家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台⑴に関する意見
令和5年(2023年)9月3日
令和5年(2023年)8月29日に法務省ホームページの「法制審議会家族法制部会第30回会議(令和5年8月29日開催)」に掲載された部会資料30-1「家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台⑴」(以下、たたき台)に関し,以下に意見を述べる。
1.たたき台に対する評価
部会資料30-2「家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台⑴ (補足説明付き)」(以下、補足説明)は、検討の視点として⑴子の利益、⑵DV等に適切に対応する、の2点だけを挙げている。当然のことながら、たたき台は第3の視点とすべき「実子誘拐」被害者の視点を欠いた検討不足の内容になっている。
しかも、子の利益を論じる際に拠り所とすべき「児童の権利に関する条約」を遵守せず、子の利益を真っ先に挙げながら、既存制度(運用)の存続や母子家庭の経済状況改善に力点を置いている。具体的には、父母の責務として①経済的な関り合いと➁精神的な関わり合いの2つを挙げ、父母の婚姻に拘らず、子に対する責務を果たすべきと主張しながらも、経済的責務を継続する仕組みの構築に重点を置き、精神的責務については、従来制度の抜本的見直しを偽装し、お茶を濁そうとする意図が感じられた。
更に、考え方がバラバラな委員を纏め、何とか答申に漕ぎ着けるため、あるいは答申後のプロセスで修正を加え得る余地を残すためなのか、文章自体に曖昧で難解な表現が多い。論理破綻している内容を取り繕ったために、筋の通った文章にできなかったものと推測する。
家族法制の見直しに関するパブコメには、自国民が実子誘拐の被害を受けているオーストラリアも、実子誘拐の元凶となっている離婚後単独親権制度を問題視して意見を寄せている。その文脈からすれば、このたたき台はオーストラリアの提案に対する回答と位置付けられるが、先述したように「無回答」という回答である。
2.遵守すべき規定と参考にすべき規定
中間試案のパブコメと同様、たたき台に対して意見を述べる前に、今回の法改正に当り遵守すべき規定を記載する。なお、パブコメではオーストラリアの家族法を基準に意見したが、今回は、保守的な考え方に基づいた家族法を運用しているドイツを基準にした。そこで、参考にすべきドイツの規定について、その条文を紹介する。
⑴遵守すべき規定
①日本国憲法
第98条
1 この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
➁児童の権利に関する条約
第2条
1 締約国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。(以下省略)
第9条
1 締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。このような決定は、父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。
2 すべての関係当事者は、1の規定に基づくいかなる手続においても、その手続に参加しかつ自己の意見を述べる機会を有する。
3 締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。
第12条
1 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利がある。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。(以下省略)
第18条
1 締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法定保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善の利益は、これらの者の基本的な関心事項となるものとする。(以下省略)
第21条
養子縁組の制度を認め又は許容している締約国は、児童の最善の利益について最大の考慮が払われることを確保するものとし、また、⒜ 児童の養子縁組が権限のある当局によってのみ認められることを確保する。この場合において、当該権限のある当局は、適用のある法律及び手続に従い、かつ、信頼し得るすべての関連情報に基づき、養子縁組が父母、親族及び法定保護者に関する児童の状況にかんがみ許容されること並びに必要な場合には、関係者が所要のカウンセリングに基づき養子縁組について事情を知らされた上での同意を与えていることを認定する。(以下省略)
⑵参考にすべき規定
①ドイツ民法
第1626条
1 親は、未成年子を配慮する義務を負い、権利を有する。親の配慮(権)は、子の身上並び子の財産を配慮するから成る。
2 親は、子を世話し育てるにあたって、子の成長する能力および自立し責任を持って行動する必要性を考慮する。親は、子の発達段階に応じて適切な範囲で、育児に関する問題について子と話し合い、合意を得るよう努める。
