【読書】朝比奈あすか「君たちは今が世界」

小説「君たちは今が世界」を読んだ。素晴らしい。2019年読んだ小説の中でNo.1であった。

この小説は全ての学生を救うポテンシャルを持っていると思う。

まず第2章・第3章ではどちらかと言うとクラスの隅っこにいそうな人たちに焦点をあてる。第2章は「中学受験を控えた優等生・川島杏美の物語」で、章のタイトルは「こんなものは、全部通り過ぎる」である。「こんなもの」とあるように、彼女にとって学校生活はあまり面白くないように思われる。第3章は「うまく言葉で気持ちを表現できず『問題児』とされている武市陽太の物語」である。問題児とされているので、彼にとっても学校は居心地が良いとは言えないようである。

こういうときによくあるように思われる論法は、1)うまく言葉で気持ちを表現できるように頑張りなさい、2)この人はうまく気持ちを表現できない人物であることを理解して接しなさい、ということである。1)は「問題児」に対して変化を求め、2)は周囲の人間に対して変化を求める。

しかし、本作は別の解決策を提示している。実は「問題児」とされる彼にも得意なこと(折り紙)があるのだから、それを活かせる場所で存分に楽しみなさい、ということである。誰にも何の変化を求めず、今の自分を花咲かせよといった具合であろうか。

第2章では勉強ができる人間が塾という新しいコミュニティで送る日々を描き、第3章では「問題児」とされる人間が大学の折り紙サークルに出入りし、そこで能力を発揮するという点が描かれる。小学校は人間関係が固定された窮屈な場であるが、そこにとらわれるなと言うメッセージを感じた。

第2章・第3章が周辺にいる人物に焦点をあてた章とするならば、第1章・第4章はどちらかと言うと中心にいる人物に焦点をあてた章である。第1章は「クラスのいじられ役・尾辻文也の物語」と書かれているが、いじられキャラとして中心コミュニティにいる人間であるように思われた。また、第4章は「クラスの『女王』カナの親友・見村めぐ美の物語」とあり、中心の側近である。

これらの人物はふざけて授業を妨害したり、やるべきことをやってこなかったりとする。こうしたことを彼らの不真面目さに帰属させ、彼らを非難することは簡単である。しかし、この小説は彼らを非難しない。むしろ、自分はしたくないけど周囲の圧力で授業妨害に踏み切るというシーンや、本当は真面目にしたいけれども何からしたら良いかわからないし、もはやそんなキャラではないし…といった葛藤が描かれている。彼らも本当はふざけたくないのだ…ということを述べている。

こんな小説を中学生・高校生のときに読んでいればなと思える一作であった。でも、今読めてよかったなと思っています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?