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KOBerrieS♪「風見鶏の街で」

2023年の春ごろからKOBerrieS♪を応援している「てるれのん」です。
KOBerries♪(コウベリーズ)とは結成12年の神戸発のアイドルグループ。
KOBerrieS♪の楽曲は所謂「地下アイドル」の典型ではなく、お洒落な神戸のイメージを意識したような上品さに加えて傷ついた人を鼓舞する力強さもあります。
その楽曲やグループの魅力を記録しておこうと思いこのnoteを綴ることにしました。
先に書いておきますが… 長文です…

1回目は2024年6月2日に発表されたばかりの新曲「風見鶏の街で」を語ります。このnoteはその1週間後の6月9日に書いております。

楽曲プロデュースはAKB48の2016年のシングル「君はメロディー」で知られる成瀬英樹さん。作曲だけでなく作詞と編曲も担当しています。
Recording時のVocalディレクションや歌割りの決定など楽曲制作のすべてを完全プロデュースされたようです。

「風見鶏の街で」は「震災前の神戸」を舞台にした恋愛ソングだと語られています。これまでのKoBerrieS♪の楽曲と同じように地元の神戸市を感じさせる言葉が散りばめられています。
世界観を作っているのはこの地元愛溢れるこの歌詞によるところが大きいのでしょうが、ここはあえて先に作曲・編曲面から分析します。

①イントロなしのサビ始まり

YOASOBIの「アイドル」やBTSの「Dynamite」のようにサブスクやTikTok全盛の「いま」を象徴する楽曲はイントロなしが多いと言われています。
「風見鶏の街で」もまさに潔いまでのイントロなしのサビ始まり。
でも、いま流行のイントロなし楽曲とは少し違う気がします。
KOBerrieS♪のような地方アイドルグループはライブがその活動の母体です。ライブとは言っても地元のお祭りなど音響設備的には決して恵まれていない環境でのステージも多いです(というか、ほとんどがそうなのかもしれません)。
モニターもないステージで歌い踊ることでさえあるでしょう。
となると、歌い出すのにクリック音が必要になるイントロなし楽曲はパフォーマンスしづらいはずです。
また、ダンスパフォーマンスで歌世界を表現する上でもイントロがある方が運営さんの側からは演出が楽なのではないか、とも思います。
しかし、繰り返しますが「風見鶏の街で」は潔いまでのイントロなし。
私はまずThe Beatlesの「She Loves You」チューリップの「心の旅」を感じました。

いちばんいいメロディーと印象的な歌詞を四の五の言わずに先に聞きやがれ! そこに至るいきさつは後でちゃんと歌うから!


乱暴な言い方ですがこんな感じです。
往年のアイドルポップスでいうと松田聖子さんの「青い珊瑚礁」堀ちえみさんの「さよならの物語」のような印象もあります。これらはイントロはありますが印象的なサビから初めてがっちりリスナーの心を掴む感じです。
要するに「楽曲の第一印象」でいい歌やん、と思わせるのです。編曲の段階でサビ始まりにしたんだと思いますが、英断だと思います。
でもパフォーマンスは大変だろうな…。これを書いている時点で私はまだこの新曲をライブで聞いたことがないんですが、曲始まりの衝撃を早く味わいたいですね。

②コード進行とメロディーの巧みさ

ギターとピアノでの耳コピ分析ですので正確ではないことをご了承ください。ここからは少し音楽理論的な話が続きます。適当に読み飛ばしてもらって構いません。
サビ始まりの「かっざみっどーり」の部分がC、続く「のまちでぼくらはであったー」でBm7~Emと続き、再び「えっいがっいーろ」でCに戻り、「のときーをきみとあるいたー」がB7~Emだと思います。(CはBの音を加えたCmaj7かも…。それならさらに哀愁が増すし…。)
つまり、印象的なサビは C~Bm7~Em~C~B7~Em という進行だと思います。
ここのメロディーが凄いんですよ! コードとメロディーをピアノを使って分析してみました。
メロディーの音の動きはハ長調で言うと…
「かざみどりのまちで」からが「ソ・ソ♭・ソ・ソ♭・ソ・ソ・ソ♭・ミ・ソ」
「きみとであった」が「ソ♭・ミ・ソ♭・ミ・ソ♭・シ・ソ」
となっています。
Cのキーの構成音である「ソ=G」から始まるんですが、コードの構成音ではない半音下げのソ♭=G♭との繰り返しなんです。いわば不協和音が強調されています。
ピアノで分析していて、思わず「うまいな~」と呟いてしまいました。
Cをマイナーの並行調であるAmに置き換えてみるとこのメロディーに「ソ♭=G♭」が多用される意味が少しわかります。
「ソ=G」はCコードだと長5音の構成音ですが、マイナー並行調のAmに置き換えると7thにあたります。つまり「ソ=G」の音はAm7の短7度と代替して考えることができるわけです。
すると「ソ♭=G♭」はAmに置き換えると6thの響きになりAm6となります。この音がこのメロディーの哀愁感のすべてと言っても過言ではないでしょう。
ベースは絶対にC音を弾いているのでここのコードは確かにCなんです。でもAmに置き換えると7th~6thのマイナーの哀愁の響きを感じさせるメロディー、しかも半音進行という80年代シティーポップで改めて注目された日本人好みのメロディーが最初から畳みかけられているわけです。ただの不協和音ではない、ということです。
Am7にベースでオクターブ下のC音を足したAm7onCと考えることもできるのかなぁ…。何にしても凄いメロディーですよ、これは。
しかも、「君とであった」の「あ」の音と2回目の「君とあるた」の「い」の音は同じ「シ=B」の音ですが1オクターブ違いです。2回目の方がオクターブ高い! でも音楽的には同じメロディー… ここもうまいなぁ。
しかも、その「シ=B」の音を載せるコードは1回目はBm7ですが2回目はB7。この違いがあるのでオクターブ違うだけの同じメロディーとは一聴しただけではまず気づかない。そして、B7だと普通はメジャーのEに続くのですがマイナーのEmに移ります。ここもニクい展開。
楽器や音楽理論に詳しくなければ訳が分かんないかもしれませんが、この最初のサビの部分はとにかくコードもメロディーも「半音ずらし」の応酬なんです。哀愁や切なさをこれでもかと感じさせる展開なんです。
これが70~80年代歌謡曲的哀愁を彷彿させるこの曲の「肝」だと思います。

