【読書】横山秀夫「出口のない海」

「出口のない海」という本を読んだ。戦争が関連する映画を観て面白いと思ったことが今までなかったので、戦争の関わる小説に全般的に苦手意識を持っていたが、ひょんなことからこの小説を読むことになった。予想を超えて面白かった。

いまとは全く異なる空気が漂っていたことが読み取れるが、多くの人が戦争の現場に出て行っているのに何をのんきに大学に通っているのだろう、大学に通ってまで学ぶ価値があることを自分は学んでいるのだろうか、ましてや大学で部活に励むなんてのはもってのほかではなかろうか、といった感情はいまの大学生は味わうことはないだろうけど、その社会にいれば味わうであろう感情としてリアルだった。

また戦争の現場から生きて帰ってくることがどれだけ良いことなのかも分からなくなった。家族は生きて帰ってきたことを喜ぶだろうが、本人的には戦力として命を捧げるようなことができなかったのではないか、他の人は命を落としているのに自分は何を帰ってきているんだろう、これからの人生を自分は楽しんでも良いのだろうか、といった感情を抱くかもしれない。震災で生き残った人も、周囲が亡くなったのに自分が生きていて良いのだろうか、という気持ちを持つだろうが、それと似ている部分もあるだろうし、そうでない部分もあるだろう。戦争経験者が生きているうちに、その2人の対話を拝聴したいものである。

読んでよかったと思った。名作だと思った。

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