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これからも堂々と感染予防対策をできる社会に #清潔のマイルール

「先進の抗ウイルス仕様室内装」
 これは、ある住宅メーカーのWeb広告に掲載されていた項目の一つです。「床や壁、手すりに抗菌・抗ウイルス加工を施した部材を揃えました。」
との説明が書いてあります。

 私は、この住宅メーカーで2019年に家を建てました。そのときは既に慢性骨髄性白血病を発症しており、清潔な住宅環境にも気を遣って住宅メーカーと打合せを進めていました。そのため、玄関付近には帰宅時にすぐ手を洗えるように洗面台を設置しましたし、浴室や壁クロス、エアコンには防カビ対策がされた製品を採用しました。

 もし、2019年当時に今のような抗ウイルス仕様があったなら間違いなく採用しました。しかし、そこまでの物はありませんでした。まさか、住宅メーカーも数年で抗ウイルス仕様が注文住宅の売りの一つになる日が来るとは思っていなかったことでしょう。清潔な住宅環境での訴求は、正に隔世の感といった言葉がぴったりです。

白血病患者にとって細菌、真菌(カビ)やウイルスは大敵

 私が慢性骨髄性白血病の告知を受けたのは、2017年の秋でした。まさか40代後半で死に至る可能性のある病気の告知を受けるとは思っていませんでした。血液内科の医師や看護師の方がシリアスモードになっている中、自分のことではないように告知を聞いていました。

 告知の1週間後に入院することになりました。血液内科の入院病棟に行って驚いたのは、医療従事者や患者のほとんどの人がマスクをしていたことです。私は、それまでマスクをしていなかったので常時マスクをすることに馴染めていませんでした。

 なぜ、皆さんがマスクをしているかというと、私を含め血液内科に入院するような病気では、細菌、真菌(カビ)やウイルスが大敵だからです。病気そのものや薬物療法の影響で、健康な人には害のないような弱い細菌、真菌(カビ)やウイルスなどの病原体に感染しやすくなっているのです。そして、そのような菌やウイルスに感染すると重症化する恐れがあるのです。

 私も、最初は抵抗感がありましたが、一週間もすれば常時マスクをすることに慣れてきました。また、医療従事者の方からは、手洗いやうがいをしっかり行う、適宜アルコール消毒を行うなど、清潔な状態を維持することが重要な感染予防対策であると教えていただきました。

 驚いたのは、掃除を避けるように言われたことです。掃除というのは家の状態を清潔にするために行うものです。しかし、白血病患者が掃除をすれば真菌(カビ)などが舞う中で呼吸をすることになるため、肺炎になりやすくなるとのことでした。やむを得ず掃除をする場合には、マスクをしっかり着用するようにと教えていただきました。

コロナ渦前には感染予防対策が異端扱い

 入院期間が終わり職場復帰を果たしました。慢性骨髄性白血病では分子標的薬を服用するのですが、私にとってこの薬はとても副作用が辛いものでした。ただ、見た目はそれほど変化していませんので、回りの人は今までの自分と同じ姿を期待しました。自分もその期待に応えたいと思っていました。

 そうは言っても、感染予防対策はしないわけにはいきません。当然、マスクは常時着用ですし、手洗いやうがいもしっかり行うなど、菌やウイルスから自分を守るために清潔な状態を維持しようと細心の注意を払いました。ただ、掃除はできる限り避けたいと思っていました。

 ところが、そのような私の姿に違和感を抱く人もいらっしゃいました。感染予防としてマスクをしていれば「自分はマスクをしない。なぜならば…」とマスクの効果への疑問を投げかけられました。また、人前でスピーチをする場面では、マナーとしてマスクを外さない訳にはいきませんでした。

 他の人と食事をするときも困りました。飲食店に行っても基本的にはマスクを外したくありません。そうなると、食事を口に運ぶときには顎にマスクを掛け、それ以外はマスクをしている形になります。一時期推奨された食事中の顎マスクです。ところが、同席していた年老いた母からは「みっともない!」と注意を受ける始末でした。

 私からしてみればマスクの常時着用は致し方のないことなのですが、大きな病気をしたことがない人から見ると違和感や嫌悪感を感じるようでした。マスクを常時着用することに居心地の悪さを感じながら、マスクを外したために菌やウイルスに感染してしまうことへの不安を抱えて毎日の生活を送っていました。

