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ひんしてもドンしない!?



「お金ないの私ー」
 仕方なく、仕事が派遣切りにあい、
 翌週から職業紹介所に通う恵子は、
 幼なじみで障害があるみちにこう告げる。

「近くの金貸し業行かにゃなんとも言えんでな」
「そんなの分かってるわよ
 無いなら無いって格好つけたかっただけ」

 幼子を捨て、自らの食すら貧する事知ってたか
 ら、突き返すのに面倒だと苛立ちドアを叩い
 た。

 これからもあの町戻らないから。
 預けた子供の親権は、
 向こうのカサギリが、
 持っている。 

 (別にどーでもいい事、もう終わりだから)
 
 パスタの製造工場で働いた後は、
 どうもみちに八つ当たりしてしまう。 
 疲れているからでない、
 何か凄く違和感を感じるのだ。

 TVは相変わらず政治の話してる。
(もうこの番組終わらないかな。)

 チャンネル変えようとする恵子は
 みちに聞いた。
「みちさん これ違うのにしていい?
 あたしなんか面白いの見たいの。」
 するとみちは、
「あー、良いわよ。ご飯まだかな?
 あたしや最近お腹空いてさ。」と言う。

 恵子は最近悩む事が多くなった。

 環境に適応はしてる。
 金貸し業の処に行くふりして、
 買い物に走るくせは相変わらずだけど。

 恵子は、少し落ち着いてきた。
「みちさん。実はこの前同僚。
 事故で、指無くしたの。
 レールに挟まって、気づいた人が止めようっ 
 て入ったんだけど。責任者いなかったのね。」

 「あれ、そりゃ大変だわ。」みちは言う。

 恵子は頷いて、返答する。
「月給に危ない仕事、もー話になん無いわよ。」

 みちにご飯食べさせないといけない段になり、
 恵子はとりあえず茹でたマカロニとケチャップ
 ピザを用意した。自分が今日作ったパスタだ。

(あーそれとあのママ友と合わせよう。
 話作ろう。TVのアニメ見ないと。。)

 恵子は、腹が膨れると寝てしまうみちの為
 床の用意もした。

(もしたらが存在するならー)
 
 1人思惟に耽りそうになるのを抑えて、
「あっとみちさん、
 この車のおもちゃ動かしてくれない。」と、
 ムリクリ言葉を絞り出した。

「あーそうそう
 一番いい、そこの感覚大事。。」

 恵子が隠れて記録してある
 このノートの画像は、
 誰にも見られたく無いもの。。

 そこに唯一の趣味である写真加工の、
 それも前夫との馴れ初めから今時分の生活
 までの経過を歩んだ人生の代償が注ぎ込ま
 れている。

 平たく狭い場所にあるこの団地は、
 市営住宅で、その建て替え期限をとうに
 過ぎている。

 二人は無言でマカロニを食べ終えた頃、
 いつもの時間に、
 ヤクルトの配達員がドアをノックしてきた。

 赤い服着たお姉さんは、いつになく上機嫌そうにそれを渡した後、「今日もお元気で、ありがとうございました」と告げた。洗濯物を干してる時、床の間に入るみちを尻目に、向かいのマンションを眺めると、若い夫婦が公園で子供と戯れているのを恵子は見る。そこは新しく出来たもので、恵子の年齢では到底買えそうも無いマンション。やはり写真だけはキチリと撮る。

「これだけよ、私に残ってるの」

 近くの川のせせらぎを聞くたびに、
 夜勤明けの虚しさとみちの無根拠な陽気さ、
 そして自分の境遇を顧みて、
 恵子は、もう寝ないとなとシャワーを浴びる。
 五十肩を押さえて、彼女の朝を待つ。

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須くおのれと周りが喜ぶなら
反転させる四角のなかの構造を
試して望めミチの架け橋
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画像)Stable Diffusion 1 Demoより作成

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