まだ最初の15秒だけしか語っていません…。
最初のサビ後はEmからAmに移ってCを経由して基本調のGに戻ります。
Am~Cの進行は1960年代のボブ・ディランやジョン・レノン的な強引な進行。クラッシック的な音楽理論上では間違いのはずですが、日本では古くは吉田拓郎さんの「結婚しようよ」の「僕の髪が肩まで伸びて君と同じになったら」の「なったら」の部分でこの進行が使われています。一気にマイナーの哀愁からメジャーの明るさへと強引に世界観を変えます。

Aメロもいい感じで半音ずらしです
最初のG~B~Cの進行が素晴らしい!
Gの次のBがいい感じに切なさを演出します。普通ならBmに行くところなんですがここもメロディーを半音上げてメジャーのBにしているんです。

Bメロも半音ずらしが効いています。
こちらも最初のAm7~Cm~Bm7の部分がCではなく半音下げてのCmへの部分転調が効いています。

曲全体としては80年代アイドル歌謡の香り芳(かぐわ)しいメロディーの作りになっています。
50代以上には懐かしく、若い世代には昭和レトロを感じさせながらも、サビの高度なメロディー作りに象徴されるように新たな仕掛けに満ちた凄い作曲だと思います。

③ライブ映えのする王道アレンジ

アレンジも素晴らしい!
BPM143とKOBerrieS♪の楽曲としては少し早め。ドラムは8ビートを刻みますがギターが跳ねた16ビート風の切れのいいカッティングを刻みます。ギターは成瀬さんご自身が弾いていらっしゃるのかなぁ。
ハイハットも少し跳ねた感じなのに加えて、タンブリンなどのパーカッション系の音も重ねられているのでギターカッティングと相まって疾走感があります。
サビの「キメ」も多く、2番冒頭でみなみさんのソロになる部分でリズム隊がオフになるなど、ライブでダンス映えがする仕掛けが数多く散りばめられています。
落ちサビやブリッジと呼ばれる「夜の海で」の部分で音が薄くなり蘭さんのソロになるのも、王道っちゃあ王道ですがコレしかないよねという絶妙なアレンジ。
その直後のサビのメロディーがシンコペーション気味に前のめりに食い込んでくるのも歌詞の生き急ぐかのような若い頃の恋愛を表すかのようです。

いい曲です。


続いて、歌詞の感想です。
1995年以前の神戸の街をイメージした…、というような話を聞きました。
阪神・淡路大震災を抜きにして神戸を語ることはできません。震災以前の… インターネットもなかった… そんな時代の神戸。

①神戸の北野異人館街の象徴とも言える「風見鶏の館」

デートコースの定番でもあります(私も… 大学生の時に… あります)
多くの恋愛の始まりと終わりを見てきたであろう「風見鶏」。
つまり「風見鶏の街」とは神戸。

②映画色の瞬間(とき)

映画色と聞くとある年代以上の人は間違いなくあの歌を思い出しますよね。
松田聖子さん「瞳はダイアモンド」です。
その印象的なフレーズを引用して「風見鶏の館」の北野坂から見える1995年以前の神戸の絵画的な街並みを表現したんだと思います。
北野異人館街は若者の憧れの街、だったんですよ。確かに。
今のあらゆる世代が集う多文化コミュニケーションの街、とは違う雰囲気があり、恋愛のフレーバーが漂う街でしたもんね。(私も… 大学生の時に… )

