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いつかどこかの思い出

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現実へのぼんやりとした上書きのようなもの
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#小説

とはれずかたられず

 私は人の気持ちが分からない。そして、そうであるならばなおさら言うまでも無く、彼女の気持…

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不浸染

20□□年 ■月 □日  その日は確か海の日であったと記憶しています。連休であるというこ…

鯨骨生物群集

 はらはらと舞い落ちて、そうして降り積もって。けれどやがて、その堆積物は宵闇に飲み込まれ…

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ひとなつの

「これから幾年かたったあとで ふと、あなたがその名を読むとするならば そのとき、私を、死…

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モノトーン・ブルー

『わたしは、青という色が好きではなかった』 『落ち着く色だ、知的な色だなんていくらでも取…

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薔薇と紫陽花

 その日は、ひどい雨だった。気圧が低くてただでさえ気分が上がらないというのに、横殴りの雨…

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空繭

「貴方に呪いを残す事にしました」  紫陽花で青白く染まる階段を下りながら、貴女は私の方を振り返ることも無くそう言いました。たたらを踏んで青く色付く前に枯れ落ちた花がかさりと音を立てます。私は呪いという普段耳慣れることのない言葉に、愚かしくも同じ語句を反芻して貴女に問うことしか出来ませんでした。 「ええ、呪いです」  口の中でその言葉を慎重に転がすようにしながら呟き、そうしてゆっくりと貴女は私の方を振り向きました。貴女の顔は夕闇の逆光の中で輪郭を失ってしまっており、今となっては

結花

 彼女の姿が、見えた気がした。満開の桜の木の下、黒色に染め直した髪をなびかせて、艶やかな…

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猫のいた街

1.  曰く。旅は、メディアなどが作り出したイメージを辿る移動行程に過ぎない。友人の専攻…

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事実恋愛

 都会において夜空が赤く染まる事があるのは、地上に明かりが有り過ぎるからだ、なんて事を何…

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燐光

「貴女にとって私は何色に見えているのかしら?」  大学での講義の帰り道、彼女がいきなりそ…

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