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窓の外からは(掌編小説)

 事務室の窓の外からは事務室の壁が見える。デンティコは鼻から長いため息をついて、木の天板の棚の側に立ったまま、棚の天板の木目を眺めたり、凭れかかったり、棚の側で立ち尽くしたりしていた。
 三十分が経ってもデンティコはまだ木の天板の棚の側に立っていた。ときおり、事務室の中を行ったり来たりして、捺印された書類を右手の指で持ち上げたり、椅子の肘掛けを布巾で拭いたりしていた。とはいえ、デンティコはあまりにため息をつくので、それは棚の上の小さな観葉植物が白くなって、枯れてしまうほどだった。
 もう三十分が経ってもデンティコはやはり木の天板の棚の側に立っていた。しかし、不意に窓の外から藁の焦げるような、いやな臭いがして、デンティコは堪らなくなって、雉鳩がもう一声鳴く前に事務室を飛び出して行ってしまった。

 クバーシュが郵便局から帰ってくると事務室は空だった。クバーシュが注意深く辺りを見回しても、事務室にはやはり誰もいなかった。
 クバーシュは奥の部屋へ入っていって、そこで手を洗った。薄暗い水場の壁にはものすごい大きさの蛾が止まっていた。クバーシュはなんだかとても悲しい気分になって、水晶でも割れるように床に倒れ込んでしまった。窓の外ではアルギンとデンティコが掴み合いの喧嘩をしているのが見える。つまり、とくべつどうということはなかった。

【主な関連資料】

●ダニイル・ハルムス(2023)『ハルムスの世界』(増本浩子&ヴァレリー・グレチュコ 訳)白水社

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