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舟編みの人~第11話~

朝倉
「適当に名前を考えたのをSNSで検索すると…」
「意外と実名で上がってくるのは…
 何故なんだ…」
与那嶺
「意外とそんなものですよ…」
朝倉
「なんだ…
 心当たりがあるみたいだな…」
与那嶺
「知り合いにちょっと同姓同名の人がいたりしますし…」
「お気に入りのドラマ見ていても…
 知り合いと同じ役名の人も出たりしますからね…」
伊島
「ちょっとして久しぶりに小説とか書くつもりですか…」
朝倉
「そうなんだけど…」
伊島
「『俺は辞書の中に物語を綴るんだ』とか…
 叫んでいた事…
 ありましたよね…」
朝倉
「そうだよ!」
与那嶺
「朝倉さん…
 いつになく…
 独特なオーラが…」
伊島
「こうなると…
 私達では…
 手に負えませんよ…」
与那嶺
「もしかして社内七不思議の状態ですか…」
伊島
「まだ分かりません…
 確かに…
 七不思議の称号の持ち主ではありますけどね…」
朝倉
「憧れはある程度、
 その存在に近付いたら捨てる覚悟がないと、
 超える事は出来ないんだよな…」
「尤も、
 俺はその近くまで辿り着いたなんて…
 これっぽっちも感じない…」
「実際、
 少しずつは近付いてはいるのだろうけど…
 その距離にも大きさにも…
 へこたれそうになる。」
伊島
「少し肩の力抜いたらどうですか…」
「ドツボに嵌ると、
 駄作すら出来なくなりますよ…」
朝倉
「向き合う規模が違うとは言え…
 創作の世界にいるから…
 その感覚…
 分かるんだな…」
伊島
「冷静さは失ってはいない様で…
 安心しました。」
「朝倉先輩程ではありませんが…
 私も作家と10数年向き合ってきていますし…
 私自身も詩歌詠みをし続けてますから…
 そうした場面の感情には…
 自他共に感じる様になりました。」
「その人が書き始めた物語自体は…
 基本、
 その人に書き綴ってもらうしかないんですよ…」
「私が作家さんに向けて手伝える事があるとするなら…
 創作のきっかけになる言葉を投げかけたり…
 作家さんの視野を拡げる為に…
 ちょっとした場所に連れ出す事くらいです。」
「どれだけ頑張って応援したとして…
 その影響で私が…
 その作品の登場人物にはなれても…
 その作品の背景にまでは…
 なれないのです。」
「第一…
 背景にまでなろうと思うのなら…
 その作家と一生共にする覚悟がないと務まりませんからね…」
「あと…
 その人自身が持つ思想と言うか…
 景色と言うものがあるので…」
与那嶺
「お二人の話を聴いていて思ったのですが…
 私の場合…
 郷土史や方言というものに携わっていると…
 その人にしか語れない物語や語り口に聴き入って…
 ふと今いる時間を忘れて…
 その時代のその場所の景色に入り浸っているのかと…
 錯覚する事があります。」
朝倉
「与那嶺くん…
 もしかしたら社長は…
 君のそうした共感覚に…
 何か可能性を感じたんだろうな…」
「そうした感覚は大事にした方がいいぞ…」
「良い作品や良い作家に出逢う為にも…
 そうした感覚は…
 きっと役立つと言うか…
 君を新しい世界へと誘う鍵になる気がする…」

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