3 子の福祉には、原則として、両方の親との交流が含まれる。その維持が子の成長にとって必要であるときは、子が絆を有する者との交流も同様である。
第1627条
両親は、自己の責任において、相互の合意を基礎として、子の福祉のために親の配慮を行使する。意見の相違がある場合は、合意に至るよう努めねばならない。
第1666条
1 親の配慮の濫用的行使,子の放置,父母の責に帰すべからざる無能または第三者の行為によって,子の身体的,精神的若しくは情緒的福祉または財産が危険にさらされる場合において,父母が危険を防止しようとしないとき,または危険を防止できる状態にないときには,家庭裁判所は危険の防止のために必要な処置を行わなければならない。
2 財産配慮を有する者が子に対する扶養義務もしくは財産配慮に関連する諸義務に違反しているときに,または財産配慮に関する裁判所の命令に従わないときには,通常子の財産が危険にさらされているとみなされる。
3 第1項の裁判所の処置には、とくに次の事項が属する。
児童ならびに少年援助の給付や保健福祉援助等の公的援助の請求を求める要請
就学義務の遵守に配慮を求める要請
一時的もしくは無期的に家族の住居または他の住居を使用すること,住居周辺の一定範囲に滞在すること,または子が通常滞在する他の特定の場所を訪問することの禁止。
子と連絡を図ること,または子との遭遇を試みることの禁止
親の配慮の権利を有する者の意思表示の代行
親の配慮の一部または全部の剥奪
4 身上配慮の事務について,裁判所は第三者に対する効力を有する処置も行うことができる。
第1671条
1 両親が一時的にではなく別居しており、共同で親の配慮を有しているときには、親はいずれも、自己に親の配慮または親の配慮の一部を単独で移譲するように、家庭裁判所に申し立てることができる。この申立は、以下の場合に限り認められる。
親の他方が同意しているとき。ただし、子が満14歳以上であり、反対をしている場合は、この限りではない。
共同配慮の取り止めおよび申立者への移譲が最も子の福祉にかなうと期待されるとき。
2 親が一時的にではなく別居しており、第1626a条第3項によって母が親の配慮を有しているときには、父は、自己に親の配慮または親の配慮の一部を単独で移譲するように、家庭裁判所に申し立てることができる。その申立は、以下の場合に限り認められる。
母が同意しているとき。ただし、移譲が子の福祉に反する場合、または子が満14歳以上であり、移譲に反対をしている場合には、この限りではない。
共同の配慮が考慮されず、かつ父への移譲が最も子の福祉にかなうと期待されるとき。
第1684条
1 子どもはあらゆる親と交流する権利を有する。あらゆる親は子どもとの交流を義務付けられかつその権利を有する。
2 親は、子どもと他方の親との関係を害し、または教育を妨げる行為は全て行ってはならない。前文は子どもが他の者の下にいるときに準用される。
3 家庭裁判所は交流権の範囲と交流権の行使について決定することができる。またこれを第三者に対してより詳細に規制することができる。家庭裁判所は命令により、関係者に対して前項で定められた義務の履行を促すことができる。
4 家庭裁判所は,子どもの福祉のために必要な限りにおいて、交流権または交流権に関する以前の決定の執行を制限し、または排除することができる。交流権またはその執行を相当長期間もしくは永続的に制限または排除する決定は,そうしなければ子どもの福祉が脅かされるときに限り、下されることができる。家庭裁判所はとりわけ,協力の用意のある第三者が立ち会う場合に限って交流を命ずることができる。
➁ドイツ家事事件ならびに非訟事件手続に関する手続法(FamFg)
第89条
1 人身の引渡し及び面会交流の実施を目的とする執行名義に違反する行為がされたときは、裁判所は、義務者に対して秩序金を命ずることができ、秩序金を取り立てることができない場合には、秩序拘禁を命ずることができる。秩序金が効を奏する見込みがないときは、裁判所は、秩序拘禁を命ずることができる。[秩序金又は秩序拘禁を命ずる]裁判は、決定によってする。
2 人身の引渡し又は面会交流の実施を命ずる決定には、その決定に違反した場合の効果を記載しなければならない。
3 一回の秩序金の金額は、25000ユーロを超えてはならない。拘禁の執行については、民事訴訟法第901条第2文、第904条から第906条まで、第909条、第910条及び第913条の規定を準用する。
4 義務者が、違反行為をその責めに帰することができないものとする事情を明らかにしたときは、秩序金の決定をしない。責めに帰することができないものとする事情が後に明らかにされた場合には、[秩序金の]決定は取り消される。
第90条
1 次に掲げる場合には、裁判所は、明示の執行決定により、直接強制を命ずることができる。
秩序金の決定が功を奏しなかった場合
秩序金の決定が功を奏する見込みがない場合
裁判を即時に執行することが必要不可欠である場合
2 面会交流権を行使するために子を引き渡すべき場合においては、子に対する直接強制の適用を許可してはならない。その他の場合においては、子の福祉に鑑みて正当と認められ、かつより平穏な方法によっては義務の履行強制が不可能である場合に限り、子に対する直接強制の適用を許可することができる。
