ジャンルの違うオタクが6人集まるとどうなるか、答えは「布教活動」
二泊三日の原稿合宿に行ってきた。神奈川県は足柄、桜は満開、ツバメは飛び交い都心部では見られない野鳥がぴよぴよぴ。川にはお魚さんも泳いでるよ。
宿の近くにはコンビニも飲食店もない。駅からも遠い。ペーパーゴールドに輝くオタク達には車もない。引きこり作業をするにはもってこい。
問題があるとしたらただ一つ。素泊まりだということだ。
というわけで各自食料を持参して馳せ参じた。宿の口コミには「ご飯が美味しい」と書いてあったが最近のレトルトも美味いんやで!幸いなことに宿泊客全員が使える電子レンジがあったためほぼ全員がカレーを持ってきていた。おかげで部屋はインドだった。
オタク達はもちろん間食にも手を抜かない。各々食べたいお菓子と原稿のお供に丁度いい栄養補給系お菓子を持ち寄った。なお、いの一番に無くなったのはビーフジャーキーであった。以降オタク達は肉に飢えることとなる。
1日目 消えたバス停
その日、宿の最寄り駅に集まったのは4人のオタクであった。私こと太郎23号、1次創作のオタク、FGOのオタク、ハズビンホテルのオタク。ちなみに合宿を企画してくれたのはハズビンホテルのオタクであった。ありがとうハズビンホテルのオタク。路線バスもあったが宿の送迎バスをハズビンホテルのオタクが手配してくれていたため、4人のオタクはニコニコ笑顔で宿までドナドナ無事に着いたのだ。
本当は服飾のオタクも含めた5人でドナドナされる予定であった。しかし服飾のオタクは本来休みであるはずのその日の朝に案件が爆発したため後からの合流になってしまったのだ。この知らせを聞いた4人のオタクは怖くて泣いた。
宿に到着すると野生の鹿と看板犬がお出迎えしてくれた。犬かわいいよ犬。太郎23号は3日間ずっと犬の尻を追いかけていた。
部屋は和室でとても広く、作業スペースを片付けなくても布団が6枚敷けるほどであった。窓も大きく日中は電気をつけなくても十分明るい。楽しい合宿になりそうだ。
ハズビンホテルのオタクが口を開く。
「それじゃあ服飾のオタクさんが到着するまで1次創作のオタクさんはハズビンホテルをみてください」
ハズビンホテルの何が悪いかというと普通に面白いのだ。面白くて見てしまうのだ。原稿合宿だと聞いていたのに突然課せられたアニメ視聴。個人商店すらない山中の宿、1次創作のオタクに逃げ場は無かった。1次創作のオタクは泣いた。
なお1次創作のオタクは全員が寝静まった後も1人作業をしていたので合宿期間中1番進捗が良かったというオチがつくのは最終日のことであった。
さて各々アニメを視聴したり持ち寄った菓子類を配置したり畳の上を転げ回ったり看板犬の尻を追いかけたりしている中、服飾のオタクから連絡が入った。全員が「もう到着したのか」と思った。
「宿の最寄りのバス停が無くなっていて山中歩いています」
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いやGoogleマップには存在することになっているが?なんなら宿にある周辺地図にも書いてあるしホームページにも書いてあるが?
全員訳がわからなかった。
服飾のオタクは続ける。
「路線バスに乗って宿に向かっていたが最寄りのバス停に全然到着しない。それどころかどんどん深い山の中に入っていく。乗客も自分以外居なくなった。バスの運転手さんは心配そうにチラチラとこちらを見てくる。思いきって運転手さんに声をかけたら『あ〜そのバス停無くなったんだよね』との事。親切にもどれくらい戻るか教えてくれた上にその場で降ろしてくれた。だから今Googleマップを見ながら山道を宿に向かって降りている。」
バス停無いなった?どういう事?
