「手毬唄じゃないんだから」第3話

【3-1】@ホテルロビー

片桐、岩橋が椅子に座っている
その傍に茶子が立っている

駆け込んできた警官が言い放つ

警官「いえ…葛西先生が…遺体で発見されました…」

茶子の唖然とした顔
他の面々も強く動揺している

岩橋、驚いて立ち上がる

岩橋「今、なんて…?」
警官「葛西先生が、遺体で……」

茶子、遮って

茶子「いやいやいや待ってください…!だって先生は、別荘を見に行くって…!」
片桐「茶子さん落ち着いて」
茶子「別荘にいたんじゃないんですか!?」
警官「4、50分前に一度お越しになって、すぐに帰られたようでしたが…」
岩橋「なら、どこで亡くなっていたんですか?」
警官「このホテルの裏手、別荘に向かう方向です」

茶子、言葉が出ない

岩橋「知念さんすみません、事情聴取は一度仕切り直させてください」
知念「もちろんです。部屋に戻った方がいいですか?」
片桐「いや、動かないで欲しい。2人は手分けして他の容疑者の部屋を確認してくれ」
岩橋・警官「はい!」

岩橋と警官走り去る
片桐、呆然としている茶子を一瞥して

片桐「少し彼女をお願いできますか?」
知念「あ、はい…!」

少しロビーの端に寄る片桐
電話をかける
茶子の様子にフォーカスされる
異常に汗をかく茶子のモノローグ

茶子M「なんで先生が殺されるの?」「いや、殺されたなんて誰も言ってない」「でも1人で死ぬわけないし」「そうだ締め切りどうしよう」「こんなことなら早く原稿を…」

途中から呼びかけられている

岩橋「…さん」「…こさん」「茶子さん…!」「茶子さん!!」

はっと気付く茶子
顔を上げると容疑者を含め勢揃い

いつの間にかソファーに座っていた茶子
隣には岩橋
南野、畑が椅子に、知念、関谷、寺本、片桐は立っている

岩橋「…大丈夫ですか…?」
茶子「あ……ごめんなさい…」
片桐「こちらこそ、警察がそばにいながらこのようなことになって、謝罪の言葉もない」
岩橋「申し訳ありません」

片桐、小さく頭を下げる
岩橋、深く頭を下げる

茶子「…いえ…すみません…」
片桐「現時点では、辻川氏殺害の犯人として正体を突き止められたくない人物による第二の犯行という線で現場の調べを進めている」
畑「でも今度こそ、ここにいる人以外の犯行もありえますよね」
片桐「それでも、やはりここにいる者が一番の容疑者だ」
寺本「ちっ…余計な奴を連れてくるからだよ」
知念「おいやめとけ、亡くなってるんだぞ。さっきまで生きていた人が」
寺本「それは辻川も同じだろ」
関谷「もちろんだよ。どちらも大変なことだ」

寺本、関谷と知念を指して。

寺本「女の前でかっこつけたいんだかなんだか知らないけど、変に落ち着いてるの、きもいぜ。お前らがやったんじゃねえのか?」
畑「やめて。みんな同じようにショックに決まってるでしょ」
寺本「どうだかな」

ピリつく一同
小さな声で、なんとか喋り出す茶子

茶子「あの…なにか手掛かりとか、証拠は出ていないんでしょうか…?」
岩橋「さっき捜査を始めたところなので、決定的なものはまだ…。」
南野「どうやって…その…殺されたのかとか、聞いても大丈夫ですか?」

片桐、茶子の顔を伺う

茶子「私も、知りたいです」
片桐「岩橋くん」
岩橋「はい。葛西先生は、何者かに首を絞められて亡くなっていました」
畑「指紋とかなんかそういうのは…?」
岩橋「現状は見つかっていません。抵抗していれば、被害者の爪から犯人の皮膚片が見つかったりもするんですが、寒さのせいか葛西先生はだいぶ厚手の手袋をしていて、それも見つかっていません」
片桐「犯人も厚着や手袋をしたりしていた可能性が高い。そういった証拠が出てくるにしても時間がかかるだろう」
茶子「そうですか…」
片桐「ただ」

片桐、注目を集めて続ける

片桐「犯行可能な時間にホテルを出入りした者、もしくは犯行現場を通ることができた者がこの中にいる。岩橋くん」
岩橋「ホテルを出入りしたのは、葛西先生。それと、畑さん、茶子さん以外の全員です」

該当する人物、それぞれの表情

岩橋「そして、別荘から遅れて戻った警部と僕も犯行現場を通ることが可能でした」

片桐、表情を変えない

片桐「首を絞めるという物理的な手段で、注目すべき時間は1時間しかない。犯行時間を誤魔化しているか、遠隔で首を締めることができない限り、該当しない2人は今回の容疑からは外れることになる」

畑、茶子の表情

寺本「たった2人外れただけかよ」
畑「いい加減つっかかるのやめなってば」
寺本「おー、容疑者じゃない奴は余裕だな」
茶子「やめてください…。お願いします」

寺本「チッ」とそっぽを向く

片桐「それぞれ、ホテルを出入りした理由を伺いたい」
岩橋「では、知念さん」

知念、南野と目配せしてから

知念「僕はふみかとコンビニに行きました」
南野「あ…私が何か甘い物を買いに行きたいと言って、環くんについてきてもらいました」
岩橋「警部」
片桐「うん。確かにホテル入り口の防犯カメラには2人で出入りするところが映っている。だが君達2人が行ったコンビニはここから徒歩3分もかからないのに再び防犯カメラに映ったのは20分後だ。その間ずっとコンビニに?」
知念「ああいや、コンビニに行く前に少し外の空気を吸いながら話をしました」
南野「ごめんなさい、それも私がお願いしました…」
寺本「お熱いねえ」
関谷「…」