3.各項目に関する意見
【意見】
父母の責務を明確化することに賛成するが、子ども視点の条文を追加すべきである。具体的には、ドイツ民法1684条の第1項、第2項をそのまま採用することを提案する。即ち、以下である。
1 子はあらゆる親と交流する権利を有する。あらゆる親は子との交流を義務付けられかつその権利を有する。
2 親は、子と他方の親との関係を害し、または教育を妨げる行為は全て行ってはならない。
また、親の責務を明確に定義すべきである。ドイツ民法1626条と1627条を合成して採用することを提案する。即ち、
「父母の責務」は、子の身上並び子の財産の管理から成る。父母は子の福祉のために親の責務を行使する。子の福祉には、原則として、父母との交流が含まれる。
【理由】
日本政府は、国際条約は国内法より優先すると国連に回答しながら、実際には国内法や国内慣習を優先している結果、「日本は国際社会から児童の権利に関する条約やハーグ条約を遵守していない」と非難されている。「子の利益」の視点で検討するのであれば、国内法を優先する現状実態を直視し、国内法に子ども視点の条文を明記するべきである。
また、父母の責務には①経済的関り、➁精神的関りの2つの要素があると述べながら、「扶養」「養育」の意味を、その言葉のニュアンスを利用して経済面に限定しようとする意図が感じられるため、責務には「原則として父母との交流が含まれる」という文言は必須である。
[参考]外務省第一回報告書審査 児童の権利委員会からの質問に対する回答
我が国の憲法第98条第2項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定しており、我が国が締結し、公布された条約等は国内法としての効力を持つ。
【意見】
親権と監護の関係が整理されていないため、たたき台の第2の1⑵は理解困難である。「親権者は必ず監護権を有し、一方の親が不在等の何らかの事情により共同監護できない状況においては、単独で監護して良い」という意味であれば賛成する。
【意見】
親権は複数の要素(権利)から構成されるが、「その要素の一部だけ父母の協議が調わない場合には、その一部だけを一方の親の単独親権とし、残りの要素は共同親権にすることができる」という意味であれば賛成する。
【意見】
たたき台第1の2⑴に反対する。
【理由】
「補足説明」にて、「親権」とは親の責務であり、婚姻関係に拘らず、父母の責務を果たすべきと主張しながら、「離婚をきっかけに当事者である父母が協議して一方の親がその責務の放棄する」ことを許可するのでは筋が通らない。離婚後も父母が責務を果たすためには、離婚後も父母が親権者でなければならない。また、子のいる離婚については、父母双方が協議のうえ離婚に合意しようと裁判所に申立を行い、許可がでた場合に限り離婚できるプロセスに変更せねばならない。目的は養育計画のチェックと子の意見聴取のためである。離婚は子どもの人生に大きな影響を与える為、子どもの意見聴取が必須である。子どもの意見を聴かない手続きは、児童の権利に関する条約第12条違反であり、ひいては憲法98条違反である。
従って、たたき台は「親の責務を全うするため、原則として、離婚しても父母双方は親権を失わない」と明記すべきである。これにより、親権者不在の状況は生まれないため、親権者を定める手続きは不要となる(一方の親の親権を剥奪したい場合にのみ、ドイツ民法第1671条と同様、手続きを行うことになる)。
【意見】
たたき台第1の2⑵に反対する。
【理由】
「裁判上の離婚の場合」が「離婚訴訟により離婚する場合」を指すのか、協議離婚制度が今後も存続する前提で「協議して市役所に離婚申請するケースを除き」を指すのか不明であるが、先述した理由により、子を持つ父母の離婚は全て裁判所を経由すべきであり、一方あるいは両方の親から親権返上あるいは剥奪の申立がなされた場合に、裁判所が父母双方又は一方を親権者と定めることにすべきである。
従って、ドイツに倣いたたき台は次のようにしなければならない。
一方あるいは両方の親から親権返上あるいは剥奪の申立がなされた場合に、裁判所は子の最善の利益を考慮して、父母双方又は一方を親権者と定めるものとする。
中間試案の「父母が合意した場合だけ離婚後共同親権を認める」に対し、たたき台の「父母が合意できない場合は裁判所が決定する」は、子の視点から見れば、良い方向に進んだといえる。何故なら、前者の場合は、例え子の最善の利益に反していようと、子どもの養育を独占したと考える親、あるいは子どもの養育を一方の親に押し付けたいと考える親は、(結果はどうであれ)合意に応じなければ、単独親権にすることができるからである。これでは構えは共同親権制度であるが、結果は現状の単独親権制度と変わらない。これは40年前にアメリカが実証済である。
しかしながら、後者にも問題がある。即ち、公正中立な第三者のチェックが働かないため、父母の力関係に不均衡がある場合、その合意形成過程が不適正なケースが生起しかねないからである。その対策として、たたき台第1の2⑺を設けているが、家庭裁判所の役割は家事紛争に対して公正中立な裁定を下すことであり、たたき台は家庭裁判所が本来の役割を放棄することを認める無責任な提案だと言えよう。更に言えば、共同親権を一方から強いられた状況設定なら、離婚成立後、容易に親権見直しができる仕組みは便利であろう。しかし、そのような便利な仕組み作れば、それを悪用して、逆のケース、即ち、共同親権にすることを一方の親に勧めて、それを条件に離婚承諾を手に入れ、離婚成立後に一方の親の親権を剥奪し自分が親権を独占する親も出てこよう。
