃる花人さんたちに少しでも喜んでもらおうと、秋のお花もたくさん栽培しています」
「隣の畑はラベンダーですよね。探し物をしている人たちがいます」
「お宝でも埋まっちょるのか」
「いえ、これは宝探しではなく、草抜きという雑草取りです。ラベンダーはとりわけ雑草に弱いので、雑草の種が土に落ちる前に一本一本手作業で抜いて、腰につけた袋に入れ、冬支度に備えます」
「腰に来そうじゃな」
「私たちにとってはラベンダーがある意味お宝ですから、スタッフは皆真剣ですよ」
「身体には気をつけてくださいね」
「ここではラベンダーの香水も作っておるのか?」
「はい、香水だけでなく、ラベンダーオイルを使った商品をたくさん取り揃えております」
「ラベンダーオイルって、どうやって作るのですか?」
「水蒸気蒸留法で花から抽出しています。質が落ちないよう、花が見ごろのうちに刈り取ってオイルにします」
「それを見しちくれぬか」
「今はシーズンではないので、こちらをご覧ください」
(ナレーションとVTR)「この農場では、本園とその東4kmにあるラベンダーイーストで咲くラベンダーを集めて、オイルを抽出しています。ラベンダー200kgが入る大型蒸留機3台を備えています」
「おお、釜に乗ってラベンダーを足で踏んづけておるぞ!」
「蒸気がむらなく届くよう、すきまなく詰めていきます。蒸留舎に運ばれるとスチームで蒸気が送り込まれます」
「湯気が出てきました」
「この蒸気を冷却すると水分と油分が分離します」
「わしらが生まれる時と同じ原理じゃな」
「水位を注意深く調節して、油分のみを取り出します」
「おお、出ちょる出ちょる。ええのう、ええのう!」
「金色の糸みたいです!」
「抽出されたオイルは1年寝かせて、香りを安定させてから製品化します」
(ナレーション)「ラベンダーオイルは心と身体にリラックス効果があると言われています。一時、合成香料の普及で富良野のラベンダー栽培は危機に瀕しましたが、近年はオーガニックが見直され、ラベンダーは富良野と北海道を代表する花のひとつになっています」
「ラベンダーのかおりが漂ってきそうです!でも食べられませんね」
「そんなくもみちゃんにお勧めのカフェがありますよ。メニューは全て北海道産の食材を使っています」
「コーンやお米の甘さ、ソーセージのお肉、ラベンダー色のカルピス、ザ・北海道!じゅるる~~~!」
Scene 14(鹿討~学田)
♪On The Road
「ちと寄り道しすぎたのう。先を急ぐぞ」
「はいっ!…中富良野の街並みを過ぎると、急に静かになってきました」
「このあたりは水田地帯になっておる」
「お米も作っているのですね」
「米も中富良野の主要な作物じゃ。この田んぼでは”法螺吹米”という酒造用の米の稲を植えておる」
「ほらふきまい?話を盛る、あのホラですか?」
「その通りじゃ。地酒を飲んで大ぼら吹いて一年中明るく暮らそうという意味の名前じゃ」
「小さな駅が見えてきました」
「鹿討駅じゃ」
「ベンチのざぶとんもラベンダーカラーです」
「富良野と中富良野に挟まれたさびしんぼ駅、ええのう」
「鹿討駅の先で富良野市に入るぞ」
「いよいよ富良野!」
(テロップ)富良野市 DATA
人口20,617人(道内30位) 面積600.71k㎡(道内50位)
2022年1月1日現在
”へそつながり”で兵庫県西脇市と友好都市
「高い山が近づいてきました」
「そろそろ富良野盆地の南端じゃな。山の向こうは三笠や夕張など石炭で栄えた地域じゃ」
「今はメロンですね」
「夕張は町の衰退が全国的な話題になっちょる。この50年で富良野と逆転してしもうたのじゃ」
「悲しいです」
「冬にこのあたりで降る雪は質の良い粉雪で、ニセコと同じくスキーに適していると言われておるぞ」
「くもみをスキーに連れていってください!」
「考えておくかのう」
「もうひとつ小さい駅があります!」
「学田駅じゃ」
「がくでん?学校と関係があるのですか?」
「1896年に札幌農学校がここに農場を開いたのじゃ。3年後には東京帝国大学の演習林もできて”大学の村”と言われるようになったのじゃ」
「鹿討も学田も、気動車がはみ出しそうにホームが短いです」
「実際にはみ出すのじゃ」
「えー?」
「昼間や夜は1両だけじゃが、朝に2両編成で運転される時は富良野寄りの車両が踏切をふさぐ形で止まるのじゃ」
「不便ですね」
「都会とは違って本数が少ないし、ちと待てば開くから構わないのじゃろ。昔は東急東横線の菊名でも渋谷寄り1両がはみ出して止まっていたからのう。踏切が開かず大変じゃった」
「聞いたことあります。あっくもじい、空に富良野メロンが一切れ浮かんでいます!」
♪Firecracker
「ははは、空にメロンが浮いているわけがなかろう」
「だって、ほらあそこに」
「うん…?本当じゃ!おお、こちらに近づいてくるぞ!」
「くもじい、危ない!」
「わわっ!ふー、怖かったぞ。雲の通り道を邪魔するとは不届きな。ひとこと言ってやらねば!くもみ、行くぞ!」
「はいっ!」
「? 学田駅上空を飛び回るメロンの正体は?」
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