華胥の幽夢

焼けつくような
息の詰まるような
目覚めの悪さ、喉の渇き

「夢なら醒めないでくれ」
ありきたりなフレーズも憎いほど
「夢であってくれてよかった」
心からそう思った午前3時

冷蔵庫のお茶を一口含む
それだけで少し現実を取り戻す
この動悸さえ心地よいほどに
夢の中というのは残酷に塗れた世界だった

僕は夢の中で祖母を殺した

それも、刃物で刺したなんて
慈悲的なやり方とは程遠かった

動けないように弱らせた祖母に
灯油をかけて焼き殺したのだ

思い出しながら書いている今
少しの吐き気と罪悪感が押し寄せる

夢でよかった
なんて感想はありきたりだが
心底そう思った、よかった

夢でよかったが
飛び起きた午前3時の時点では
まだ確証が持てていなかった

本当に夢だったのか?
朝になったら、なってしまったら
僕は殺人犯として紙面に載るのではないか

祖母は本当に生きているのか?
それからは不安と焦燥が勝り
当たり前であるが寝つけなかった

「おはよう」

その一言でどれだけ安堵したか
その一言でどれだけ救われたか

祖母には夢の話はしていない
例え夢とはいえ、できるわけがなかった

朝ご飯を食べるその姿が見れただけで
午前3時からの僕の夢殺人は終わりを告げた

人を殺める夢

何かを殺めた夢というのを見たのは初めてだった
あろうことか、その初めての夢での殺人が祖母とは

泣きそうになった、泣いてもよかったかもしれない

でも僕は殺人犯かもしれない、夢であったと確証が持てるまでは、僕はただの殺人犯なのだ

夢でよかった
何回でも言ってやる、本当に安心したんだ
夢であったとはいえ
僕は殺人犯になってしまっていたのだ

たかが夢の話かもしれないけど
これは体験してみないと分からない
たかが夢の話、されど夢の話

胡蝶の夢
貴方はどちらの貴方ですか?
私はちゃんと「ここ」にいますか?

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