以上述べた理由から、合意形成過程が不適正なケースを排除するため、離婚後共同親権をデフォルト(原則)として、双方あるいは一方の親が親権返上、あるいは親権剥奪を申立てた場合に、家庭裁判所が関与する仕組みでなければならない。
法律に拘らず、都合の良い状況設定だけを前提にして仕組みの評価をしてはならない。共同親権を無理強いされたケースだけを想定した制度設計はその典型である。また、家庭裁判所のマンパワー不足が懸念されるからといって、本来の役割を放棄して良いはずもない。AI活用等の正攻法で対処すべきである。
[参考]下村満子「男たちの意識革命」朝日文庫(1986)p89
ことにここ数年の間に、13の州がその家族法の中に、「夫婦が事前に合意した場合に限り」という条件付きで、「共同保護養育権」の概念を加えている。しかし、夫婦の合意が成立するのはごくまれで、そのうえ、その合意さえも弁護士が中に入ってこわしてしまい、争いにもっていくことが多いため、他州の「共同保護養育権法」は名ばかりのものになっている。
カリフォルニア州の新法が画期的なのは、仮に夫婦の一方が反対しても「共同保護養育権」は成立するからなのだ。どちらか一方の親が、子供にとって害になるほど不適な人だと裁判所が判断した場合だけ、例外となる。
【意見】
たたき台第1の2⑶に反対する。
【理由】
婚外子を婚内子と区別し、婚外子に婚内子と同じ措置を講じない行為は「差別」である。婚外子差別は、児童の権利に関する条約第2条違反であり、ひいては憲法98条違反である。婚外子差別は国連自由権規約委員会や子どもの権利委員会から善処するよう繰り返し勧告を受けており、出生前に離婚していようと、婚外子であろうと父母の共同親権とすべきである。
【意見】
たたき台第1の2⑷に反対する。
【理由】
婚外子、婚内子に拘らず、原則共同親権とする。従って、家庭裁判所の介入は、親権者を父母の一方にしたいという申立があった場合に限られる。
【意見】
賛成する。
【意見】
たたき台の第1の2⑹に反対する。
【理由】
「父母相互間の関係」が子の心身に影響を与えるのは確かであるが、父母の葛藤の程度やそれぞれの子どものパーソナリティに左右されることが心理学的に明らかになっている。個々の事案で閾値が異なる上に、父母相互の関係は裁判所が共同親権にするか否かを判断する要素の1つであり、この要素だけをわざわざ取り出す必要性はない。専門家による十分な調査をせず、裁判官が単独親権の決定を量産することを意図したたたき台に思われる。このような父母相互の関係を特に重視する条文は、子どもを独占するために共同親権を回避したい親が、一方の親を挑発して高葛藤状態を計画的に作り出す行為を促進し、家庭破壊を増加ならびに強化する恐れがある。欧米各国は離婚後の家族関係について、日本より遥かに研究が進んでおり、海外の基準を採用すれば良く、素人考えを堂々とたたき台にするのは余りにも粗雑である。パブコメで回答した親権者(監護者)選択の際の検討項目を再掲する。出典は「離婚と子どもの司法心理アセスメント(金剛出版)」である。
①親と子の関係の経過
②子の気質、年齢または発達上のニーズ
③それぞれの親の、他方の親との関係を促進する意欲や能力
④家庭、学校、地域社会への子の適応
⑤それぞれの親の別居前の養育割合
⑥子の住居の安定性と安定した環境で子が生活した期間の長さ
⑦関係者すべての心的、身体的な健康
⑧他方の親と協力し、情報を伝える親の能力
⑨子の生活に関与するそれぞれの親の能力(例えば、活動、教育)
⑩監護に対するそれぞれの親の希望
⑪説明を受けた上で、結果について子が望むこと
(明記されている場合は年齢)
⑫きょうだいや大切な人との関係
⑬ドメスティックバイオレンス(1=要素、2=推定)
⑭子の虐待/ネグレクトの証拠
⑮愛情、好意、指導を与える能力
⑯犯罪歴
⑰子のニーズを優先させる親の能力
⑱養育計画の地理的な実行可能性
⑲親の道徳的な適格性
⑳基本的なニーズをまかなう能力
(例えば、食事、住居、医療ケア、安全性)
㉑その他の関連要素
㉒それぞれの親の仕事のスケジュール
㉓親の薬物乱用の問題
㉔子の性別
【意見】
たたき台第1の2⑺は不要となる。
【理由】
子を持つ父母の離婚は家庭裁判所を必ず介して行えば、合意形成過程のチェックは不要である。繰り返しになるが、家事紛争に対し公正中立な裁定を下すために家庭裁判所が存在するのであり、司法関係者が家庭裁判所の役割を否定することは有ってはならない。
【意見】
たたき台第1の3⑴に反対する。
【理由】
