【読書】大竹文雄「行動経済学の使い方」

「行動経済学の使い方」という本を読んだ。行動経済学についての知見が広く浅く述べられており、これぞ良い新書という印象を受けた。一方で、伝統的経済学に対する批判とその改善としての行動経済学という形で描かれており、伝統的経済学にも良い点があるはずなのになという思いを持たずにはいられなかった。

興味深かったのは主に3点、1つ目は本筋と違うけど軽減税率について。軽減税率は食料品など生活必需品への税率を安くしようとする制度。お金持ちは食料品以外にもお金を使うけど、貧しい人は手に入れたお金の多くを食料品に費やす。だからこの制度は貧しい人にとってプラスである、というような印象を抱いていた。しかし、その考え方はどうやら間違っていたようだ。なぜなら、食料品に費やすお金自体はお金持ちの方が多いからである。例えば消費税10%、但し食料品には5%としよう。貧しい人が1日1000円食費に費やしていたとすれば、本来その10%の100円支払うべき所を50円しか支払わなくて良くなるので50円優遇されることとなる。一方、富裕層が1日2000円食費に支払っていたとすると、本来200円支払うべき所を100円しか支払わなくて良くなるので、100円優遇されることとなる。本来優遇されるべき貧困層は50円しか優遇されないのに富裕層は100円も優遇されるので、軽減税率は制度として問題があるという主張である。行動経済学とはあんまり関係していなさそうだが、この本で1番なるほどと思えた知見であった。

もう1つは、贈与とモチベーションの関連である。予め時給3000円で仕事をしてくださいと言われると3000円分頑張ろうと思ってしまうものであるが、その3000円を単なる金銭としてではなく贈り物として捉えるように仕掛ければ、もっと労働者は働くようになるという趣旨であった。実験では贈与感を高めるために、お札を折って何か(鶴ではなかったはず)を作ることによって、そのお札を金銭としてだけではなく贈り物として捉えるように操作しており面白かった。

また、「自分が避難すればみんなが避難する」というメッセージが災害時の避難を促すという知見も面白かった。「みんなが避難しているからあなたを避難してください」だと自分だけが遅れているという感がして動くのがちょっと癪と言えなくもないが、このメッセージだったら自分がリーダーとして率先して動いてという感じでちょっとは動く気になるかなと思った。

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