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午後のロードショー「セルフレス/覚醒した記憶」


公開  2015年
監督  ターセム・シン
出演  ライアン・レイノルズ ベン・キングスレー マシュー・グード

風景の中にどこか違和感と不安を覚えるだまし絵のような映像はターセム・シン監督ならではですね。

ストーリーに無駄が無く流れるような展開で 最後まで一気に見る事ができました。
見る者の集中力を途切れさせない演出は監督の手腕と言えますね。

登場人物の中で強烈な存在感を発しているのはベン・キングスレーのみで、他はいい意味でストーリーを邪魔しないクセの無いキャスティングですね。

巨万の富を築いた大富豪ダミアンはガンにより余命宣告されてしまう。彼の前にオルブライトと名乗る科学者が現れ最先端のクローン技術で作られた肉体に頭脳を転送させることにより新しい肉体を手に入れる事ができると持ち掛けられる。新しい肉体を手に入れたダミアンは人生を謳歌するも、原因不明の幻覚に苦しめられる事になる…

この映画では過去の肉体を捨て新しい肉体に移る事を「脱皮」と表現していますが、外科的な脳移植では無く意識を別の肉体にコピーするイメージですね。

ダミアンは不老不死の研究をしていた博士の眼鏡を触るちょっとしたしぐさと、隣に座る助手の姿を見て自らに起こった不可解な出来事の真相を悟るのですが、最小限の演出でキーポイントを説明する手法もうるさくなくて良いですね
博士はずっとこの助手の肉体を狙っていたのかと、考えるとドロドロした生への執念を感じ恐ろしくなります。

アクションシーンが随所にありストーリーに起伏を与えていますが、肉体の主であるマークは元軍人だったという設定がストーリー展開に効いています。

ターセム・シン監督は「インモータルズ」「落下の王国」「白雪姫と鏡の女王」など独特な世界観と映像で見る者を圧倒させますね。
中でもジェニファー・ロペス主演の「ザ・セル」は心理学者が事件解決のために殺人鬼の脳内に潜入するという話なのですが、悪夢の中をさまよっているような独特の幻想的で禍々しい映像は一度見たら忘れられないほど強烈ですね。
想像するのも恐ろしい連続猟奇殺人犯の精神世界をグロテスクな描写で表現するのですが、あまりに残酷で正視できないシーンもありました。
明るいイメージのあるラテン系の女優ジェニファー・ロペスが心理学者を演じているのもミスマッチのようで逆に良いアクセントになっていました。

彼のほとんどの映画を担当したデザイナー石岡瑛子の衣装も前衛的でインパクトがあり見事な相乗効果になっていました。

佐藤究の「テスカトリポカ」は臓器売買の闇について描かれており、その中で印象的だったのが「臓器は下から上へと吸い上げられる」という言葉です。
臓器売買は貧困層から富裕層へ提供される事が常であり、提供した者は命を落としている事が多いのです。
この映画の中でダミアンは自らの余命と向き合った時に、科学的に命をつなぐ方法と出会いそれにすがってしまいます。
肉体はラボで作られたクローンと信じ「脱皮」をするのですが、実は肉体を提供していたのは第三者だった。しかも経済的な理由で…

罪悪感と共に新しい肉体を得るのは誰しも望まない事なので、この映画のフェニックス社は顧客獲得のために嘘をつくのです。

鏡に映るのは自分ではない他人の肉体…この違和感に耐えられる人間がどのくらいいるでしょうか。 友人のマーティンの家の鏡がすべて布で覆ってあったのが印象的です。
他人の命を奪ってまで生きたい、もしくは生かしたいと思うかどうかは個人の倫理観によると思うのですが、運命を受け入れあきらめることも大事な選択肢のひとつですね。

この映画の主人公ダミアンは結局自らを消滅させ、肉体の主に魂を返すことを選択するのです。

「バニラスカイ」のようなSFサスペンス映画は大好きなのですが、どちらも生きるとは何か、本当の幸せとは何かを考えさせられる内容ですね。

今日も無事に家に帰って午後ローを見れていることに感謝😌です。

総合評価★★★★★
ストーリー   ★★★★
午後ロー親和性 ★
流し見許容度  ★

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