法実務におけるテクニカルな手段として「親権」から「監護」を分属することは可能であるが、本来「監護」は「親権」の1要素であり、親権と同様に「父母の責務」として扱うのは当然である。だとすれば、父母がともに負担すべき責務に対し、父母が好き勝手にその分担を「定める」制度で良いはずがない。親権と同様に、相手の監護を奪う、相手に監護を押し付けるという事態が生じることは明らかであろう。ましてや、経済的な責務からの逃避を一切許さない、先取特権や法定養育費といった強制的な養育費回収制度を実現しようとするのであれば、監護の責務から逃避できないように、原則共同監護とし、父母がそれぞれの家庭の事情に応じた分担割合を協議し、裁判所の許可を得る制度設計にしなければ、正当性、一貫性を欠くことは自明であろう。そうすると、たたき台第1の3⑴は次のような記述になるであろう。
離婚後も原則共同監護である。但し、その分担割合は父母で協議し、裁判所が子の利益に有害でないと判断した場合は、その分担割合を正式に定めることができる。父母の協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が分担割合を定める。
この分担割合が0:100のケースが現状の離婚後単独親権に該当する。
[補足]監護の取決めの合意不成立時申立方式と共同監護の辞退申立方式との違い
上表はたたき台の父母の合意不成立時に裁判所に申立てする方式と「共同」を原則として共同を辞退する場合に裁判所に申し立てる方式との違いを表した表である。SNSで流れていた表現を拝借し、前者をOpt-In方式、後者をOpt-Out方式と表記した。○はそれぞれの親を表し、親権と監護の2つにおいて、○の中が白なら共同行使に賛成、黒なら共同行使に反対を意味する。▢は裁判所に申立てが必要なケースである。
Opt-In方式とOpt-Out方式の申立要否を比較し、要否がアンマッチな部分に網掛けをした。④⑬⑯の3つがアンマッチであるが、問題は⑯である。
Opt-In方式では、父母ともに共同親権を望まず、共同監護も望まないケースは、単独親権単独監護が決定することになる。現在は離婚後単独親権制度であるが、離婚後も経済的に親の責務を果たそうとする父母は養育費を支払っている(あるいは受け取っている)であろうし、精神的に親の責務を果たそうとする父母は面会交流を実施している(あるいは実施を求めている)であろう。そうすると、養育費支払や面会交流を実施していない全父母の70%が、離婚後共同親権制度になっても親権と監護を望まない⑯に集中することになる。これでは、現状と何も変わらない。SNSで共同監護に賛同する者からたたき台が「骨抜き」と評価されても仕方がないであろう。なお、共同監護に関してスカタンであろうと、養育費に関しては強制回収制度が成立することに留意する必要がある。
一方、Opt-Out方式では、父母ともに共同親権を望まず、共同監護も望まないケースでも、単独行使にするか共同行使にするかは裁判所が「決定」することになる。離婚後共同親権制度に反対する者の中には、それをもって「一律共同親権」「強制共同親権」と称する者もいるが、裁判所が理由の如何に拘らず、全ての父母に対し共同親権(監護)を命令したならその通りであるが、子の最善の利益を考慮した上で命令するのでそうはならない。寧ろ、神野礼斉「離婚と親権-ドイツ法を中心として」によれば、「第一義的には、父母が離婚後も共同親権を維持することを希望するかどうかに委ねられて」いるのである。それを裏付けるように、ドイツの共同身上監護の実施率は6%程度である。この点から「Opt-Out」というネーミングは的を射ていると思う。
なお、Opt-In方式であってもOpt-Out方式であっても結果は同じと主張する者が現れると思うが、Opt-Out方式は裁判所が主導権を握っていること、加えて、養育計画のチェックと子の意見聴取ができること、特に後者の理由により、Opt-Out方式が好ましいことは言うまでもない。
【意見】
法的監護権を「親権」、共同身上監護者を「監護の分担をする父母」、単独身上監護者を「子の監護をすべき者」と称していて、このたたき台第1の3⑵は、「単独身上監護親が居所指定を単独で行う」という意味であれば反対する。
【理由】
日本では一般に居所指定権は監護権に属すると整理されており、その理由は「子の現実の養育監護を行うのが監護者である以上、そのための居所指定権も当然監護者に属する(判例先例親族法Ⅲ親権)」という考えからであろう。しかし、「居所指定権が濫用されてはならないことは当然であり、さらに、とりわけ国際的な住居所の異動を伴う場合、居所の指定は子の福祉に関する重大な決定になるのであるから、そのような場合には、親権者にもその決定権限が留保されるものと解すべきであろう(武田昌則:離婚後の親権と監護権の分属の当否に関する考察)」。
因みに、アメリカでは「居所指定権」は「法的監護権」に属するため、実務的には非監護親の「訪問権」を侵害するケースがあるため、単独身上監護親であっても許可のない転居は許されない。
[参考]アメリカの居所指定について(山口亮子「日米親権法の比較研究」より抜粋)
離婚後に子がどちらの親と暮らすかは,離婚時に協議,調停,または審判で決定することになるが,重要なことは,別居親に無断で子がその住居から転居しないことである。子の住居が知らないうちに勝手に変わることになれば,別居親は親の固有の権利である面会交流の行使が困難になり,何より子が別居親と交流する権利が侵害されることになる。別居親が共同親権者であれば,子の監護に関する法的決定に関与できなくなる。