Googleマップを見る。ある。宿のホームページを見る。ある。経路検索アプリを見る。ある。あるあるあるあるあるあるあるあるあ、
「つい最近路線バスの会社が変わってバス停の名前が変わったらしい。新しい路線バスの会社ホームページにしかその情報が書いていない」
バス停はあった。ただし名前が変わっていた。変更が最近の事すぎてGoogleマップにも他のアプリにもなんなら宿のホームページにも反映されていなかった。土地勘のない旅行者にはどこで降りたらいいのか分かるはずもない。バス停は実質無くなっていた、本当に。
数時間後到着した服飾のオタクは疲れ切った顔をしていた。土地勘のない山中を歩いてきたのだ、疲れるに決まっている。
「犬苦手なのに宿の犬にめちゃくちゃ熱烈歓迎された」
犬苦手だったのか。先に来ていた4人のオタク全員が知らなかった新事実であった。
「あと裁縫道具全部忘れた」
先に来ていた4人のオタク達は泣いた。服飾のオタクがいったい何をしたと言うのか。
野鳥の鳴き声が妙に大きく聞こえた。
2日目 常温の巨大マシュマロ
原稿合宿2日目。この日は午後からアークナイツのオタクが合流した。前日にバス停消失事件があったため無事に到着できるか不安であったが、被害者の服飾のオタクが連絡してくれたおかげで降りるべきバス停で降りられたようだ。
アークナイツのオタクの鞄は大きかった。それもそのはず、アークナイツの設定資料集がデカかった。持参してたボンバーガールの設定資料集で勝負を挑んでみたが勝敗は一目瞭然であった。なんか2倍ぐらいデカかった。KONAMIくんへ、ボンバーガール設定資料集その2をお待ちしています。
そしてアークナイツのオタクの巨大鞄からは更に2匹のうさぎのぬいぐるみがひょっこり出てきた。
服飾のオタク、食いつく。
「このぬいぐるみ、フードも外せるんですよ」
服飾のオタク、アプリをインストールする。
「設定資料集がありますから先に好みの子を探すのもいいですよ」
服飾のオタク、設定資料集を読む。
ジャンルの違うオタクが集まるとどうなるか。答えは布教。
かくして服飾のオタクはアークナイツをする服飾のオタクへと進化を遂げたのであった。
ちなみにアークナイツのオタクは「途中からだと内容がわからない可能性がある」という理由で宿泊中のハズビンホテル視聴義務を逃れる事ができた。よかったよかった、アニメは時間のある時にゆっくり見ていただきたい。
各々が原稿をしたりアプリを楽しんだりして数時間が経った。外は既に暗くなっていた。皆が少し疲れてきた頃、FGOのオタクが大きなマシュマロとクッキーを出して言う。
「宿のバーベキュー場近くで焚き火をするみたいなんで皆でマシュマロ焼いて食べましょう」
あまりにも魅力的な誘いであった。オタクは焼いたマシュマロをミョーンするのに弱い。なんかアニメとか漫画で焼いたマシュマロをミョーンする描写があったりするのでオタクは焼きマシュマロに弱い。
かくして6人のオタクはマシュマロを焼きに宿の外へと繰り出したのであった。
外は他の宿泊客の焼いた肉の匂いが漂っていた。普通の肉の匂いではない。明らかにお高めの良い牛肉の甘い脂の匂いであった。初日の夕方にビーフジャーキーを平らげた以降肉にありついていないアークナイツのオタクを除いた5人のオタクはその芳醇な香りに正気を失った。
「このでっかいマシュマロと肉、交換してやってもいいんだけどな…」
「焼いたクッキー挟む用のでっかいクッキーもあるからレート的には肉4枚」
「肉肉肉肉肉肉肉肉」
「お魚も食べたい」
「さぞ旨かろうな〜焚き火で焼いたマシュマロ、さぞ旨かろうな〜」
皆が持参したレトルトカレーには肉が入っていた。入っていたが、もはやこの匂いの前には肉とは認められなかった。恋しやお肉。ついでに新鮮な生野菜も食べたい。だが叶わぬ夢である。我々の心の拠り所は焚き火で焼いたマシュマロだけであった。
肉の匂いにうつつを抜かしつつ焚き火会場に到着。
焚き火、遠〜〜〜〜〜〜!!!
安全配慮型焚き火であった。
1mぐらい離れているのでもちろんマシュマロは届かない。腕を伸ばしても割り箸に刺しても届かない。落ちている枝も長さが足りない。焚き火のパチパチという音と他の宿泊客の声が夜闇に消えていく。
とりあえずマシュマロを食べよう。焚き火を見ながら。全員FGOのオタクからクソデカマシュマロを貰い薪焼ける匂いと肉の脂の匂いの混じった空気を吸いながらマシュマロを食べた。久しぶりに食べたマシュマロは美味しかった。1人ではマシュマロを買って食べることはないので懐かしい気持ちになった。マシュマロは友情の証なんだなぁ…。
「マシュマロって卵白と砂糖、コーンスターチにゼラチンでできているけれども、原初ははマシュマロウっていう植物のエキスから作っていたらしいよ」
知らなかった。いつかその原初のマシュマロも食べてみたいものだ。
近くにいた宿泊客の少年がこちらを見て叫ぶ。
「あの人たちマシュマロ焼いてるよ〜!」
純粋すぎると見えないものが見えるんだなぁとしみじみした。そんな夜。
3日目 肉食って帰るぞ
3日目は帰宅のみ。気持ちよく朝風呂に入り宿の近隣を散歩する。1日目に見つけた鹿の痕跡がかなり薄れていたのできっと初日以外には宿の近くには来ていないのだろうと思った。
帰り支度をし宿が用意してくれたシャトルバスに6人乗り込む。電車に乗ったらどこかで途中下車をしてお肉を食べようと誰かが提案した。服飾のオタクが答える。「夜から仕事だから先に帰るね」他の5人のオタク達は皆泣いた。服飾のオタクの職場環境が良くなりますように。
残った5人のオタク達は途中下車して肉を食べた。久々の肉はとても美味しかったが太郎23号の腹は驚いてしまった。それは今なお続いている。
まとめ
・事前に周囲の環境を調べてちゃんと食事を付けよう
・非常食に肉と魚を入れておこう
・布教は優しく行おう
(終)
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