「手毬唄じゃないんだから」第2話

【2-1】@別荘横、仮設テント

大きな長方形の机に別荘の平面図等が置かれている
片桐と岩橋が立っていて、その他は座っている

不敵な笑みの葛西

葛西「その密室トリックは簡単だよ」
茶子「なにか分かったんですか…!?先生」
葛西「茶子ちゃんさぁ。私の原稿読んだんだよね?」
茶子「読んだんですけどしばらく前なのであんまり覚えてなくて…」
葛西「はぁ~悲しいなぁ。そんで警部」
片桐「なにか」
葛西「私の小説と似てるなんて言うんだから、この密室トリック分かってるんでしょ?」
片桐「どうだろうね」

葛西、片桐に向かってあっかんべえ

茶子「それで、どういうトリックなんですか?」
葛西「えぇ~読んでれば分かるはずなのになぁ~。改めて教えるのやだなぁ~」
茶子「ごめんなさいってば!」
葛西「じゃあ思い出してみてよ」

葛西、岩橋のほうを振り向いて

葛西「岩橋くん」
岩橋「はい?」
葛西「密室について説明したげてよ」
岩橋「はぁ」

明からさまに嫌な顔の岩橋

片桐「岩橋くん。説明してくれ」

やれやれとため息をついて岩橋

岩橋「分かりました」

小さく咳払いをしてから説明を始める

岩橋「辻川さんの部屋は2階。扉は内開きで、その扉は辻川さんの遺体で塞がっていました」
茶子「それじゃあ、犯人が部屋の中で辻川さんを殺害したとしても、扉がその状態のままでは出ることができないですね…」
畑「なら…部屋の外で、その…殺したんじゃ…」
茶子「なるほど…!外で殺害して……ん?」

茶子、すっかり行き詰まってしまった顔

葛西「思い出してきたね茶子ちゃん」
茶子「先生、外で殺害したとしたら、その後どうやって遺体を運んだんだんでしょう…?」
岩橋「思い出してないですね」
葛西「もぉ~~」
茶子「部屋の中で殺害したんだとしたら、部屋を出るには辻川さんのご遺体を扉の前に放置することはできませんし、外で殺害したんだとしても、遺体を運び込んだ後に結局同じ状態に陥ってしまいます」
岩崎「ということで、密室です」
葛西「思い出した?」
茶子「ごめんなさい…」
葛西「悲しいなぁ」

茶子、カバンから原稿を取り出しながら

茶子「読み直します」
葛西「いいよいいよ…!てか持ってきてるの!?」
茶子「当然です!だってこの小説が原因で先生は容疑者なんですよ?」
葛西「そんなんだったら読んでよちゃんと」
寺本「いいから早くトリックを教えてくださいよ、センセイ」
畑「ちょっと…!」
葛西「…いいよ。茶子ちゃんも思い出してくれないし」

葛西、立ち上がって

葛西「さっきも言ったけど、この密室のトリックは別に難しいことじゃない」
岩橋「もったいぶらないでくださいよ」
葛西「被害者の遺体は、欠損したりしてないよね?」
岩橋「え、はい。外傷はありますが欠損と言えるようなものは特には」
葛西「扉を邪魔する位置に、遺体以外のものは?」
知念「ありませんでした」

葛西、ふむふむと頷いて

葛西「うん。なら扉は、犯人が部屋を出た後、被害者が塞いだんだ」
寺本「は?」
茶子「被害者自身が密室を作る手助けをしたっていうんですか?」
畑「どうして辻川がそんなこと…?」
葛西「君は畑さんだね」
畑「は、はい」
葛西「もし自分が、被害者と同じ立場だったらどうする?」
畑「同じ…?」
葛西「自分が泊まっていた部屋でなんらかの被害を受けて、死にかねない状態だったら」
畑「…助けを呼びます」
葛西「呼べなかったとしたら?」
畑「え…?」
葛西「今回の被害者は、助けを呼べなかった。そうでしょ?」
岩橋「はい。辻川さんは肋骨が折れて右肺に刺さっていました。呼吸困難な状態で、大きな声は出せなかったはずです」
茶子「そもそも、助けを呼べたら泊まっていた皆さんが気付けたはずですもんね。」
葛西「泊まっていた皆さんが犯人じゃなければね。」

一同、嫌な顔

畑「助けを呼べないなら…なんとか部屋を出て…」
葛西「うん。部屋を出るためには、扉に近付くしかないよね」

茶子、はっと何かに気付いた様子

茶子「それで扉の前で絶命された…ってことですか?」
葛西「あくまでアイデアの1つだけどね」
岩橋「そんな都合よく被害者から動いてくれますかね」
葛西「そもそもの犯行がどれくらい計画的だったかにもよるけど、他にもパターンはあるよ。助けを求めようとする人もいれば、反撃する人もいる。犯人を追いかけて扉に近付いたのかもしれない」
茶子「なるほど…」
葛西「犯人が知り合いだったら、なおさら追いかけたくもなるかもね」
寺本「センセイも容疑者なんでしょ。それ忘れないでくださいよ」

葛西、にこっとして

葛西「容疑者同士、よろしくね」

寺本、そっぽを向く。

葛西「ぶっちゃけまだ事件の詳細聞いてないから決め付けてかかってるとこあるけど、でも私の小説と似てるって言うんだからそういうことでしょ?」

岩橋、片桐の様子を伺う
片桐、目をそらす
コメディ的カット

岩橋「とりあえず、分かっている範囲の情報とは矛盾しません」
畑「じゃあ、その方法で密室を作れた人が犯人ってことですか?」
片桐「そう。つまり現状は全員だ」
畑「私も…?」
片桐「別荘にいた人物は物理的に全員犯行可能だからね」
茶子「でも、トリックに見当はついたんですし、ひとまずは進展ですよね?」

