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シルビア日記13マニラ漫遊③

 僕は順応が早い。大体そこの土地に慣れるのに2日もあれば十分だ。ということで3日目は朝から動き回る。テレビ画面から流れる英語のニュースも全て理解できる。気になる。
 ホテルの裏手の方は、かなりなアンダーグランドな地域だ。一人で歩いていると常に緊張感が走る。僕の猫背も矯正される勢いだ。朝なのに暗い路地、異様な匂い。その原因を探ると壁に向かって人が入れ替わり立ち小便をする。みんなで日常的にしていると街がこんな匂いなるんだ。僕は肯定派だったがこれからは立ち小便否定派に回ることにした。
 しかしそこの地域で働いている人は今日を生きるための大きな呼吸をしている。なんだかそれが心地よい。絶対に衛生的ではない場所で、衛生管理などない店のものを朝から美味しそうに食べている。本来持っている人間の免疫機能をフル活用している。日本人の免疫機能は低下している。そういうことを肌で感じた。お年寄りも、子供もみんな逞しく生きている。現地の人に言わせればケセラセラだ。
 その日の講習も終えて、現地の人たちの歓待に預かった。とても嬉しく、ありがたいことなのだが、私は早く買い物をしたくて抜け出したかったが。終わったのが21時を回る時だった。件のショッピングモールは閉店時間まで残り1時間、2回目だがまだ迷路に感じる。警察が犯人を追い詰める勢いで各店舗を回ったが、結局は大した買い物もできずにトゥクトゥクでホテルに戻った。寝るのは勿体無かったが1日中動き回ったのでいつの間にか朝を迎えていた。
 朝食はコーヒーとフルーツだけにして帰り支度をした。スーツケースの半分は空で来たのが、満杯になっていた。正気ではない、旅行者が行かないお店の買い物がほとんどだった。迎えが来てフィリピンを後にした。バラックの家を感慨深く見て、まだ生まれていなかった日本の高度経済成長はこんな感じだったのだろうかと思いを巡らせた。
行きのフライトは満喫できたので帰りも期待が膨らんだが、最後に搭乗した僕は、自分の座席の隣に大柄の男性が座っているのが見えた。もう酔った。
 離陸してCAに全てのサービスをキャンセルして寝るので声をかけないでくれと念を押しておいた。6時間近くのフライトも終盤を迎えた時に飛行機が大きく縦に揺れた。その衝撃は大きく、機内には絶叫が響いた。関東地方には雪を降らせる積乱雲が覆い被さっていて、その中でこの機体が持つのかヒヤヒヤの20分。大きな揺れで本気で酔ってしまったがなんとか成田に降り立ち、集団から解放され、走って京成電車に飛び乗った。窓から見る夜の雪景色は日本に帰ってきたこと、現実の世界に戻ったことを実感させてくれた。
 それも束の間、次の駅の手前で電車が止まった。いやいやそこまで積もってないだろうとか、窓開かねーのかよ、とか様々なツッコミを心で叫んでいるうちに1時間30分が経って、満員に近い車内は騒然とした空気になっていた。結局成田空港に引き返した。JRに乗って家路に着いたが成田到着から7時間が過ぎていた。疲労困憊で雪に弱い首都圏を恨んだ。
そして僕は南国フィリピンを心から愛した。

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