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青い

 あ、青い 。
「はじめまして!転校生の天生 月子(あまう つきこ)です!」
梅雨晴れの日。らんらんとした彼女の声は、ずうっと延長していた五月病を「そろそろ延長不可です。」と宣告するためのように、月に一度の土曜授業のホームルームの朝にやってきた。
それはカレンダーの土曜の色が青だからだとか、彼女のリュックの色が青色だったからとかでは無い。
(全く関係ないわけではないが)
字が雑なことで定評のある担任が縦に書いた 天生月子 という字は苗字と名前の距離が近く、目の悪い僕には
天青子 としか読めなかったからだ。
「てんせいじゃないです!あまうです!」と付け足されてから初めて彼女は 天生月子 としてこのクラスに生を受け、天青子 さんは僅か数分にしてこのクラスから転校してしまった。

 いつかのこと、青信号を緑と呼ぶか青と呼ぶかで議論しながら、何人かに囲まれて下校していた彼女を見つけた日のこと。
「えー!私は青信号の緑色だけは青と呼んでいいと思うの!」
と、ころころ表情を変えながら話していたのを見かけた。
僕もそう思うな、なんて思いながらすれ違うと彼女と目が合った。合ってしまった。
「あ!葵くん!また明日!」
なんて笑顔で手を振られるものだから、ぐらりと視界が揺れた。
ああ僕はやっぱり彼女は青い、と思った。

またその時、彼女も あおい と思った。

この町は色々な あおい が交差している。

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