【読書】海野道郎「社会的ジレンマ:合理的選択理論による問題解決の試み」

「社会的ジレンマ:合理的選択理論による問題解決の試み」という本を読んだ。社会的ジレンマにかかわる問題は日常にあふれている一方で、研究自体は実験室での実験や数理モデルといった手法で進められることが多く、両者が交わることは少ないような印象を持っていた。しかし、この本では現実問題についての具体的な記述もなされており、社会的ジレンマ研究の現場的な意味について知ることができた。

自分にとって新しい発見としては、合理的選択の定義である。今までは、モデルとして人間は合理的に選択するとされていたけど実際は合理的でない、その証拠に人間はすべての情報を検討した上で意思決定をしていないではないか、と思っていた。しかし、本書ではすべての情報を探すことによるベネフィットとその情報を探すことに伴うコストを比較検討した結果探していないのだから、すべての情報を探さないという状態も合理的であると記されており、それは目からウロコというか、そんなのありかよ的であった。

また、社会的ジレンマのそもそも論についても少し考えを深めることができた。典型的な社会的ジレンマでは、自分も相手も協力するとお互いに200円、自分だけ協力すると自分は300円相手は10円、両方とも協力しないとそれぞれ50円という状態である。このとき、相手が協力する場合、自分が協力すると200円、自分が協力しないと300円もらえるので、自分は協力しないほうが得である。一方、相手が協力しない場合、自分が協力すると10円、自分が協力しないと50円、それぞれもらえるので、ここでもやはり協力しない方が得である。だから、自分は協力しないという意思決定を行うし、それが合理的、というのが通説であった。しかし、自分が300円相手は10円の状態と、自分も相手も50円という状況で、前者のほうが得というのは自明であろうか。申し訳無さとか諸々を考慮すると、300円もらうより双方50円の方が良かった…なんてことはないだろうか。このように単なる金銭が人間によっての利得感と1対1で対応するわけではないというのが主張である。これを言ってはモデルとしておしまいではないかと思いつつ、でもこの考え方の方が現実の我々の考え方に近いかもしれないなと思った。

分厚くて面食らったが、意外と読みやすかった。

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