【読書】一色さゆり「ピカソになれない私たち」

「ピカソになれない私たち」という小説を読んだ。芸大を舞台に、卒業制作を控えた4人の学生が厳しい指導のもと奮闘する物語。芸術というのは絵がうまいというだけではおそらく不十分で、作家がこの作品を通じて何を伝えたいかという主張であったり作家自身のオリジナリティが必要になってくるようである。そのオリジナリティはテキストを読めば見つかるというわけではなく、友人との会話の中や自分を見つめ返す中で不意に見つかるものであり、主人公は自分のオリジナリティが見つからないかもしれないという不安を抱きながらも厳しい指導に格闘する。最終的に彼らは自身が納得する作品を作り上げることできるのか、断食を求めるなど理不尽なほど厳しい指導を行った教官の真意とは。面白い1作であった。以下、若干のネタバレを含みます。

この小説のなかでは、理論が分かっていないにもかかわらず人の心に訴える学生と、理論が分かっていて模写などの技術は高いがコピーのような絵しか描けない学生が登場する。後者の学生は前者の学生に嫉妬しある行動を実行しようと試みるが、運悪く前者の学生に見つかってしまう。その際にその学生が述べた発言が印象的で、誰かを蹴落としても自分は這い上がるしまた別の誰かが現れる、自分しかできないことを逃げずに見つけよというものであったと記憶している。

芸術でやっていくということの厳しさを痛いほどリアルに描いていると思った。

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