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北海道が好きになったわけ⑤

アパートの部屋は1階に2部屋、2階に7部屋の計9部屋。全部屋空いていて新入生だけのアパートだった。キャンセルした人がいたのか、全室は埋まらずに1階は静岡出身の若ちゃんだけ、2階は東京下町の岩田ちゃん、青森ボーイの沢村、埼玉出身の石田ちゃん、もう1人の下町っ子・跡見さん、東京出身の蓮ちゃんと僕も合わせて全部で7名の新入生が顔を揃えた。現役と1浪がほとんどだったけど、跡見さんは2浪だったので自然と「さん」がついた。でも、年齢だけじゃない。なんか妙な迫力というかオーラがあるんだよな。

なんとなく跡見さんに対しては同じように感じていたから皆んな「さん」付けで呼んだんだと思うけど、その感覚が優れていたことが2日目に証明された。

夕方、買い物から帰って来たら皆んなが何となくざわついていた。
「ん?どしたの?何かあった?」
「あー、シャケさんお帰り。いや、まずいことになったんだよ」と蓮ちゃんが話してくれたのはその日の午後の話。
隣のアパートに住む先輩達が2人、挨拶もしないでズカズカと乗り込んで来て、「おー、お前ら1年か。このアパートには皆んな嫌な思い出があってよ〜」と勝手に話し掛けて来たそうな。そしたらそこにいた跡見さんが「何だ?お前ら?あぁん?」て追い返しちゃったんだって。あぁ、跡見さんのオーラってそういう類のオーラだったのね。納得。

その日の夜、またその先輩2人がズカズカと乗り込んで来た。そして、「おう、お前らやべーぞ。2年カンカンに怒ってんぞ?ちょっと隣まで来いや!」と俺達ひとりひとりにガンを飛ばして来た。跡見さんもこの時は何も言わなかった。仕方がないので7人揃ってほんのりとビビりながら、とりあえず先輩について隣のアパートに行った。

「この部屋だ、入れ!」次々に先輩達に背中を押されて部屋に入れられる。狭い部屋に先輩は5人くらい。みんな腕組みしてコッチを睨みつけている。「おう!お前ら正座だ!正座!」仕方なく正座する。

そういえば、拓大ってアホだったよな(当時の話です)。空手部でなんか問題あったんだっけ?応援団でも不祥事があったような。どちらも後輩が先輩からリンチを受けたとかそんな話じゃなかったっけ?不吉な記憶が頭に浮かんでくる。正座のまま待っていると、ドスドスと音を立てて巨漢の漢がやって来た。そして、僕たちの前に5枚くらい積まれた、笑点のような座布団の上にドッカリと座った。
「おう、オメーらか。生意気な1年つーのは?」やばいなぁ、やっぱりリンチされたりするのかなぁ、と首をすくめていると
「おう!俺がこの学校の番を張っている渡辺だあ!」
え?一瞬耳を疑った。番?今「番」て言った?もしかして大学生にもなって番長なの?と少し可笑しくなってチラッと目線を上げると、見事なリーゼントにドテラを袖を通さずに羽織って腕組みしている。プププ、いくら何でも古過ぎ(笑)。当時の僕らからしたら、菅原文太さんとかの出てる任侠映画とかのイメージで吹き出しそうになった。でも、さすがに笑える雰囲気じゃない。そう思ってチラッと前を見ると跡見さんも肩が揺れてる。隣の沢村からも「ブフッブフッ」と不規則な声が漏れてる。こりゃ笑ってんのバレるの時間の問題だと思っていたら、番長(笑)が、「まぁ、今日のところは見逃してやるけど生意気な口叩くんじゃねーぞ?分かったか!」と言ってドスドスと出ていったのでお開きになった。

なんで急に解放してくれたのかはよく覚えていないが、自分達のアパートに帰ってから皆んなで大笑いした。
「なんだよ、アレ?この時代にドテラって(笑)」「大学生で番長だって(笑)」ゲラゲラと皆んなで大笑いしながら酒飲んで、一気に皆んなと仲良くなった。

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