寺本が茶化す脇で、関谷の何かをこらえる表情が映る

片桐「なるほど。では君は」

片桐、茶化す寺本にすかさず

岩橋「ホテルを出た目的は?」
寺本「…煙草吸いに行った。このホテル全館禁煙なんだよ」
片桐「周辺も禁煙ではあるが、どの辺りで?」
寺本「細かいこと言うなよ。ホテルの横っ面あたりだよ」
岩橋「別荘に続く道のほうですか?」
寺本「そんな奥には行ってないけど、方向的にはそうだったかな」

茶子、寺本を見る

寺本「なんだよ」
岩橋「では関谷さんは」
関谷「僕は一度テントに戻りました」
寺本「おい別荘のほう行ったってよ」
岩橋「それはどうしてですか?」
関谷「携帯を落としてしまったみたいで探しに戻りました。見つかったので、戻りながらバイト先に電話しました」
岩橋「それはバイト先に確認すれば裏は取れそうですね」
茶子「戻ってくるとき、先生は見かけませんでしたか…?」
関谷「見てないです…。すみません」
茶子「そうですか」

再び警官が入ってくる

警官「警部」
片桐「進展が?」
警官「遺体のそばの燃やされた紙束は、小説の原稿であることが分かりました」

茶子、驚く

茶子「え…!?」

カバンを探したが出てこなかったシーンが脳裏をよぎる(回想)

岩橋「それって…」
茶子「さっきから原稿が見つからなかったんです。先生が持って行っちゃってたのかな…」
片桐「それにしても燃やしたのは犯人だろう」
茶子「どうしてそんなこと…」
畑「ヒントになっちゃうからじゃないですか…?」

一同、畑に注目

畑「いやだって、攻略本みたいなものじゃないですかそれって。犯人は処分したいはずですよね」
茶子「そっか…。原稿を守れないなんて編集者失格ですね私…」
岩橋「そんなこと…持ち出したのは先生なんでしょうから」
片桐「他には?」
警官「あとは、現場付近から煙草の吸殻が見つかりました。今鑑識に回しています」
片桐「煙草ね」

片桐、寺本を見る
一同も寺本に注目

寺本「なんだよ」
岩橋「寺本さんは煙草を吸いに出たんですよね」
寺本「そんなに奥には行ってないって言ったろ…!」
関谷「でも、喫煙者の寺本ならライターを持ち歩いてても不自然じゃない」

寺本、腹を立てて立ち上がる

寺本「は?俺がやったって言いてえのかよ」
知念「待てよ。そうは言ってないだろ」
寺本「そう言ってるようなもんだろうが」
片桐「どちらにせよ鑑識待ちだ。全員、DNA採取に協力してほしい」
岩橋「遅い時間まですみません。一度ここで待機でお願いします」
畑「分かりました…」

片桐「ちょっといいかな」

片桐、岩橋とともに茶子を連れて、他の面々から少し離れる

岩橋「大丈夫ですか…?」
茶子「大丈夫、ではないですけど…」
片桐「アリバイで言えば我々も容疑者だ。これから私と岩橋くんが捜査を進められなくなる可能性もある」
茶子「…そうですよね」
片桐「改めて、申し訳ない」
茶子「いえ…」
片桐「ところで、先生から預かっていた原稿はいつ預かったものなんだ?」
茶子「あぁ…あれは3週間前くらいだったと思います」
片桐「そうか。実は私も先生に原稿を見せてもらったんだ」
茶子「先生に…?」
片桐「1ヶ月ほど前、捜査に協力してもらっているお礼をしたいと言ったら、原稿を読んで感想を聞かせてくれと」
茶子「あんまり外の人には見せるものじゃないんですけどね…」
片桐「時期的にも茶子さんが預かっていたものより前の稿らしい。メールでデータをもらったとき、茶子さんにも送ったと聞いていたが…」

茶子のモノローグ

茶子M「メールで…原稿…」

茶子「あ…」
片桐「やはり。メールを遡れば茶子さんも見ることができるだろう。慰めにはならないかもしれないが、先生の原稿は完全に失われたわけではない」
岩橋「よかったですね。よかったっていうのは変かもしれませんが…」

茶子、じわっと涙が目に溜まる

片桐「ついでに言えば。もし原稿を燃やしたのが犯人だとして、その人物は原稿がまだ残っていることを知らないだろうな。不完全とはいえ私も茶子さんも原稿を持っている」
茶子「え…?」
片桐「どうだろう。その原稿を使って、葛西先生の代役を務めるというのは」
岩橋「警部…!?」
片桐「結末を見ない、謎を謎のままにするというのは、ミステリー作家にも、その担当編集者にも辛かろう」
茶子「いや…」
片桐「先生の原稿が君を、我々を導き、そしてその原稿を君が完成させるんだ。先生のために」
茶子「私が…先生のために…」
片桐「力を貸して欲しい。空席になってしまった、」

片桐の強い眼差し
何を考えているか測り知れない

片桐「探偵役を担って欲しい」

セリフにかぶせて茶子の顔
本当の主人公としての顔


つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?