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作品紹介66:壁の向こう側

 百聞は一見に如かず。絵の中の彼はどんな景色を見ているんでしょうか。きっと聞いても今ひとつ分からないんでしょう。
 このイラストの壁には様々な落書きがされていますが、中にはモデルが存在する落書きもあります。そのモデルの中の一つに関して私の思い出を一つ。
 「ショーシャンクの空に」という映画があります。その中に、図書係だったおじいさん、ブルックスが仮釈放されるものの塀の中の生活が長過ぎて社会に居場所を見つけられず、最後には部屋の中で自ら首に縄をかけてしまうというシーンがあります。とても印象的なシーンです。その後モーガン・フリーマン演じるレッドが追って仮釈放され同じ部屋に暮らすのですが、その部屋を退去する際にブルックスが縄をかけた天井の梁に文字が刻まれているのを発見します。

BROOKS WAS HERE(ブルックスここにありき)

彼が生きた証は確かにここに刻まれていて、私の遠い記憶では、この落書きを見たレッドは微笑みました。そして「SO WAS RED(レッドもここにありき)」と書き加えるのです。レッドは、ブルックスが自ら死を選んだ事は必ずしも暗いものではなく、彼は彼なりに生き、満足してそうしたのだと、だからそこに名前を刻んだのだと思って微笑み、それに応えるように自分の名も刻んだのです。
 と、私は思っていました。しかしそれだけではなかったのです。なんと深くユーモラスなシーンだった事でしょう。
 アメリカに「KILROI WAS HERE(キルロイ参上)」という落書きがあります。落書きあるあるとでも言うべき大衆に認知された落書きです。色んな著作にも登場し、至る所に見られた落書きなのです。あまりにもどこにでも見られる事から、アームストロング船長が月面に星条旗を立てる時にも、隣の岩にキルロイ参上と既に刻まれていたというジョークが生まれたほど、、、
 ブルックスが梁に刻んだ文字はこの「KILROI WAS HERE」が元になっているのです。レッドはブルックスの、遺言の代わりの痛烈なユーモアに微笑み、自分の名も乗せたのです。もちろんただのジョークではなく、確かに自分はこの場所にいた、この世界に生きたんだという思いが込められているのです。なんと深く感動的なユーモアでしょう、なんとさりげなく鮮やかに人生を表現している事でしょう。教養はユーモアに深みを持たせ、人生を豊かにしてくれるのだと感じさせてくれた映画でした。

ICE CREAM WAS HERE(アイスクリームここにありき(食べた))        -Tokyoshi


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