【読書】キム・ヘジン「中央駅」

「中央駅」という本を読んだ。面白かった。ホームレスの男女の路上での恋物語と言ってしまえばそれまでだが、現在の幸福な瞬間を楽しんだかと思えば、2人には存在しない未来に絶望するといった、感情の変化が描かれていて好みであった。以下、思ったことを幾つか。

・ホームレスには時間がたっぷりあるので、時間を売ることができればというのはなるほどであった。その時間がちょっとした仕事になれば、それは労働になり彼らはお金を稼ぐことになるのだろうが、住所不定の時点で雇ってもらうことは難しいのかもしれない。一度ホームレスになってからいかにして這い上がることができるのか。再チャレンジするのは困難のように思えた。

・ホームレス界隈では年配者が若者に対して「若いからどうにかなる」と親切に声をかけるように描かれていたが、当初は声をかけられていた若者も、そのホームレスから抜け出すことができず無碍に歳を重ね、今度は自分が若者に対して「若いからどうにかなる」と口にする立場になる。自分は高校生になったときに高3まであっという間だからちゃんと勉強しなさいという言葉を先生に言われた記憶があるが、そのことを少し思い出した。

・本作ではホームレスの男女が描かれる。当初は酒を通じて距離を縮めていた2人であるが、女が病気になり酒を飲むことで余命、つまり2人でいられる時間を縮めることになるという事態に陥る。未来の幸せを目指して酒を控えることが良いのか、それともどうせ未来なんてないのだから現在の幸せを求めて酒を飲むことが良いのか。時間割引という概念を考えさせられた。

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