【意見】
賛成する。
【理由】
砕けた言い方をすれば、身上監護権のない祖父母や親戚に一時的に子どもを預けるのと同じであり、身上監護権がないから子どもに一切関与できないというのは現実的ではない。
【意見】
①原則共同親権、原則共同監護とし、例外処置を希望する父母が裁判所に申立てをする制度設計にすること、②監護の分担割合や親子交流の取決めに違反するもの対しても、先取特権と同程度のサンクションを設け、当該サンクションを実行すること、③実子誘拐事件においては、婚姻費用を当該規則の対象外とすること、以上の3点が講じられるのであれば、たたき台第3の1に賛成する。
【理由】
離婚後も原則共同親権、原則共同監護とするならば、何らかの事情により親権や監護権の全部、あるいは一部を有していない父母も親の責務から逃れることはできない。従って、経済的な責務を果たすよう、手軽な手続きで強制的に養育費を回収できる仕組みが必要なことは理解する。
私文書であっても調停や訴訟をせずに、預金や給与の差押えを可能とするなら、手続きネックが解消され、養育費の受給率は間違いなく上昇する。現在の先取特権は、①共益の費用、➁雇用関係、③葬式の費用、④日用品の供給の順序となっていることから、今回提案された先取特権は効果的であると考える。
先取特権はアメリカでは既に実施されており、このような強制力を行使し経済面における責務を確保する一方で、別居親に対する監護の妨害に対しても厳しいサンクションを用意し、監護面における責務の履行を確保することで、両者をバランスさせている。具体的には、①裁判所侮辱罪(罰金か拘禁)、➁監護者変更、③養育費の停止、④その他(親教育の再履行、運転免許停止、損害賠償)がある(出典は「日米親権法の比較研究(日本加除出版)」)。
昨今報道されている格闘家や著名スポーツ選手の事件は、「裁判所命令に従わずとも罰則はないから裁判所命令は無視していれば良い」という誤ったメッセージとなり社会に害をなしているだけでなく、裁判所の権威も失墜させている。
そこで、ドイツに倣い民法に「父母はもう一方の親の監護や親子交流を妨害してはならない」と明記するともに、先述したドイツ家事事件ならびに非訟事件手続に関する手続法(FamFg)と同様に、家事事件手続法を改正し、具体的なサンクションの方法、罰則を設けるべきである。実体法である民法で考え方を示しただけでは、「絵に描いた餅」と変わらない。
【意見】
たたき台第3の2に反対する。
【理由】
子の監護に要する費用の分担を取決めずに別居や離婚するケースは、DVや児童虐待から避難するために被害親が子連れで別居する場合に限定される。このたたき台はその例外ケースを全体に適用する意図が感じられるが、制度設計は例外を中心におかないのは法律に限らずどの業界においても常識であろう。取決め実施後に別居や離婚をするのが原則であり、その原則に沿った制度設計をすべきである。
そもそも日本以外の国では離婚には必ず裁判所が介入するため、離婚申立から離婚成立までには時間を要する。例えば、私の調べた限りでは、アメリカ:数カ月~1年以上、イギリス:4ヵ月~1年以上、ドイツ:半年~1年程度、フランス:数カ月~半年、イタリア:1年以上、カナダ:数カ月~1年程度、オーストラリア:数カ月~半年である。「相手の顔を見るのも嫌。子どもの養育計画は後回しにして直ぐにでも別れたい」という思考の親にとって、諸外国に比べ短期化で離婚が成立する日本の協議離婚は都合が良いのかもしれないが、「子の利益」を考えれば、養育計画成立後に別居や離婚をするのは当然である。
離婚に1年以上要するアメリカにおいても、DV被害者が離婚するケースでは、①警察に相談したり、保護命令や避難場所を利用して安全を確保する、➁弁護士に相談し、離婚に関する法的手続きを進める、③DVの証拠を収集する、④警察署や弁護士事務所で弁護士等の支援を受けながら安全を確保し協議を行う、⑤弁護士支援のもと裁判手続き、という流れが一般的である。DVに対しては真っ先に警察に相談し、警察の対応に問題があれば、そこを是正すべきであり、民法で手当をすることではない。それは「実子誘拐」の視点から考察すれば明らかである。
例えば、離婚成就と子の親権独占を意図した親が、一方の親に相談することもなく、子連れで家を出た場合、子を連れ出した親は一方の親と関わることなく、子の監護に関する費用を手に入れ、継続性の原則により子の親権確保においても、一方の親より有利な立場に立つことになる。
国際社会から実子誘拐への対応を求められている状況下で、実子誘拐を促進する懸念がある法律を定めてはならない。
【意見】
たたき台第3の3に賛成する。
【理由】
オーストラリアやアメリカでは「ディスカバリー制度」により、証拠開示が原則で、情報を開示しない場合は、裁判所から金銭的処罰が科される。至極当然の考え方であり、取り入れるべきだと考える。この改正は、訴訟の遅延を改善する効果があるので、当事者だけでなく、リソース不足と言われる裁判所にとっても歓迎すべきものと考える。[パブコメの意見と同じ]
【意見】
たたき台第3の4に反対する。
【理由】
執行手続きを都度実施することが負担であることは理解するが、1回で今後対象とする財源の選定や順序等を適切に設定することは現実的に困難と想定される。