「やれやれ悲しいよ」というようにため息をつく葛西。

葛西「茶子ちゃんは本当に私の担当編集さんやってたの?」
茶子「えっ…!?やってましたよ!やってますよ!」
岩橋「なんの話ですか?」
葛西「こういう事件において、謎を呼ぶ展開になったとき、確かに『どうやって?』が、つまりトリックが解決に最も重要のように思えるけど」
岩橋「実際そうでしょう。犯行手段に謎があるんだから、そこを解き明かさないと」
葛西「もちろん重要ではある。でもじゃあそもそも、犯人はどうしてトリックなんて仕掛けるんだろう」
岩橋「それは、事件を解決させないためでは…?」
茶子「どうやったのか手段を分からなくさせるためですか…?」
葛西「というよりは、誰がやったのかを分からなくしたいんじゃないかな」
関谷「『どうやって』やったのかじゃなく『誰が』やったのかを…?」
葛西「実際、手段に見当がついたところで、犯人は浮かび上がったかい?」
関谷「…いいえ。」
葛西「トリックと ”謎の焦点” をズラす。これこそミステリーの一丁目一番地なんだよ」
南野「トリックと、謎の焦点…?」
葛西「トリックは手段を隠す。でも犯人が本当に隠したいのは正体だ」
茶子「なるほど…」
葛西「もっと言えば、トリックに含まれない部分全てが、むしろ真相に繋がる大事な要素だったりする」
岩橋「手段を隠しているならむしろ『誰が』が重要ってことですか」
葛西「それだけじゃない。『なぜ』も重要だよ。『なぜ』と『誰が』は切っても切れない。」
関谷「誰でも作ることが出来た密室…。だからこそ今回はなおさら『なぜ』『誰が』やったのかが肝だってことですね」
葛西「おぉ。君ちょっと話分かるね」
茶子「ここまで聞けば私だって分かりますよ…!」
葛西「ふーん」

茶子、ぐぬぬという表情

葛西「だからまずは、彼らのことを知りたい。どんな人たちで、どんな理由がありえそうかが分からないとプロットが組めない」
茶子「それは先生の小説が…」

葛西、茶子を遮って続ける

葛西「本当に私の小説と似ているのかも現状分からないと私は思ってるよ」

片桐、分かったというように小さく頷いてから

片桐「では1人ずつ容疑者の事情聴取ということにしよう」
寺本「まさかそのセンセイに事情聴取されるんじゃないよな?」
片桐「…葛西先生も同席してもらう」
寺本「おいおい…」
片桐「さっそくだが聴取を受ける者以外は一度出てもらわないと…」

関谷、遮って

関谷「あの…」
片桐「何か?」
関谷「それってホテルでは出来ませんか?」
岩橋「ここだと問題が?」
関谷「いや、ホテルなら聴取を受けてない人は部屋に戻れますし」
南野「あと、ちょっと寒いかもしれません…」

岩橋、周りを見回す
確かに寒そうな面々

岩橋「確かにそうかもしれませんね…。どうでしょう警部」
片桐「…ではホテルのロビーを借りて1人ずつ伺うことにしよう。こちらも現場の捜査状況の共有と整理をしておく。1時間後にロビーに来てくれ」
岩橋「最初は知念さん、お願いします。終わり次第次の方を呼びに伺いますので必ずご自分のお部屋でお待ち下さい」


【2-2】@ホテルロビー

説明表記[ーー1時間後]
茶子、ソファーに小さく座っている
腕時計を見て

茶子「1時間後って言ってたよね…」

ロビー全景
茶子だけが小さく映る「ポツン…」

茶子「誰も来ない…」

一瞬、回想
コメディタッチの葛西
茶子を置いてホテルの部屋を飛び出そうとする様子

回想・葛西「ちょっと別荘もっかい見てくるねー!」
回想・茶子「あっちょっと…!!」

回想終わり

茶子「先生も戻ってこないし…」

人の出入りがある方を向いて

茶子「なんで警部たちも来ないの…」

茶子、思い出したようにカバンを漁って

茶子「今のうちに原稿読んでおこうかな…。あれ…?」

原稿が見つからない

茶子「…ない…あれ…!?」

ガサゴソとカバンを漁る茶子
そこに片桐、岩橋、知念がやってくる

片桐「お待たせして申し訳ない」

茶子、立ち上がって。

茶子「あ、全然…!」
岩橋「一応、知念さんをお迎えに上がってました」

茶子以外、着席して

茶子「なるほど。ちなみに…葛西先生は一緒だったりしませんか…?」
岩橋「いえ。てっきりご一緒かと」
茶子「もうあの人…ほんっとすいません…!」
片桐「締め切り以外の時間にルーズなイメージはなかったんだが…」

茶子、顔を覆って

茶子「締め切りも守って…!」

そこに、1人の警官が駆け込んでくる

警官「警部!」
片桐「あぁ、君、葛西先生を見かけなかったかな」

息を切らしている警官

警官「それがその葛西先生のことで…」
茶子「何かご迷惑おかけしましたか…!?」
警官「いえ…葛西先生が…遺体で発見されました…」

セリフとかぶせて茶子の唖然とする顔


第3話に続く

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