8.初めてパチンコを打った時の話
学生時代。
日々単位と飲み会に追われるまさに学生っぽい時期。
とある日。
地元から中学の同級生が遊びに来るとのことで、久々に近況を報告しあえるなとワクワクしていた。
久々に会うけど彼女出来たんかな。
中学生の時は部活で坊主にしていたのであまりモテなかった彼のことを思い出しながら集合場所に向かった。
久々に旧友に会うと、なんだかギャル男みたいになってた。
髪は茶髪になっていたし、めっちゃスジ作ってがっつりセットしていた。
時は人を変えるな、と素直におもった。
「おお久しぶりじゃん!変わんねーなお前!」
いやお前が変わりすぎなだけだろ。
「ボチボチやってるよ。そっちはどうなん?彼女出来たか?」
「あたりめーよ、ほらこれ彼女と撮ったプリ」
見せてもらったプリクラにはギャル男と、ちょっとぽっちゃり目な金髪の女の子が写っていた。彼女までテンプレなのかよ。
二人の下には「一生守る。」の文字。
いやいや…そういうのは中学までにしておけって…。
ちょっと恥ずかしいなと思いながらかわいいねーと適当に返事。
なんかこいつと遊ぶのちょっと嫌になってきたな…。
とはいったものの、性根は変わっていなかったらしく、普通に仲良く遊んだ。
ラ〇ンドワンに行きたいと言っていたので連れていき、そこで数時間ボーリングやゲーセンなどで楽しく遊んだ。
「いやー遊んだわめっちゃ楽しかった。つか、パチンコ打ちたくね?」
ん?なんか変なこと言わなかったかこいつ。
「は?パチンコ?やったことないよ俺」
「マジ?ふつーやるっしょ、てか俺が連れて行ってやるよ」
「いやいいって…金ないし。居酒屋行くって言ってたじゃん。」
「マジちょっとだけ!!先っぽだけ!!」
キモすぎだろこいつ…なんでそんなに必死なんだ…
変わってないと思った俺が間違いだった…めちゃめちゃ中毒者やんこいつ…
しばらく行く行かないの押し問答になってしまったので結局僕が折れてパチンコ屋に向かった。
店内に入るとまずタバコの臭いが気になった。
当時僕も喫煙者ではあったが、壁に染み付いたヤニ臭さはなんとも不快だった。そして轟音。ギャル男が何か喋っていたが聞こえない。
うるさすぎて耳おかしくなるわ。
当時はノイズキャンセリングなんてのもそんなに普及してなかった(少なくとも僕は持っていなかった)ので、ここに毎日来てる人の鼓膜の状態が気になった。
またギャル男がなにか言っていたが、何も聞こえなかったので「お前についていく」というジェスチャーをし、後ろに並んで歩くことにした。
しばらく歩き、とある台の前で止まった。「新世紀エヴ〇ンゲリオン」
あー一応アニメも映画もみたな。よくわからなかったけど面白かったって感じで…。感受性の低い僕はそんな小学生みたいな感想を抱いていた。
「これにするべ!!」
耳元ででかい声で言ってきた。うるせー。耳元でしゃべるなら普通の音量でいいだろ…
座ってみたものの、何をすればいいかわからないのでギャル男の言う通り10000円札を台の横らへんにある謎の機械に入れる。
え、これ返してもらえるんだよな?
なんの疑問も持たず入れてしまったけども。
ギャル男は慣れた手つきで札を投入し、10円玉を取り出しながらなにかのボタンを押していた。「球貸」というらしい。
真似して押してみた。球がジャラジャラ出てくる。え。なにこれ。
ハンドルをちょっと回すんだよ、と教えてもらったのでやってみる。
おお、こんな感じか、たしかにイメージするパチンコってこれだわ。
しばらく打っていると上皿に球がなくなった。
「球なくなったらまた貸出押して」
マジか?いやいや、このペースで球借りるとかやばいだろ…多分1~2分しかたってないぞ…なんてもの人に勧めてきたんだこいつは…
僕は約10時間ほどのバイト代を消し飛ばす覚悟をした。
貸出ボタンを押すのにも慣れてきた3000円目、リーチがかかった。
おお、やっと当たるのか。
「あー、ちょっと弱いかもなそれ」
ギャル男が言う。は?当たらんの?リーチってことはもうほぼ当たりなんじゃないの?こんなの詐欺じゃん…
ギャル男と一緒にリーチの演出を眺める。すると突然
「カヲル君だ!!!」
ギャル男がめちゃめちゃでかい声で騒ぎ始めた。
よく聞くと、このエ〇ァのパチンコは
登場人物の一人である「渚カヲル」がでると当たりが確定するらしい。
「すげえじゃん!最初からプレミアだぞそれ!」
パチンコ打ちからするとみんなカヲル君が好きらしいが、
いやしらんし…そんな思い入れのあるキャラでもないしな…
素直にそう思った。
ギャル男の言う通り、そのまま当たって、球が出てきた。下の赤い箱がパンパンになった。
するとギャル男が店員を呼び出し、僕の箱を変えるように言った。
え、これ満杯になったらいちいち店員さん呼ぶシステムなの?
めっちゃ申し訳ないし非効率じゃね?
そんな僕の思いはつゆ知らず、僕の台は当たり続け球を吐き出しまくった。
結果、8000発強。
どれくらいすごいかはわからなかったが、ギャル男がテンション高く
「すげーなマジで!!ビギナーズラックってあんだな!!」
と騒いでいたのでおそらく悪くない結果なのだろう。
「これで終わりでいいの?つか、これいくらになったの?」
「大体30000円くらいじゃね?」
「は?ガチ!?」
いやとんでもないなこれ。たったの30分で30000円。そりゃ中毒になるわ。
ぼくは初めてパチンコを打った興奮と、30000円を手にした事実にちょっと震えた。
店員さんを呼び球を交換してもらい、受付みたいなところに行って謎の景品を渡された。
それを買取屋に持っていくとお金と変えてくれるらしい。
いやいや…そんな都合よく買取屋とかねーだろ。大〇屋でもいけってか?
裏の路地をちょっと歩くと普通にあった。なんならいろいろなところでみたことあるわこれ。
そこでおばちゃん(だと思われる)に景品を渡すと、31500円出てきた。
マジで30000円出てきたよ…。世の中こんなのがそこらへんに普通にあるのか。いろいろとやばいな。
「うい~!勝ったじゃん!今日はお前のおごりだな!」
ギャル男が調子よく言ってくる。
「まあ、たしかにおもしろかったよ。奢りもまかせとけ!」
上機嫌になった僕らは居酒屋でしこたま酒を飲んで帰路についた。
翌日、ギャル男がショッピングしたいというので付き合い、解散の流れになった。
まだこっちに居たかったらしいが、帰って彼女と会う約束をしているらしく
地元帰ってきたら飯誘えよ!と元気に去っていった。
帰り道、ぼくはギャル男と遊んだことを思い出していた。全体的に楽しいだけの会だったが、何よりもパチンコの衝撃がデカかった。
面白い反面、お金がどんどん溶けていく様が怖かった。
これを機にパチンコを打つのは辞めよう。新しいものを教えてくれたギャル男には感謝だが、恐怖が上回った。
その翌週、ぼくはなぜかパチンコ屋にいた。
ああ、こうやって中毒者がうまれていくのか…
そんなことを思いながらまたエヴ〇の台に座った僕だった。
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