『もう一人の妹』



私には二人妹がいる
一人とはすごく仲がいい
もう一人は…

5時限目のチャイムが鳴ったと
同時に、ものすごいスピードで
教科書等、ランドセルに詰める

ランドセルの留め具が
慌ててるせいで
上手く回らない

そんな事もお構いなしで
「さようなら」の号令が終了するがいなや
誰より先に教室を飛び出す

そんな私を待っているのは
白くて小さくてかわいい
私の妹

一年生、二学期
入学したばかりの小学校を転校し
まだ友達がいない私に
パパとママが連れてきてくれた大切な存在

ハァハァと荒い呼吸とともに
新築の扉の前で
首にぶら下げた鍵を
たぐり寄せる

扉の先の玄関でくつを脱いだなら
その場でランドセルを置き去りにする
それすら構っちゃいられない
なぜならリビングで
「ポポ」がキャンキャン私を呼んでるから、

「ポポ〜‼︎ただいま〜‼︎
今ご飯あげるからね〜」

ペットショップの店員さんに
教えてもらった通りに
軽量カップについた
赤い印のところまで計り
ミルクと混ぜて柔らかくした
フードををポポに差し出す

ポポのペロペロ舐める音が
最高だった

不安な慣れない学校の雰囲気を
忘れさせてくれた音

ずっと
時間の許す限り
聴いていたかった音

毎日、毎日、
ご飯をあげてたら
たちまちミルクなんて
必要なくなったよね

ポポが大きくなって
家の中がうんちで汚れるからって
ママが外に出すって言うから

その時は
ちょっと寂しかったけど

それでも勝手口をのぞけば
いつでも君の様子が観れたから
一人で留守番も安心できたし
一緒に散歩に行ったこと
首を傾げてこちらを見つめる
愛くるしい表情も
格別だった

ある日の夜突然、パパが私に
「ポポとな、もうお別れだから、
 なんか声かけてやれ、、」と言った

「え?なんで?」

「ポポは赤ちゃんがいるみたいなの」
とママが言った

「うちでは赤ちゃんまで飼えないからポポとはお別れしなきゃいけなくなっちゃったんだよ」
そんな風に言われた

「やだ、、、」
私は泣いて泣いて泣いて必死に訴えた

でも、

「わがまま言わないで、
 犬の赤ちゃんは一匹じゃないんだよ、
 何匹も生まれちゃうから、
 うちではどうしよもないんだよ」

「じゃポポはどこに行っちゃうの?」

「誰か優しい人が拾ってくれる
 ところに連れていくことにしたからね
 一緒に行くなら支度して」

私はわがまま言ったことがほとんどない
でもこの日だけは私の言葉聞いてほしかったと
ずっと思い続けている

「どうしてもダメなの?全員の面倒みれるから
どうしてもダメ?」

最後までねばった

だけど

パパもママも
考えてはくれなかった

ポポは山奥に置いてかれた
私は小学3年生
もうじきお姉ちゃんになる頃
その前に大切な妹を失った
いや失ったのではない、
見捨てたのだ

今でも後部座席のガラス越しに
走って追いかけくる
ポポの姿がにじむ

私は中学生になっても
高校生になっても
死にたい思いが拭えなかった

ポポ
ありがとう
助けてあげられなくて
ごめんなさい

あぁ
これを言えたらな

まだ許せないと

この歳になりこのことを
文字にできたということは

自分を
許すことはできなくても

もしかしたら
親に今でも許せないと
言えるようになったのかもしれない

何かが
変わりつつある

自分の殻を破ることができたら
自由になれるのかもしれない

仮に伝えたとして

交流がなくなったとしても
私はもう彼らの存在を必要としていない

それでも生きて行ける
むしろ早く解放されたいのかもしれない
自分を偽る事から…

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