 また、アルコール消毒や手洗い、うがいも回りの人よりしっかりと行いましたので、白血病患者だと知らない人からは「潔癖症?」と揶揄されてしまいました。菌やウイルスが付着するような作業も避けていましたので、事情を説明しないと「人間性に問題があるのでは?」と思われてしまいました。

 つまり、新型コロナウイルス感染症流行前までは、清潔な状態を維持しようとして行っていた感染予防対策は完全に異端扱いだったのです。個人で感染予防対策を貫き通すことは難しい社会だったと言えるかもしれません。

新型コロナウイルス感染症の流行で手のひら返し

 2020年は、新型コロナウイルス感染症の話題が次第にヒートアップした年でした。すでに慢性骨髄性白血病患者の新型コロナウイルス感染による重症化リスクは伝えられており、主治医の方からも人混みを避け感染予防を徹底するよう促されていました。

 さらに私は、気管支壁肥厚による軽度のぜんそくもあり、そちらでも重傷化リスクがあるとのことでした。著名な方々がコロナウイルス感染症によって鬼籍に入られたり、重症化されたりしたニュースを見て、絶対に感染するわけにはいかないと強く思ったものです。

 テレビの報道番組は、新型コロナウイルス感染症対策一色になりました。すると、「自分はマスクをしない!」と言っていた人がいつの間にかマスクをしているなど、人々が一斉にマスクを着用するようになりました。一時は極端な品薄になり、マスクの高額な転売が問題視されたくらいです。

 コロナ渦前には、アルコール消毒をする人を「潔癖症!」と揶揄していた人が、急に清潔な状態の維持に気を配るようになりました。手洗いやうがいの方法、適切なアルコール消毒の仕方までよく勉強しているなと思ったものです。気がつけば、消毒用のアルコール製品は飛ぶように売れて品薄になりました。たまに店先に並べば行列を作って購入する有様でした。

 私は、それ以前から常時着用するためのマスクは用意していましたし、アルコール製品にも若干の備えがありました。このようなことから、直ちにマスクやアルコール製品の不足に困ることはありませんでした。しかし、これまでウイルス感染予防に無関心だった人々の手のひら返しには驚きました。

 そうは言っても、感染予防対策が過剰なのではないかという指摘もありました。ところが、感染予防対策が不十分な状況でクラスターを発生させてしまうと、世間から大きな批判を浴びる風潮にまでなりました。すると、感染に対する不安だけでなく、世間の目も気にしなくてはいけなくなります。より一層、社会の皆さんが清潔な状態の維持に力を注ぐようになりました。

 日本では、ウイルス感染への不安の他に同調圧力まで加わって感染予防対策が徹底されるようになりました。子どもたちが頑張ってきた部活動の大会が中止になったり、オリンピックが延期及び無観客になったりと、これまでの生活と比べて様々な制限が加えられました。飲食店やイベント関係、観光業など事業の継続が困難になったケースもあったようです。

 しばらくすると、マスクやアルコール製品は次第に世の中へ行き渡るようになり、ワクチン接種も順調に進められました。緊急事態宣言などの発出もなくなり、社会生活はコロナ渦前に戻りつつあります。しかし、流行の波が定期的に見られることから、マスク着用やアルコール消毒、手洗いやうがいの徹底、ソーシャルディスタンスの確保などは依然として続いています。 

Withコロナは意外と有りかも?

 私は、服用している薬の関係から自動車の運転をすることが難しくなり、市外に出掛ける際には主に電車やバスを利用しています。ほとんどの乗客の皆さんはマスクを着用しており、会話も控えめです。また、清潔な状態を維持するため、定期的にアルコール消毒がされていることを紹介する放送が流れることもあります。安心して公共交通機関を利用することができます。

 緊急事態宣言時には考えられなかったことですが、最近は、妻や子どもと飲食店に行くときがあります。アルコール消毒やソーシャルディスタンスの確保、マスクの着用、控えめな会話が徹底されているお店が多く、こちらも安心して外食を楽しむことができます。飲食店も以前の客数を取り戻してきたように見えます。

 スーパーマーケットなどに買い物に出掛けても、皆さんはマスクを着用しており、店の入口で手やバスケットの消毒を行ったり、ソーシャルディスタンスが確保できるセルフレジを活用したりと感染予防対策が進められています。日々の生活用品や食料品の購入は欠かせません。たくさんの来店者が安心して買い物ができる環境が整えられているのは素晴らしいと思います。

