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カメラとの出会 思い出1

それは小学校の頃、銀行員だった父がカメラを買って帰ってきた日だった。父が買ったのはペンタックスのSPOTMATIC F ブラックボディ。
当時カメラは高級品で、ましてや日本製の一眼レフは職業で使う物でなければ、お金持ちの証のような存在。
兵庫県西宮市にある社宅に住んでいたが、ペンタックスの最初の被写体は「家族写真」であった。父は新調したペンタックスに満遍の笑みを、母はやや呆れてはいたがお化粧をなおして営業的笑みを作り、兄は長男らしくキリッとした顔をしていた。私はと言うと〝あ然〟とした顔をしていた。

ペンタックスの真鍮で作られたボディはずっしりと重く、小学校低学年の私には「頭に当たれば死ぬな」と犯罪の道具程度にしか思わなかった。
父は旅行好きで、いつも家族とペンタックスが同伴していた。ファインダーを覗く父の顔はいつも眉間にシワを寄せ、力いっぱい片目を閉じていた。
そんな父を母は「なんで怒りながら写真を撮るの?」と笑っていた。

でも、そのお陰で私はその頃から沢山の写真を撮ってもらい、アルバムは友だちより厚めだった。



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