久留米青春ラプソディ vol.4
(汗と涙の野球部物語 編 第3話)
大会までまだ残り3ヶ月。
本来なら最後の追い込みと練習試合での実戦。
それを繰り返し、チームを仕上げていく。
そんな段階で僕らは一つ下の主力6名が退部。残るは3年生3人、入部したばかりの1年生が12人。
1年生の中にはもちろん経験者もいるが、言うてもこの前まで小学生。
到底戦力とは言えないレベルだった。
飛車も角も、桂馬さえもいない。
歩ばかりのチーム。
このままでは、市内のどのチームにも勝てる気がしなかった。
僕がキレて手を出してしまったせいで陥った最悪の状況。
「俺がなんとかする。」
そう言って3年の2人には、啖呵を切ったものの、何もいい手立てが思いつかなかった。
そんな時、授業中にボーッと中庭を眺めていると、少年野球時代の仲間だったウメというやつが遅刻してきたのが見えた。
ウメは小学校時代、その恵まれたガタイもあり、不動の4番バッターとして、その名を市内に轟かせた。
さらに、その持って生まれた強肩で盗塁を阻止し、何度もチームを救った。
そんなウメだが、卒業後、野球部ではなくリトルリーグに入り、野球を続けたのだが、練習についていけなかったらしく数ヶ月で辞めてしまった。
そのあとからだろうか。
彼は急にグレはじめ、学校には来たり来なかったり。頭はリーゼントでボンタンに短ラン。どこからどう見てもゴリゴリのヤンキーになっていた。
顔もイカツイし、ガタイもでかいので、後輩からは恐怖の存在だったに違いない。
ただ、僕からすると見た目は変わったし、つるむこともなかったが、彼の内面を知ってる僕はもちろん一度も怖いなんて感じたことはない。
家族想いで弟の面倒をよく見る。努力家でとても優しいやつだ。
実際、学校に来ても、物静かで、悪さをした話も聞いたことがない。
恐らく、僕や僕の周りの悪友たちの方がよっぽど色々な人に迷惑をかけていたと思う。
そんなウメをボーッと眺めながら、僕はふとこう思った。
「ウメって、もう一回野球せんかなぁ…」
あんなにヤンキーになったやつが今さら野球なんてやるわけなーか、なんて思いつつ、数学の授業の退屈しのぎに、僕なりの中学最強オーダーを書いてみた。
転校したやつもいたし、リトルリーグでキャプテンのやつもいる。そういう現実的じゃないやつは除外していって…
ピッチャーが俺で、キャッチャーがウメで…
結果的に少年野球時代のスタメンととても近い感じになってしまったのだが、考えているだけでワクワクした。
もちろん、現実的には最強の1番バッターでサードだった運動神経の抜群マン、そして市内No.1センターと言われていた俊足君の2人は、目下陸上部で大活躍中。5番・ファーストだったジャンボマンはそのガタイに似合わず卓球部。
それなりにみんな活躍していたし、伸び伸びと部活ライフを満喫しているのだろう。
改めて自分が置かれている状況にため息が溢れた。
その日の夜。
珍しく帰宅が早い母親と、それまた珍しい夕食の時間を過ごしていた。
母親というものは、千里眼でも持ってるのか。ただの雑談なのか、わからないが、唐突にこう尋ねてきた。
「あんた部活はどうね?」
僕はギク!とした。ギク!って音がするかと思うくらい。
僕はめんどくさいと思いながら、心のどこかでアドバイスが欲かったのか、ここ最近の出来事を話した。
ついでに、元少年野球メンバーが戻ってきたら、という妄想オーダーを作った事も話した。
すると、ただ僕の現実逃避の妄想話に対し、母は予想外に真面目な顔でこう言った。
「あんたあの子たちに声かけてみたんね?みんなね、本当は野球したいんやないの?」
「いやいや、ありえない」とあきらめ口調で反論する僕に、被せるように「やってもないことをできないと決めつけるな!」とキレだした。
また、はじまった…。
一旦火がつくとややこしい母の声を背中で聞き流しながら、逃げるように自分の部屋にこもった。
部屋でベットに横たわり、天井を眺めていると、妙に母の言葉が頭から離れなかった。
「あいつらも本当は野球がしたい…」
それ、本当か?
結局、何も答えが出ないまま、いつの間にか眠りについた。
そして、次の日。
いつもより早く寝たおかげで、とてもスッキリとしたいい朝だった。
母親に蹴り起こされる前に起きたのがよっぽど珍しかったのか、母は「あら珍しい。今日は台風が来るばいねー。」と面白くもない冗談を言った。
そして、出がけに
「あんたウメちゃんやらしんちゃんやら、みんなに声かけてみらんねよ!」と言った。
僕も一晩グッスリ寝たせいか、モヤモヤした気分も晴れ、
「おう、ダメもとで声かけてみるわ!」と答えた。
すると、母はなぜか僕の背中をバシッと強く叩いた。
振り返るとその顔は笑顔だった。
そう、こうして僕は最後の大会まで残り3ヶ月というタイミングで、かつての仲間たちを野球部に引き入れるという、一大プロジェクトを決意したのである。
<<続く>>
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