 私自身は、コロナ渦になって、より清潔な状態の維持に力を注ぐようになりました。ウイルスの吸入や付着を極力避けるため、松葉型の不織布マスクに眼鏡、帽子を着用して外出するようにしています。また、アルコール消毒製品を携帯、必要に応じて使い捨て手袋も着用しています。

 さらに、家の玄関には上着を掛けられるスペースが有り、家人はそこで上着を脱いで部屋に入るようにしています。もちろん、洗面台のタオル等もそれぞれが別の物を使用します。妻の職場で感染者が出た場合には、濃厚接触者でなくても念のため別の部屋で寝るようにしています。

 今、新型コロナウイルスによる感染がある程度見られても、社会経済活動を維持するWithコロナが求められています。そこで、私や回りの人々は、清潔な状態の維持に努め、一定の感染予防ができるように配慮しながら社会生活を送っています。その上で、概ねコロナ渦前と同じような生活を楽しむこともできています。そのため、白血病患者にとってWithコロナは意外と有りかも?と感じています。

ウイルス感染への不安を多くの皆さんが共有した社会

 概ねコロナ渦前と同じような生活になってきましたが、完全に戻ったわけではなく職場の宴会などは控えられているケースが多いようです。また、マスクの着用に嫌悪感を抱いている人から見れば、抑圧されている感じは否めないかもしれません。そこで、これからはマスクの着用緩和など、感染予防対策の見直しを進めていくようです。

 政府からは、1月27日の発表で『新型コロナウイルスについて、5月8日に今の「2類相当」から季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する方針』と伝えられました。その中では、マスク着用は原則屋内外を問わず個人の判断に委ねることを検討するとされました。

 また、プロスポーツや大規模イベントに関する収容人数制限は27日に即日緩和しました。声援などの「大声あり」の場合は収容率の上限が50%でしたが、感染対策がされていれば上限を撤廃して100%でも可能となります。これまで、学校のステージ発表やイベント開催等では様々な制限がありました。以前のようになることを歓迎する人々は多いことでしょう。

 反面、マスクをしない人が増えれば感染状況の悪化を招くとの懸念もあります。ある世論調査(1月23日発表)によると、2類相当から5類への引き下げについては、賛成48.7% 反対46.5%と賛成が反対を上回りました。しかし、屋内でのマスク着用については、現状維持64.4%、原則不要31.9%となり、現状維持が原則不要を大きく上回りました。

 私は、制度の変更はやむを得ないとしても、具体的な感染予防対策の緩和には不安があることを示した結果だと思います。ですから、感染予防に繋がる清潔な状態の維持に今後も力を注ぐと思われます。ウイルス感染で重症化リスクのある患者は、コロナ渦前からウイルス感染への不安を抱いていました。この不安を多くの皆さんが共有した社会になったのだと思います。

個人が貫く感染予防対策が認められる社会

 不安が共有されたことは感染予防対策の徹底に繋がり、重症化リスクのある患者にとってはありがたいことです。しかし、感染予防対策の徹底によって、我が子は、私の若い頃であれば普通に体験できたことを制限されてしまいました。いわゆる若い世代が犠牲になっていると言われる所以です。

 我が子だけでなく、若い世代の皆さんには、コロナ渦前の生活に戻って十分に自分の力を発揮して欲しい、自分の夢に向かって邁進して欲しいと思います。若い世代の皆さんのことを考えると、感染予防対策で制限のある社会には戻って欲しくありません。矛盾するようですが、これも本心です。

 そこで、政府は、マスク着用に関して「個人の判断に委ねる」方針のようです。個人の判断であれば、マスクを外したい人は喜んでマスクを外すでしょう。しかし、私の慢性骨髄性白血病のように、ウイルス感染で重症化リスクのある病気は基本的に不治の病であることが多いのです。

 ですから、清潔な状態の維持が不要になる日は来ず、自分の感染予防対策は一生貫き通すしかありません。つまり、重症化リスクのある患者に感染予防対策を行わないという選択肢はないのです。それでも私は、感染予防対策全般において「個人の判断に委ねる」というのが今のところの正解になるのでは?と考えています。

 個人の判断に委ねても、今はウイルス感染に対する不安感が強いので、おそらく相当数の人はマスクの着用を続けると思います。また、アルコール消毒も一定のニーズがあると思います。何となくソーシャルディスタンスも確保されてしまうのではないでしょうか。緩やかになったとしても、ある程度の感染予防対策は継続すると見ています。

 そして、公の場のスピーチでマスクを着用していたとしてもマナー違反で怒られることはないでしょう。その他、食事の際に顎マスクをしていても、アルコール製品を多用していても、使い捨て手袋を使用していても
「感染予防に気を付けている人なんだな。」
と思われるだけで咎められることはなくなると思います。