【意見①】
たたき台第4の1⑴「父母の協議で定めるものとする」を「父母で協議し、裁判所が定めるものとする」に修正する。
【理由①】
子を持つ父母の離婚に際しては、父母で協議し親子交流(養育計画)を作成し、裁判所で許可を得て正式な取決めにするべきである。
【意見➁】
たたき台第4の1⑴「子の利益を最も優先して考慮しなければならないものとする」を「子の利益を最も優先し、ガイドラインに示す最少養育時間以上の交流時間を確保することを原則とし、最少養育時間を確保できない場合は裁判所で審査を行うものとする」に修正する。
【理由➁】
養育費については算定表が存在するが、親子交流には未だにガイドラインも、調停用テンプレートも存在せず、科学的根拠も合理的理由もない頻度と時間を取決めている。アメリカでは科学的根拠に基づいたガイドライン(最少養育時間)を設定し、子どもの健全な成長と効率的な取決めを図っているので、これを採用する。[パブコメの意見と同じ]
なお、「子の利益」の視点で見るなら尚更、補足説明で親子交流とされていた「写真の送付」は交流ではない。
【意見③】
たたき台第4の1⑷を追加し、アクセス権の確保を明言する。具体的な内容は以下の通り。
「子ども宛ての電話や手紙、Eメール、郵便、小包等の遮断や破棄をしてはならない。学校の記録(成績表等)、学校行事、健康情報、保険関係の情報を共有化するように努めること。学校行事への参加拒否は禁止する。」
【理由③】
親子関係を維持するためには、日常的なコミュニケーションを通し、子どもに関する情報を共有化することが必須であるため、アクセス権を保障する必要がある。[パブコメの意見と同じ]
【意見④】
ドイツ同様、以下の条文をたたき台第4の1⑸として追加すべきである。
「監護を分担する父母の一方が、監護権を濫用的に行使した場合、家庭裁判所はその親の監護権を剥奪する等の必要な処置を講じなければならない」
【理由④】
外務省ハーグ条約関連資料「子の連れ去りに関する各国法令の調査報告書 第4章 ドイツ」から親子交流妨害を処罰する理由を取り出し、そのまま転記する。
面会交流権の侵害が当罰性を有する理由:①面会交流権とは、子の身体的・精神的状態やその発達を、顔を見て相互に会話を交わすことによって継続的に確かめ、子との親族としての関係を保ち、疎遠になることを防止して相互の愛情の必要性を考慮することを可能にするものである
②ドイツ民法に基づき、配慮権のない親はいつでも再び配慮権を取得して子の更なる養育に責任を持つべき可能性があるため、配慮権が帰属しない親と子とが疎遠になることを防止し、親子の交流の継続性を保障する必要がある。
[参考]アメリカ・インディアナ州の最少養育時間(休日、長期休暇の養育時間は割愛)
ⅰ.生後4ヵ月以下:週3日、2時間/日
ⅱ.生後5~9ヵ月:週3日、3時間/日
ⅲ.生後10~12ヵ月:週3日、8時間/日×1回+3時間/日×2回
ⅳ.生後13~18カ月:週3日、10時間/日×1回+3時間/日×2回
ⅴ.生後19~36か月:週末の土曜日 or 日曜日10時間+平日3時間×1回
ⅵ.3歳以上:金曜日午後6時~日曜日午後6時(隔週)+平日4時間×1回
【意見】
たたき台第4の2⑴の「子の監護に関する審判事件において、子の心身の状態に照らして相当でないと認める事情がない場合であって、事実の調査のため必要があると認めるときは」、「促すことができる」の部分を、それぞれ「子の監護に関する申立てから3日以内に」、「命令することができる」に差し替えるのであれば賛成する。
申立て後に可及的速やか試行交流をすることにこのプロセスの意味があったのに、たたき台では現在の(同居親による子どもの洗脳が完了した後の)試行交流の内容をなぞっただけになっており、たたき台のままでは到底賛成できない。
【理由】
子どもの記憶は短いため、親子が引き離される時間は最小にしなければならない。アメリカの親子交流のガイダンスは発達心理学に基づいて、記憶期間が短い月齢18カ月までの子どもの交流は少なくとも週3日と指導している。従って、試行的親子交流も極力それに沿うよう、申立日から3日以内に実施する必要がある。たたき台のように試行的親子交流を審判時に実施する場合、片親疎外の影響を受け、正しい親子関係を評価できないが、引き離し直後の交流状況を観察すれば、子どもの脅えた行動や表情なら児童虐待があった、仲睦まじく過ごしていれば親子関係は良好であると判断できる。また、実子誘拐のケースでは、同居親は試行的親子交流を拒否するため、試行的親子交流は裁判所命令でなくてはならない。
因みに、たたき台4の2⑴は、パブコメの「調停又は審判の申立てから一定期間内に」を「審判事件」にして実施時期を半年遅らせた上に「子の心身の状態に照らして」等の条件を追加し、「決定することができる」を「促すことができる」に改悪している。実子誘拐の文脈から、この改悪の理由を想定すると、以下の3点が考えられる。①試行的親子交流の実施タイミングが誘拐実子日から遅ければ遅いほど、子どもに片親疎外の影響を与えることができる、➁片親疎外により子どもを心身的に不安定にできる。別居親を危険人物に仕立て上げれば、子どもが別居親との再会に不安を抱くようになる、③試行的親子交流が裁判所命令でないなら、同居親は断ることができるので、半年経っても子どもが別居親に愛着を抱き続けていたとしても気に掛ける必要はない。総括すると、子どもは正直で嘘を付けないため、実子誘拐者は誘拐直後の試行的親子交流を回避したいのである。
