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午後のロードショー「ジャッカルの日」

公開 1973年
監督 フレデリック・フォーサイス
出演 エドワード・フォックス ミシェル・ロンズデール

1973年に制作されたこの映画は、1997年にアメリカでブルース・ウィリス、リチャード・ギアなどのハリウッドスターを大挙して出演させリメイクされたハリウッド版をはるかにしのぐ傑作と言えるのではないでしょうか。
派手な見せ場はほとんど無いものの、ドキュメンタリーのように淡々と「ジャッカル」とそれを追う刑事の攻防を見せる展開は息が詰まるほどの緊張感があります。

フランス大統領シャルル・ドゴール暗殺を企てる秘密軍事組織(OAS)は、組織外のプロの暗殺者を雇うことを決め、目的遂行に最高の人物としてある男を選ぶ。コードネームは「ジャッカル」…
「ジャッカル」追跡に任命されたクロード・ルベル刑事は、大統領暗殺を阻止すべく執念の捜査で暗殺者を追い詰める。

個人への恨みもイデオロギーも無く、ただ職業として殺人を行う男の気負いの無さが、この映画の凄みを一層深いものにしていると思うのです。

OASが「ジャッカル」に暗殺の依頼をするシーンで「報酬はアメリカドルで50万ドル、前金として25万ドルがスイス銀行の私の口座に振り込まれ次第、行動を開始する…」このシーンは日本人ならだれしもあの「ゴルゴ13」を連想してしまうのではないでしょうか。

1960年代、通信機器も発達していない時代、自らの中に蓄積されたデータと経験値のみを武器に、一人孤独に壮大な暗殺計画を練る男。
大統領が群衆の前に姿を現す8月25日のパリ解放記念式典に照準を合わせ、そこから逆算し入念に暗殺計画を練る…

まずは墓地を物色し、すでに死亡している「ポール・ダカン」名義の出生証明書を取得、それを使って偽の旅券を作る。
パリに赴き、暗殺計画の下見をした後、イタリアの武器製造業者を訪ね、暗殺のための軽量で小型の銃を発注する。

銃の照準をドライバーで微調整しながら少しずつ合わせていくシーンは、彼が凄腕のスナイパーであることを語るに十分な説得力があります。

派手な見せ場より、ディテールにこだわった演出、最小限の演出で語るべきことを語る手法は監督の手腕を感じます。

「ジャッカル」が「ポール・ダカン」名義でフランスに入国したことを知ったルベル刑事は、あらゆる国境での検問、外国人の宿泊者名簿を調べ上げるが、極秘捜査ゆえ常に行動が後手に回り、取り逃がしてしまう…

「ポール・ダカン」で行動していることが捜査局に漏れている事を知った「ジャッカル」は、イギリスの空港で盗んだデンマーク人「ペール・ルンドクリスト」のパスポートを使い、彼になりすまして再びパリに入る。

常に捜査の一寸先をすり抜けていく「ジャッカル」。
パリ中の観光客の宿泊者名簿を精査し、一人ひとり虱潰しにあたるも空振り、警察の手は「ジャッカル」に読まれており、彼は潜伏先を確保するため、ある時は女性を、またある時は男性を口説き、宿を提供させていたのです。
この硬軟合わせ持ちながら敵を攪乱する手法は、「ゴルゴ13」よりも上手なのではないでしょうか。

「パスポートを旅先で盗まれたら、まずどこに行く?」
イギリス大使館にデンマーク人のパスポートの盗難届が出されている情報を入手したルベル刑事は、「ジャッカル」が「ポール・ダカン」からデンマーク人「ペール・ルンドクリスト」に身分を変えパリに潜入している確信を得る。

「我々の捜査をすり抜け、奴はこのパリまで来ました、これは我々に対する挑戦です。」
「ジャッカル」とルベル刑事、プロ同士の信念とプライドをかけた戦い…

8月25日記念式典当日、「ジャッカル」は老いた傷痍軍人を装い、警察の非常線を通り抜け、狙撃の場を確保。

ルベル刑事の執念の捜査の目をかいくぐり、ジャッカルの牙は大統領の喉元まで迫る。

傷痍軍人が非常線を通過したことを聞きつけたルベル刑事は彼こそ「ジャッカル」だと踏み、狙撃現場に強行突入、「ジャッカル」にマシンガンを浴びせ、暗殺実行の阻止に成功する。
当初捜査局は、捜査線上に挙がったイギリス人“チャールズ・ハロルド・カルスロップ”が「ジャッカル」なのではないか、コードネームの「ジャッカル」は“CHARLES(チャールズ)”の“CHA”と“CALTHROP(カルスロップ)”の“CAL”を組み合わせたものなのではないかと踏んでいたが、結局チャールズ・ハロルド・カルスロップは事件とはまったく無関係の人間だった。

暗殺者「ジャッカル」とは何者だったのか、その経歴や素性は解明されずに終わるのです。

ミシェル・ロンズデールは、疲れを滲ませながらも常に冷静さを失わず、執念の捜査をするクロード・ルベル刑事を魅力的に演じていました。

「ジャッカル」を演じたエドワード・フォックスは、イギリスで数々の賞を受賞し、007シリーズにも出演している実力派俳優なのですね。無表情でいつもどこか遠くを見るような目が印象的です。語らずともその一挙手一投足に暗殺者「ジャッカル」の生き様を感じさせる、圧巻の演技でした。

アフリカのサバンナに生息する肉食獣ジャッカルは、死肉を漁ることから死に関する神と結び付けられることが多いそうです。「ジャッカル」はコードネームを決める時、この獣こそ自らの名を語るにふさわしいと思ったのではないでしょうか。

今日も無事に家に帰って午後ローを見れていることに感謝😌です。

総合評価★★★★★
ストーリー★★★★★
流し見許容度★
午後ロー親和性★★★★

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