 つまり、5月8日以降は「マスクを外す自由」が個人の判断で認められる一方、これまでどおりに「あらゆる場所でマスクを付ける自由」「あらゆる場所で感染予防対策を行う自由」も個人の判断で認められる社会になってゆくのだと思うのです。

 コロナ渦前には、マスクの効果を疑問視され、マナー違反の指摘を受け、潔癖症扱いや人間性に対する疑問まで投げかけられきた行為、正に異端扱いだった感染予防対策が認められる社会になるのです。それは、極力清潔な状態を維持するといった、個人が貫く感染予防対策が認められる社会になったとも言えるかもしれません。

距離を置くことが認められる社会

「重症化リスクのある人が行動を自粛するべきだ!」
 緊急事態宣言時などにおける行動制限が、若い世代に犠牲を強いているとしてよく叫ばれていた言葉です。この言葉は一理あると思っています。ですから、私は感染リスクの高い場所には行きません。

 感染予防対策が不十分なお店で食事をしようとは思いません。ソーシャルディスタンスを確保せず大声で叫ぶようなコンサートやイベントには行きません。マスクをせず集団で飲酒やカラオケなんてもってのほかです。職場の宴会も個人の判断で躊躇なく欠席できる社会になると思います。 

 飲食店等も、感染予防対策がしっかりしていることを売りにする所があれば、緩くしていることを売りにする所が出てくるでしょう。それをお客側でお店選びの判断材料にすることができます。感染予防対策が不十分だと判断すれば、一緒に行こうと誘われても毅然と断ります。このように、毅然と断れる人が認められる社会になると思います。

 私が健常者であったなら、早くマスクを外して自由な行動をしたいと思ったことでしょう。そして、今の私のような状況を推し量るなんて欠片もできなかったと思います。感染予防対策を徹底したい人と緩和したい人との分断を防ぎたいとする意見を目にするときがありますが、以前の私を振り返ると健常者が患者の状況を推し量るのは現実的に難しいと思います。

 ですから、回りがどうであれ感染予防対策を徹底したい人はするし、緩和したい人は止めていくことを認める社会になっていくのが自然なのではないでしょうか。会話による飛沫の拡散や付着、接触によるウイルスの付着などによって、清潔な状態が崩れてウイルス感染することを不安に思うより、コロナ渦前の自由を求める人にはその通りにしてあげたら良いと思うのです。

 ただ、そのためには互いのことを非難しない、マナー違反と言わないことが必要です。そして、マスクをせずに会話をしている人に不安を覚えたら、堂々とその場を離れましょう。会話をしていた人は離れた人を淡々と見送りましょう。職場や学校なら、感染予防対策への考え方に合わせて席替えをしても良いと思います。

 なぜなら、清潔な状態を維持してウイルスの感染を予防しなければいけない人は、清潔な状態の維持に無頓着な人とは同じ環境にいられません。ですから、感染予防対策を緩和する人とは、必要に応じて距離を置くことで自分の清潔な状態を維持する必要が出てくると思うのです。そして、それが許される社会でなければなりません。

 良いじゃないですか、感染予防対策で少しくらい分断があっても。同調圧力に屈したり、非難し合ったりすれば互いに不快な感情が湧き、対立に結び付くことでしょう。しかし、互いが別の道を行く人たちと捉えて、距離を置くことが認められる社会になれば、ストレスもたまらずに気持ちよく過ごせると思います。つまり、対立していなければ分断はOKだと思うのです。

清潔のマイルールとして整理をすると

 私は、今でも新型コロナウイルスに感染することが怖いです。しかし、コロナ渦前に孤独感や疎外感を抱きながら感染予防をしていた頃と比べると、周囲の皆さんに理解を得られる分、今の方が過ごしやすい気もします。だからこそ、白血病患者として前向きにこれからの感染予防対策について考えられるようになったのかもしれません。

 これまで述べてきたことを清潔のマイルールとして整理をすると、まず、清潔な状態を維持するために行っている感染予防対策を貫き通すことです。一方、感染予防対策を緩和する立場の人を認めることも必要だと思います。そして、互いのことを非難せず、必要に応じて距離を置くこともマイルールだと思います。これらのことを通して、感染症の流行後でも、重症化リスクのある人が堂々と感染予防対策をできる社会になって欲しいと思います。

#清潔のマイルール


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