③栗色の電車

阪急電車ですね。あの独特のマルーン色を「栗色」と表現。私はよく羊羹(ようかん)色なんて言っていましたが「羊羹色」じゃ雰囲気が出ませんし「茶色」も違いますし。
阪急電車沿線にはたくさんの高校や大学があります。制服の衣替えが毎年ニュースになる私立の松陰高校や公立の伝統校の神戸高校がある王子公園駅から乗ってきた女子高校生に恋をしていたんでしょうか。それとも岡本駅から乗ってきた甲南大学生でしょうか。
阪急電車を歌ったアイドルの名曲と言うと南野陽子さんの「春景色」を思い出します。遠くに海が見える「神戸線」と歌われるナンノ(南野陽子)さんの1stアルバム(LP)「ジェラート」のA面1曲目の楽曲です。
個人的にKOBerrieS♪にカバーしてほしい楽曲No.1なんですが… どこかの偉い人に届け! この思い!
閑話休題。阪急電車に乗っている女の子と知り合い「長い坂の途中で恋に落ちた」んですね。
異人館に向かう北野坂を彷彿とします。(私も… 大学生の時… って、もういいですね…)

④夕焼けの海で自転車デート

2番では「海まで自転車走らせて」います。(たぶん)神戸港に自転車で行ける、ってことか。三宮などの中央区カップルの可能性が高い。今のハーバーランドのようなお洒落な感じではなく、まだ貿易港の印象が強かった30年ほど前の海をイメージする方がいいのかな。
神戸市民ではない私はさすがに女の子と一緒に自転車で神戸の海を見に行ったことはないです。

⑤片方ずつのイヤフォン

森島みなみさんが印象的なフレーズだと語っておられた「片方ずつのイヤフォン 分け合って聴いたメロディ」は今ではなかなかできなくなったシチュエーションです。
有線イヤフォンだからこそできたこと。今のワイヤレスタイプでは生まれない恋愛事情。
コードがつながっていたのはカセットテープのヘッドホンステレオでしょう。商品名のウォークマンと書く方が時代を象徴する気もします。聴いてるのはマイケルかな、カルチャークラブかな、ワムかな。なんとなく80年代の洋楽を感じるのは個人的な感想です。

さて、この歌のふたりの恋の行方は?
「映画色の瞬間を君と歩いた」と過去形
「君の夢を守りたい」と未来形
「終わらない夏を歌っている」と現在形
過去であり現在であり未来であり
新陳代謝をくり返すKOBerrieS♪の象徴なのか。

いい歌です。


最後に歌声です。
まっすぐな歌声ですよね。上手いかどうかと言われて上手いとは確かに言えないのですがまっすぐです。
癖がないまっすぐな歌声は過去の楽曲にも通じると思います。正確なピッチを求める今どきのカラオケ番組のような上手さを求める歌作りをしていないのでしょう。
歌割りはその歌声とSNSにUPされた断片から推測すると…
レコーディングメンバー6人全員のユニゾンではない部分は
Aメロの「栗色の電車」のくだりが、森島みなみ・村田せれな・室橋枇女加の3人。高音になると森島みなみさんの声が3人の声の芯の役割を果たしている印象です。
Bメロの「文庫本の裏表紙」のくだりから廣瀬未沙・曽谷蘭・深田あゆみの3人。こちらも高音域では深田あゆみさんの声がユニゾンの芯となっているように聞こえます。
この3人ずつの組み合わせにした理由がなんとなくわかります。
2番最初のソロパートが森島みなみさん。低音域のパートでみなみさんの一般的なイメージを覆す歌声です。
最後のサビのソロパートはらんらんこと曽谷蘭さん。この楽曲のセンター的存在であることがここではっきりとわかります。初レコーディングの緊張を感じる初々しい声です。今後のライブでどう歌声が変化するのかも楽しみ。らんらんの歌声にみなみさんの声が重なってくるところも二人の対照的な声質の重なりが印象的です。
最後のサビ繰り返しで「片方ずつのイヤフォン」で(たぶん)深田あゆみさんのソロパート、続いて(たぶん)廣瀬未沙さんのソロパート。やっぱりあゆの声は芯があって目立つなぁ。表現力をつけたら大化けして凄いヴォーカリストになると思います。

というわけで発表されてから1週間という時期に書いた感想というか、レビューというか、今感じていることの備忘録でした。
おそらく「ポートタワー」や「メリケンパークに落ちる星」のようなグループを代表する歌に成長すると思います。
室橋枇女加さんの卒業は残念ではありますが彼女の歌声が記録された楽曲を残すことができたのはグループにとっても大きな意味があると思います。

ちょいと忙しくて現場に行けていないのでライブではまだ聞いてないんです。すでに複数回きいていらっしゃる方が羨ましいです。
そう遠くない日に聴けるはずなんで楽しみに待っています。



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