見出し画像

ショートショート『おかあさんと呼ばれて』

 たとえば昔、休日の朝、居間で布団に包まっている母の姿を横目に、部屋の隅にずらされたローテーブルで、台所で見繕ってきた惣菜やパン等を食べている時なんかは、誰より早く起きて身支度をし朝食をセットして起こしてくれる母親像を思い浮かべてみたりした。
 たとえば昔、放課後、幼馴染の家に上がり、おばちゃんが何の気負いもなく日常の中に私を置いてくれる懐の深さに憧れてみたりした。

 それでも今、朝、私は娘たちと同時刻に起き(休日誰より遅く起きる日もあり)、夫がいれば朝食はお任せし、いなければ台所で見繕った食材をダイニングテーブルに出しているのである。
 それでも今、放課後、娘の友達が家に訪ねてきても部屋が汚いとか体調が悪いとか言って、私の日常には立ち入ることをさせないのである。

 私は私で、私の母は私の母で、おばちゃんはおばちゃんで。
 皆「おかあさん」と呼ばれる存在で、別の名とそれぞれの本質をもつ生き物で。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?