【読書】小川洋子「密やかな結晶」

小川洋子さんの小説「密やかな結晶」を読んだ。20年以上前に出版されたであるからと言って古びることのない良さを感じることができた。

とある島が舞台であるが、その島では不定期にある概念が消えていく。あるときには鳥という概念が消え、その日を境に鳥が消え、島の住民は鳥とは何であるかを忘れる。しかし、住民の中には消えたはずの概念を覚え続けている者もおり、そうした住民は秘密警察によってどこかに連れて行かれる。本小説は、消えたはずの概念を覚える能力を持った人物を、主人公と主人公のおじいさんが匿うということが大きな筋となっている。

以下、ネタバレを含みます。

最終的には、人々から腕や足が消え、住民自体が消えてしまう。このことは逆に言うと、概念を覚え続けられる者が生き残ることを意味する。どこかに隠れることを余儀なくされていた少数派が、最終的には唯一生き残るというその逆転。少数派・多数派という区分はどこかにイデオロギーの対立を暗示するが、そのような対立を決して描くことなくこの大どんでん返しを描いた点が素晴らしいと思った。

アンネの日記を読んだことがないが、その日記を読んでからだとまた印象も変わるかもしれない。

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