【意見】
たたき台第5の1⑴に賛成する。
【理由】
養親が養子の親権者となるのは万国共通である。
【意見】
同意する。
【理由】
養子になった子の父母なので、養親の配偶者でなくとも親権者である。
【意見】
たたき台第5の2に反対する。養子縁組は全て家庭裁判所を通さねばならない。
【理由】
養子となる者の意思も確認せず、裁判所も関与しない代諾養子縁組は、児童の権利に関する条約第12条、第21条に対して真っ向から違反している。日本国憲法で国際条約遵守を謳っている以上、家庭裁判所のリソース不足で許される問題ではない。
【意見】
たたき台第6の1に反対する。
【理由】
離婚は「親子関係」の切断ではないが、「夫婦関係」の切断であり、離婚後も元配偶者の扶養を考慮するのは合理的思考ではない。子どもが父母と同一水準の生活を送れるようにそれぞれの養育費の金額を決定するにも拘らず、「離婚後」の財産上の衡平を図ったら二重カウントとなるため。
但し、結婚を機に退職して専業主婦(夫)になったケースでは、婚姻期間中のサポートによる相手方の増収入や離婚後の就労研修費用は財産分割で考慮してしかるべきと考える。[パブコメの意見と同じ]
【意見】
たたき台第6の2に反対する。
【理由】
2年を5年にする根拠と定量的な効果が不明。期限を延ばすほど決着がつかない仕掛業務が増加し、裁判所業務の生産性低下を招くだけである。マルチタスクはシングルタスクより40%生産性が悪化することが良く知られており、裁判所のマンパワー不足を懸念しながら、定量的評価も十分にせず、間違いなく生産性を悪化させる提案を行う意図が不明である。
【意見】
たたき台第6の3に賛成する。
【理由】
オーストラリアやアメリカでは「ディスカバリー制度」により、証拠開示が原則で、情報を開示しない場合は、裁判所から金銭的処罰が科される。至極当然の考え方であり、取り入れるべきだと考える。この改正は、訴訟の遅延を改善する効果があるので、当事者だけでなく、リソース不足と言われる裁判所にとっても歓迎すべきものと考える。[パブコメの意見と同じ]
【意見】
たたき台第7の1、第7の2に賛成する。
【理由】
民法第754条は空文化しており削除すべきである。
民法第770条第1項第4号について言えば、条文作成時は意味があったのかも知れないが、現在において具体的な事由として精神病を取上げる意味が認められない。また、何らかの意味があるにしても、民法第770条第1項第5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に包含されるため、削除すべきである。
【意見】
たたき台第7の3に賛成する。
【理由】
例えば、「一方の親の監護や親子交流を妨げてはならない」と民法に条文を追加しても、家事事件手続法が民法改正に併せて妨害した際の罰則明確化をしない限り、民法改正内容が「絵に描いた餅」となるため。
4.要綱案作成に向けた今後の進め方等に関する意見
日本は国連やEU、オーストラリア等から条約違反の実子誘拐国家と非難され、実子誘拐に対する対策、並びに実子誘拐の元凶となっている離婚後の親権制度見直しを求められている。
そのような状況下、法務省は児童の権利に関する条約に違反する要綱案たたき台を「子どもの視点」で作成したと称して法制審議会に提出し、法制審議会のメンバーも条約違反を問題視せずに淡々と審議を進めている。
パブコメ時の「父母が協議して離婚後共同親権に合意した場合のみ、裁判所は当該父母の共同親権を認める」が消え、「父母の協議が調わない場合は裁判所が単独親権か共同親権かを定める」に変わったことを評価する声もある。しかし、「裁判所が親権者を父母双方とするかその一方とするかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係や父母相互間の関係を考慮する」が追加されており、繋げて読めば「協議が調わない場合は裁判所への申立を認めるが、裁判所は離婚するような父母に共同親権を認めるつもりはない」と解釈できる。要するに、父母が合意した場合のみ共同親権を許可するというパブコメ時の案と変わっていないのである。
実子誘拐は刑事事件であり、この法制審議会のスコープ外であると仄めかしているように補足説明に「民事」という文言が頻出していた。諸外国では実子誘拐は重罪とされ刑罰の対象であるが、民事上のサンクションも用意されている。ドイツに倣い、民法で「実子誘拐(一方の親の監護権侵害)」や「親子交流妨害」を禁じるとともに、家事事件手続法を改正し、民事上のサンクションを与えれば、「実子誘拐」の発生防止に十分な効果が期待できると考える。
いずれにせよ、世界の趨勢、社会制度の変化により、離婚後共同親権制度の導入は不可避である。姑息な手段を使って現行制度の存続を図るのではなく、禍根を残さないよう、真摯な態度で、より良い要綱案を作成して頂きたい。
以 上
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